この企画では、リモートワークを推奨している企業の社長やリモートワーカーに、リモートワークを取り入れている理由、チームが機能する仕組みをお話いただきます。
池田 朋弘いけだ ともひろ
株式会社ポップインサイト代表取締役社長
2008年4月、Webユーザビリティのコンサルティングファーム(株式会社ビービット)に入社。ユーザビリティコンサルタントとしてネット大手ベンチャーなど多数のプロジェクトに従事し、「中古車一括査定の申込数1.5倍」等、多くの実績を出す。延べ300人以上のユーザビリティテストを実施。
週1回の集合ワークの日
課題は全部解決できましたか?
- 池田
今までお話した課題はある程度クリアできたのですが、その後もいくつか課題が出てきました。経験の浅いスタッフとそうでないスタッフがチームの場合は、どうしてもコミュニケーションの手間が摩擦につながり、後輩側が委縮してしまい、関係がぎくしゃくしかけてしまうんですね。この問題には「こういうことが起こりやすい」ということを常に意識することが大事だと思っています。ただ、問題の性質としては一度意識したら終わりでなく、継続して意識付けを行っていくことがより大切だと考えています。
他にも課題はありましたか?
- 池田
言葉に表すのはちょっと難しいのですが、繁忙期を中心に「なんとなく会いたいよね、直接会って愚痴の一つも交えながら仕事がしたい」という気持ちになるときがあることがわかってきました。
わかるような気がします。
- 池田
そこで、こうした声を契機に検討を重ね、現在では週1回の集合ワーク日を設けたり、食事会を定期的に企画したりしています。
週1回の集合ワーク日というのはどういうものなのですか?
- 池田
集合ワークの日は「対面でないとできない、やりづらいこと」を一挙にやってしまう機会として位置付けています。もちろんKPIや作業ボリュームの確認といったことも行いますが、コミュニケーションを活性化させるような取り組みもしています。
具体的に教えてもらえますか?
- 池田
まず「グッドアンドニュー」。これは、メンバー全員がその直近2、3日以内に合った「良かったこと」をみんなの前で話す、というものです。雑談の種のような位置づけでやっています。それから、親睦を深める目的でみんなでランチに行きます。ここでも雑談をよくしますね。あとは、私と個別に相談できるように面談時間を設けたりもしています。
仕事以外の話題も取り上げやすくなっていますね。
- 池田
そうなんです。こんな感じになっていまして、結構やること盛りだくさんなんです。「集まらなくても仕事できるのに、なぜ集まるのか」と思われるかもしれませんが、単に普段やっている定常業務を集まってやるだけではなく、普段やりづらい対面コミュニケーションを補う役割を期待して集合ワークを行っています。特に、ポジティブじゃない内容を含む相談なんかは、面と向かって出ないと話しづらいということもありますので、その吸い上げもこの場で行うイメージですね。
集合ワークは毎回場所が変わる、会うことを特別なイベントに
集合ワーク、かなり工夫されていますね。
- 池田
そうですね。メンバーから「やっぱり用はなくても会いたいよね」という声が上がったことは大きいですね。仕事ですから、嫌なことやしんどいことも起こるわけですが、そこで一人でうんうん頑張ってると、どうしても煮詰まってきてしまってよくないと。愚痴の一つでもいいたいし、他愛もない会話の中から業務改善の種が芽を吹くこともあったりしますから、そういう機会を完全になくしてしまうのはどうかなという考えに至りました。
先ほどのお話にもありましたね。
- 池田
あと、リモートワークのメリットを強調する半面で矛盾するようですが、やはり対面でないとなかなか「一体感」「チーム意識」は育ちづらいということもあります。リモートワークを徹底してから改めて気づかされたことですが、良くも悪くも、対面でのコミュニケーションは交換可能な情報量がとても濃密です。
一体感、チーム意識。新しいキーワードが出てきました。
- 池田
会社が歴史を重ねるにつれ、リモートワーク前からのスタッフばかりではなくなってきます。そうした新しいスタッフとも同じような一体感を保っていくために、ある程度は顔を合わせたほうがいいことは言うまでもないと思います。そして面白いことに、スムーズなリモートワーク推進のためにはその「一体感」「チーム意識」が不可欠なんですよね。
なるほど。
- 池田
抽象的な話になってしまうのですが、私は「一体感」「チーム意識」が土で、リモートワークはそこに根を張っている植物のようなものだと思っています。土が健全でないと、植物はうまく育ちません。健康な土を保つことができる方法であれば何でもいいと思うのですが、それが弊社の場合は「実際にたまには会って話をする、飯を食う」というところに落ち着いたということかなと思います。
もう少し詳しくお聞かせいただけますか?
