【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

【ボクらの働き方 第1回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

第13回:「もも前」経営と「もも裏」経営

仲山

僕、『フットボールネーション』という漫画が好きなんです。身体論がテーマになっていて、「もも前」の筋肉を使うタイプと「もも裏」の筋肉を使うタイプの違いに言及してるんです。下り坂を降りるとき、太ももの前に力が入りますよね? 太ももの前の筋肉の力を抜いて坂を降りようとしたら、止まれずにダーっと行っちゃう。だから太ももの前というのは「ブレーキ筋」なんです。でも多くの人は、もも前の筋力を鍛えてムキムキにすることで、持ち上げて、地面を蹴って、前に進もうとしてる。でも実はそれはブレーキをかけながらアクセルを踏んでいるようなものだと。逆に「アクセル筋」はもも裏なんです。もも裏を伸ばすことが推進力につながる。
『フットボールネーション』に出てくるサッカークラブは、「脚のきれいな選手求む」と言って、太ももがムキムキしてない選手であることが採用基準になるんです。ヨーロッパとかでも、超一流の選手はすらっとしてる。もも裏をちゃんと使った動きをしていると、そういう体型になる。もも前だけで頑張ってる人は、一流にはなれないという話が出てきます。
それって体の姿勢の話だから、経営の姿勢に置き換えるとまさに「もも前経営」と「もも裏経営」みたいに分けられる気がするんです。

倉貫

面白い(笑)。

仲山

独自の価値をつくらずにプッシュ型の営業で売り上げ伸ばそうとしてるのは、もも前っぽいですよね。

倉貫

数字だけ追い求めるのもも前ですね。

宇田川

なるほどー。

倉貫

主人公側はもも裏のチームなので、とても合理的なんですよ。その主人公のチームは試合が始まる前に円陣とか組まない。

宇田川

ほうほう。

倉貫

相手チームからは「なんで円陣組まないんだ?」と聞かれる。そうしたら「必要ないからだ」って答えるんです。もも前経営してるところは、たぶん根性とかで経営するんですよ。「営業目標達成!」とか「締め切り頑張れ!」とか「今期この数字なんとかする!」とかっていうのを、昔ながらの営業出身の社長がやってるのがもも前経営っぽいなと思って。

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仲山

号令かけてるんですね。

倉貫

でも合理的にやったら別にそんな無駄なことはしなくていいし、

仲山

あとは普段の練習でちゃんとコミュニケーション取れてるから、別に円陣で確認することもない。

宇田川

その、倉貫さんの前で引き合いに出すのはちょっと恐縮なんですけど、ダイヤモンドメディアって、経営理念を明文化して持ってないそうなんですよ。それは「俺は英語がいい」とか「カタカナが」とかになっちゃって、本質的な話にならないっていうのと、もうひとつは、やってることが大事だから、あえて持たないようにしたんですって。それとあそこは飲み会が少ないらしいんですよ。そういう話ですよね。

倉貫

そういう話ですね。

仲山

僕も楽天の最初の頃とか、会社の人と飲みに行った記憶とかほぼないです。

宇田川

仕事の時間の中で十分できている。

倉貫

そう。その最初の話で、飲み会というセレンディピティに頼ってない。頼らずとももう出来上がっているので。もし飲み会のコミニュケーションを救世主みたいに感じていたら、「飲み会行かなきゃ」みたいになるけど、そんなものはない。

仲山

ちゃんとクールダウンの時間を1日の中でとるイメージですね。楽天初期はネット接続がダイヤルアップで電話代がかかったから、23時からの「テレホーダイ」という定額サービスを使って店舗さんがみんなページを作り始めるんです。だからその時間になったら電話がじゃんじゃんかかって来る。そのピークが終わると、雑談タイムになるんですよね。そこでちょっとゆるめて、他の人がなにやってるのか聞いて、情報交換すると。

