リモートワークラボ

【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 仲山進也(楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員) × 宇田川元一(埼玉大学准教授)

自分らしく働く時代。働き方が多様化する中、誰もが自分らしい働き方を模索しています。だけど、自分らしさには正解がないから難しい。

多種多様な働き方をする人々を迎えて「働き方」について再考するシリーズ「ボクらの働き方」。

第1回は、圧倒的に「自分らしく」働いている3人をゲストに迎えて、教科書には載っていない働き方について自由気ままに語ってもらいます。


仲山 進也なかやま しんや

楽天株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社 代表取締役/横浜マリノス株式会社 プロ契約社員
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。1999年楽天株式会社へ入社。2000年に「楽天大学」を設立し、以来楽天市場出店者42,000社の成長パートナーとして活動中。初代ECコンサルタントであり、楽天市場の最古参スタッフでもある。2004年、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営に参画。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業フリー・勤怠フリーの正社員)となり、2008年に仲山考材株式会社を設立、eコマースの実践コミュニティ「次世代ECアイデアジャングル」を主宰している。2016年から「横浜F・マリノス」とプロ契約。

宇田川 元一うだがわ もとかず

埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授
東京都生まれ。立教大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師、准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学にて教鞭を取る。 専門は、経営戦略論、組織論。
主に欧州を中心とするOrganization StudiesやCritical Management Studiesの領域で、ナラティヴ・アプローチを理論的な基盤として、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行っている。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

倉貫 義人くらぬき よしひと

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長
京都生まれ。立命館大学大学院卒業。大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。「納品のない受託開発」という新しいビジネスモデルを展開。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。
ブログにて、人材育成からマネジメントまで、ソニックガーデンの経営哲学とノウハウについて、日々の学びを発信中。
http://kuranuki.sonicgarden.jp/

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第1回:遊ぶ?仕事する?

倉貫

まず今回の鼎談についてなんですが、全然かしこまった感じではなくて、なるべく自由に、楽に話し合えたら楽しいなーと思っています。仲山さんはサラリーマンという立場を含めて個人として自由なスタイルで働く人で、僕は経営者の立場で自由なスタイルで働ける会社づくりを実践してる。仲山さんとは立場が違うわけですね。宇田川先生は、自由な働き方とかイノベーティブな組織をどう作るかを研究なさってる。近い思想を持っているけど三者三様の立場から「働き方」やその周辺について語り合えたら面白いんじゃないかと。まあ、そういう集まりです。

倉貫

仲山さんは、最初宇田川先生とFacebookでやり取りしたんですよね?

仲山

そうです。共通の友人のコメント欄で「はじめまして」って。それで今日が初対面です。

宇田川

Facebookだけ見てると仲山さんって何してる人なのか全然わからないんですよ(笑)。あれ、サッカー関係の人なのかな? でも楽天? え? みたいな(笑)。

仲山

僕は楽天で「兼業自由・勤怠自由の正社員」をさせてもらっていて、自分の会社もあって、横浜F・マリノスとプロ契約をしています。楽天では、「出店者さんと遊ぶ係」です。単に足元の売り上げをどう伸ばすかということではなく、長い目で見てどうすればもっとよい商売ができるか、よい会社をつくれるか、ということをみんなでおしゃべりしています。

倉貫

その「遊ぶ」ポジションは仲山さん以外いないんですか?

仲山

あんまりいないです。

倉貫

そのポジションは自分から見つけたんですか?

仲山

僕が社員20名のときに入社してからしばらくは、みんなそんな感じだったんです。Eコマースの事業自体が誰もやったことのないチャレンジで、どうやったらいいか誰もわからないから、楽天スタッフも出店者さんも関係なくチームの同志として一緒に考えながらやっていました。それがだんだん軌道に乗って、組織が大きくなってくると、ヒエラルキー化していくんですよ。ちゃんと機能が分化していって、今まで一緒に全体をやってきた人たちが各部門に分かれていって。

倉貫

ありがちな…。

仲山

それぞれの部門に全体がわかっている人がいるうちは機能するんですけど、そのうち分かれたあとに新しく入社してきた人たちだけになってくるんですよ。そうすると、自分の部署しかわからない人が増えて、うまくいかなくなる。部門の最適が評価基準になってくるから、僕らみたいな分化前の人間が「出店者さんの視点」を踏まえて全体最適を語っても、話が合わない感じになってきたりしちゃって。

倉貫

みんながちゃんとはまっているのに、一人だけはみ出るわけじゃないですか。

仲山

はい。遠足の集合写真で休んだ人みたいなポジションです(笑)。

倉貫

今の社会のマジョリティでもある「集団に入りたい」、「集団でやりましょう」っていう最適化の世界から離れているっていうの、結構勇気がいるんじゃないですか?