- 池田
冒頭で話した「通勤をなくすことは大きな福利厚生」という発言とは少し矛盾してしまうかもしれないのですが、リモートワークという制度は「当たり前に存在するもの」ではありません。各メンバーが「誰に見られていなくても、自律して仕事をする」「コミュニケーションにあいまいな点を残さない」「誰かが見えないところで困っているかもしれないので、積極的に助け合う」というような意識をもつことでようやく成立するものだと考えています。
そうですね。
- 池田
こうした意識は「僕らは同僚で、同じミッションを持っている」「あの人が困っているなら、助けてあげるのが筋だ」と自然に思いあう関係があって、初めて自然に生まれてくるものです。そして、そうした関係は「面と向かって話す」ことなしに育まれることはおそらくないでしょう。先ほど話にあったようなプロアクティブさと思いやり、つまり土ですね。それがなければ、リモートワーク制度、これがそこに根を張る植物ですが、これを維持することは難しいでしょう。
確かにそうかもしれません。
- 池田
実は、集合ワークは毎回違う場所で行っています。ある時は五反田、この前は銀座、今回は渋谷、というような感じです。毎回違う場所なので、ほぼ毎回誰かが迷って遅刻します(笑)。そういう時に早く着いた人が迎えに行ってあげるとか、小さなことですが、助け合いが生まれるんですね。
なるほど。リモートワークという環境は「会う」を非日常として扱いやすく、それをうまく使えば人間関係というかチーム意識を刺激するきっかけにできると。
- 池田
おっしゃる通りで、非日常だからこそ助け合う必要が生まれてくる、というのはこれに限らずよくあることだと思います。意識的にちょっとした非日常を作ることが、人間関係を活性化するきっかけになります。リモートワークが日常になっている我々にとっては、その逆なる非日常は「会うこと」なんですよね。
それは面白い考え方ですね。リモートワークであることを逆手にとって会うことを演出する。その演出で人間関係を刺激し、一体感、チーム意識を強める。とても面白い発想ですね!勉強になりました。
場所の制約がない、新しい活躍の場を全国に広げたい
最後に今後の取り組みや将来の展望について教えていただけますか?
- 池田
リモートワークに取り組んでわかったのが、仕事の成果を考えたときに「場所」が問題とならないことです。一方で、「場所」が制約になって折角の経験、能力が生かせないという人たちが全国にたくさんいる。弊社としては、そうした方々に「これまでになかった新しい活躍の場」を提供できればいいなと思っています。
具体的にはどのような取り組みをされているのですか?採用面で何かあれば教えていただけますか?
- 池田
採用の基準として、基本的なお仕事の能力のほかに、「リモートワークを切実に必要としている人」「リモートワーク制度によってその人の生活の質が大幅に上がるような人」との相性はいいだろうなと考えて、実際に取り入れています。ポップインサイトはまだ規模の小さい企業で、メンバーのパイは限られていますから、その枠をできるだけ有効活用したいと思っていますね。より具体的には、リモートワーク時の就業環境を模した「チャット面談」などを試験的に行っています。
なるほど、会社と働く人の両方がウィンウィンになる取り組みですね!インタビューは以上になります。本日はありがとうございました。
- 池田
いえいえ、こちらこそありがとうございました。
取材後記
小さなきっかけから試行錯誤をしながら先進的なフルリモート企業に変身した株式会社ポップインサイト様。リモートならではの気配り、会う機会の演出など面白い発想で勉強になりました!今後も新しい取り組みを続けて、ますますご活躍されることを期待しております。
(リモートワークラボ編集部)
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