宇田川

それが健全ですよね。

仲山

それをお酒飲みながらやれば飲み会だし、ってことですよね。

倉貫

僕らの会社の経営会議は、副社長の藤原と2人でだらだらしゃべるだけなんですよ。いつやるかも決めてなくって、2人で大体いつもリモートで、夜10時くらいから繋いで話し始めるんです。ちょうど昨日の夜も、経営会議っていうかただの雑談みたいなもんなんですけど、僕らの会社は売り上げ目標ないし、数字も毎月お客さんからのストックしか入らないんで、その数字の確認をすることがないんですね。

仲山

もう決まってるから。

倉貫

そう。予測もなにも結果がもう出てるから、2人で話すのは「今度入ってくる人こういう人なんだけど、どうしてあげたらいいのかな」とか「この人入るにはもうちょっと時間かかるね」とか、今いる人の「この人は今どんな感じなのか」とか、社内の人の話ばっかりするんですよ。だらだらといつもするんで、時にはそこにビールやワインがあったりとか。もう飲み会なのか、経営会議なのか、雑談なのか、仕事なのか、わからなくて。でも共通してるのは、その時間が楽しいんです。たぶん僕らは遊んでるんです。経営って言いながら。だから僕らの究極的にやりたいことは、「遊ぶように働く」。そのキーワードが、僕らの会社の1番大事なところで、遊んでるのか働いてるのかわからない状態になったら、それやってる人が1番勝ちだなと思って。

仲山

調子いい状態。

倉貫

「成功」だとか、「幸せ」だとかよくわかんないけど、遊んでるように働いてる。外から見たら「こいつ遊んでるのかな」ぐらいの状態になってたら、それでいいじゃないかと。そこを目指してるし、できてるし、維持していこうと。

仲山

僕はチームビルディングの講座をやるときに相方がいるんですけど、少ない時は9ヶ月ぶりのご無沙汰期間があったんですよ。そうするとお互いに9ヶ月の間に見えてるものが変わったりするので、二人のチーム感がずれてくるんですよね。そうならないように定期的にコミュニケーションタイムを作ろうと言って、なんのテーマも決めずにとりあえず集まって、2時間か3時間くらいおしゃべりをして、「じゃあね」って帰る。でもそれをやるかやらないかがすごく重要で。

倉貫

やー重要ですね。重要。僕らも社外の方と新しいサービス立ち上げる時とか、社内の人だったらいいんですけど、社外の人だと利害関係が発生するので、お金持ち出すのか、どっちからちゃんとお金払うのか払わないのかみたいになるのがやっぱり嫌で、ちゃんとやる前に関係が必要だなと思います。

仲山

まさにまさに。

倉貫

やりたいなと思う人がいたら、声かけて、2週間に1回ぐらいずーっと雑談兼ブレストみたいなのを続けるんです。そういう人が何人かいるんですけど、そうしてると、最初は2週間ごとに会っても話すことなかったらやだな、と思うんですけど、いざ会ったらなんとなく話が続く。それを2週間おきに続けていって、だんだん面白いことを思いついてきたら一緒にやれるし、なかったらただ疎遠になって終わるだけなので。そこを「アライアンス!」とか「パートナーシップ!」とか、いきなり最初から…

仲山

ビジネスをやること前提みたいに。

倉貫

そうなっちゃうともうやりにくいんですよね。

仲山

今の話はまさにフォーミングの段階で相互理解を進めてみて自然にストーミングの意見交換に進んでいくときもあれば、ないときもあるっていう過程の話ですね。

倉貫

そうそう。進んでから、後から契約なりなんなりはすればいいだけで。

仲山

でもほとんどの人は最初っから契約しちゃって、そこからフォーミングを進めていく。

倉貫

「それがないと前へ進めない」って言われるとやりづらい(笑)

仲山

だからほんと「もも裏」の人たちって強そうに見えないんですよね。『フットボールネーション』には「なんであんなひょろっとしてるやつに俺は当たり負けしたんだろう」というシーンがよく出てくるんです。そういうプロジェクトの進め方も弱そうですもんね。