仲山

だいぶいりますよ。

倉貫

ねえ。それでも平気だったんですか?

仲山

なんにも仕事してないって言われますもん。でも、一緒に活動している出店者さんはわかってくれているので。たぶん(笑)。

倉貫

まあ僕も前の会社でずっとそう言われていたので。全然平気なタイプなんですけど。(笑)。
僕自身は前の会社で好きなことばっかりやらせてもらってて、プログラムの腕は自分ではすごくいいと思ってたんです。フリーランスになって働いた方がお金儲かる、会社辞めて個人事業主になろう、もういつでも会社辞められるって思ってたんです。でも自分から辞めるのもあれだったんで、この会社で好きなことやり切って、もうダメって言われたら辞めようと思って。

仲山

極限までやってから(笑)。

倉貫

うん。それで新規事業やってみたり、新しいサービス作ってみたり、会社の資産をオープンソースにしてみたり、とにかくいろいろやってみたのに、全然ダメって言われない。「いい会社だ!」と思って。(笑)
でもそんなの会社の中でやってるのは僕1人で、同期からは「お前いいなあ、そんな遊んでばっかりで」なんて言われて。

仲山

全く同じ境遇です(笑)。

倉貫

「お前んとこのチームは俺たちの稼いだ金で遊んでばっかでいいな」って。「じゃお前もやればいいじゃん」って言うんだけど、「それは別にやりたくない」って。「じゃあ羨ましがるなよ!」って思うんだけど、まあそうやって好きなことでも、割とみんなやりたがらないんだな、と。

仲山

まあやりたがらないですよね。

倉貫

遊んでるって見られるけど、「遊んでる」って結構頑張ってるんだよって知ってもらいたいですよね。

仲山

そうそうそうそう。

倉貫

「労働」なのか「遊び」なのか「仕事」なのか。僕らからすると、「遊ぶのが仕事」。だから、労働っぽく見えないけど仕事はしてるっていう。世の中みんなそうなればいいのになって思ってる。

仲山

先日、うちに来客があって、息子が「みんなでこれやろうよ」って、「ドラえもんだらけ」というドラえもんの人形を箸でつまんで、どれくらい積み重ねられるかっていうゲームを持ち出してきたんだけど、これが難しくて、みんな全然できなくてつまんないから、「とりあえず手でやろうよ」とか言い出して。手でやれば箸使うよりはできるんです。それで慣れたらまた箸でやってみる、みたいなことをしていて。

宇田川

一旦ハードル下げたんですね。

仲山

遊びだと、やろうとしてることの難易度が高すぎてつまんなかったら、「楽しくできるところまで難易度を下げようよ」っていうのが自然に出てくるじゃないですか。で、それをやっているうちに成長していく、みたいなことが自然に起こりやすいんだけど、仕事になると「やれ」と言われたことをそのまま「つまんねーな」「できねーよ!」って思いながらずっとやってて、結局全然できないということがよくあります。だから、仕事を「遊んでるヤツ」と「遊んでないヤツ」ってそういう違いがあるんじゃないかなと思っていて。

宇田川

なるほど。全然物語が違いますよね。

仲山

だって「楽しくやること」が目的ですからね、遊びは。「今このプロセスが楽しいか」。

倉貫

遊んでるやつは自分で変えますよね。

仲山

変える変える。

倉貫

変えていいと思ってるからね。

仲山

楽しくなるように、随時チューニングするので。

倉貫

言われたことをそのまま言われた通りにやらなきゃいけないと思ってないから。

仲山

「最終的には目的地にたどり着けばいいのね」って。遊ぶ人は、自分の「楽しいな」って手ごたえのある道を探しながら目的地へ行こうとするけど、言われたことをやる人って、まっすぐそこへ行こうとして、壁があったら壁をどんどん叩いて壊そうとしたり、「壁を越えろー!」と言われて頑張って越えるけど疲れちゃう。遠くまで見回したら壁がないところもあるのに。