倉貫

弱そう(笑)。

仲山

ちゃんとしたプロジェクトプランナーみたいな人から見たら、ダメダメな感じじゃないですか。

倉貫

そうですね。

仲山

「もも裏」の人は、体がゆるんでないとダメなんですよね。

宇田川

なるほど。

倉貫

雑談してる方が信頼関係がなんとなく出来上がるんです。お互いのことよくわかってきた方が話が進みやすくなるんで。

宇田川

そうですよね。助走期間がないと。

倉貫

いきなり2人で「よーいどん!」って言われても、いやー…ってなっちゃう。

仲山

1回「もも裏」スタイルを身につけてしまうと、「もも前」の人とはうまく組めないんですよね。

倉貫

かっちりしてるなーって構えちゃう(笑)

仲山

力入ってるなー、と(笑)。そういう人とは「雑談しましょう」ともならないですけどね。もはや。

倉貫

「なりにくいですね。うちの会社は採用基準を「T・I・P・S」にしてますってよく取材で言うんですけど、あれ『フットボールネーション』からとったんですよ。

仲山

美しく勝つサッカーを追求したヨハン・クライフが作ったコンセプトですよね。

倉貫

クライフのトータルフットボール、大好きなんで僕は。その「T・I・P・S」、テクニック、インテリジェンス、パーソナリティ、スピードの4つを兼ね揃えた選手がいい選手なので、そういう選手をアヤックスが採用しているという話で。
テクニックは難しいテクニックじゃなくて、ボールをちゃんと止めるとか、パスができるとか、そういう基本のテクニック。インテリジェンスは、自分で考えられるか。ピッチに立った時に、監督の指示じゃなくて自分で考えないといけない。スピードはやっぱり当然必要。その3つだけだとただうまい選手なので、チームとして機能させるためにはやっぱり人間性が必要だよねってことで、パーソナリティ。合わせて「TIPS」が必要ですと。

仲山

ええ、ええ。そうですね。

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倉貫

これはプログラミングでも全く一緒で、うちのテクニックっていうのも、「難しい技術知ってます」とか「すごい複雑なシステム作ってました」よりも「きれいなプログラムがちゃんと書けること」。インテリジェンスはもちろんセルフマネジメントですね。指示命令しないんで、依存せずに自分で考えられるか。スピード感もとても重要で、100パーセントに近い状態にまで作ってからじゃないと人に見せられませんという人は、うちに合ってなくて、80パーどころか60パーぐらいで相談に来るぐらいのスピード感の人がやっぱりカルチャーに合ってる。で、パーソナリティもちゃんと見ると。これ見てますっていうのを「採用どうしてるんですか」って聞かれると答えるんですけど、元ネタは『フットボールネーション』です(笑)。

宇田川

たぶんそのTIPSって旧来のもも前経営の人たちも、全然違う意味合いで「TIPSだ!」って言いそうな気がする。

仲山

テクニックは、「振ったことは確実にやる」。

宇田川

パーソナリティは「ちゃんと真面目にやる」。

仲山

「気合いで頑張る」(笑)。

宇田川

スピードはもう「早い方がいいだろ!」っていう。

倉貫

そうですね。

仲山

やるためには寝ないでやれ!っていうスピード感と、

倉貫

根性でね。

仲山

もも裏派としては、違う方法を考えればできるでしょう、というところですね。

宇田川

「無理しない」でしたよね。

倉貫

そう、うちは無理しない。ずるい方が偉い。「チートしよう」ってよく言うんで。

仲山

「チート」って何語ですか?

倉貫

「チート」ってたぶんゲーム業界の用語なんですよ。裏技だとか、本当は使っちゃいけない技を使って勝つ!みたいなのが「チート」って呼ばれてて。

仲山

サッカー用語で言えば「マリーシア」。

倉貫

マリーシアです。ずる賢い感じで。愚直にやる人は、うちの会社合わないよと。愚直で真面目でって言ったら普通の会社絶対欲しいじゃないですか。でも「愚直で真面目な人はダメです」って言うんです(笑)。

仲山

向いてません、と。

倉貫

そうそう。ここからここまで行かなきゃいけないのに、壁があってこう回らなきゃ絶対行けないというところを、すぐ行けるところを見つけるとか。「だったらこっち行きましょう」みたいなのを思いつくか。

仲山

壁があったら「越えずに済む方法」を探す視点を持っているという事ですね。