倉貫

遊びの楽しさっていうのは、成長するところが楽しくて遊んでるのかな。

仲山

それもあるんでしょうね。できなかったことができるようになると楽しいってありますよね。

倉貫

僕らプログラミングが仕事ですけど、プログラミングってほとんど遊びなんですよね。やればやるほど上達するんで。知らなかった関数を覚えたら、それで一個また難しいことができて、それを組み合わせたらまた難しいことができてってやりだすとのめり込んじゃって。「ずっとやってたい!」って思っちゃうんですよ。だからもう仕事してるっていうより遊んでるみたいな感じになるのは、そののめり込み感なのかな。

宇田川

今までのやり方の限界というか、ある種の挫折、今までをちゃんと打ち砕かれる経験っていうのも必要なんじゃないかなって思うんですけど。

仲山

どういう意味合いでしょう?

宇田川

倉貫さんと前に対談をした時にね、社内ベンチャーをやった時に、全然うまくいかなくて鬼軍曹みたいだったって話が出て。そういう時、今までの自分が常識として考えてきたものって相対化されるじゃないですか。「頼れる人がいなかった」って言ってたんだけど、本当にゼロだったのかなって。ヒントになるものとか、助けてくれる人とかそういう存在がいるとそこから解放されてすっと移動できるんじゃないかって思ったんですよ。

倉貫

うーんなるほど。

宇田川

つまり、みんな生きてるストーリーがあって、それが相対化されるチャンスってあんまりない。それから自由になるために、挫折というか、打ち砕かれるみたいな経験があれば、それからすっと移動できるんじゃないかと。でもそういうのは自分1人だとなかなか難しくて、挫折すると、ぼーんと当たってそのまま砕けちゃう。そこからこう、「ちょっと違うぜ」っていうところに引っ張るものとか、そういうのってなんなのかなって考えてるんですけど。

仲山

鬼軍曹マネジメントをやって、みんな心をポキポキ折られて、やる気なくなったり辞めていったりするというのは、楽しくもないし、効率も悪いし、なんのいいこともないなって思いますよね。

倉貫

そうそう。でもその時はそれしかやり方知らなかったの。社内ベンチャーをやった時はもはや転職みたいなもので、ずっとプログラマかシステム開発のマネジメントをしてた人間がいきなり経営者やるわけですよ。戦士としてはレベル40くらいだったんだけど、経営者としてまたレベル1からまたスタートなんで、スライムも倒せない状態にまた戻ってる。

仲山

またイチからかよ! 弱っ! みたいな(笑)

倉貫

そうそうそう(笑)。戦士の時のやり方しか知らないので、コンピューター扱うみたいに人も扱っちゃう。そうするとやっぱり全然人が動かないんです。みんな楽しくなくなってくるし、僕自身も仕事が楽しくなくなっちゃってたんですよ。そうなってくると、いろいろ好きなことやらせてもらったのに、好きなことを言ってたはずなのに、それを好きじゃなくなってたらダメだな、と思って。

仲山

つまんなくなっちゃうの、ほんとイヤですよね。

倉貫

そうなんですよ。でね、その時に誰かいたかっていうと、プログラマやってるチームとマネジメントやってるチームで分かれてたんですけど、プログラマの人たちはずっと残ってくれて、マネジメントやってた人たちがポツポツといなくなって、最終的に今の副社長だけが残ったんです。

宇田川

なるほど。

倉貫

僕はそれまで「経営者たるもの営業して数字を達成することこそが役割だ」と思ってたんです。いろんな本にそう書いてあったんで。
ところがある製品を売ってる時に、うちの副社長が営業して、「全然買ってくれそうにない」って言ってきたんですよ。でも「担当者はすごい困ってる。気が合って仲良くなった。この人をなんとか助けたい」と。「倉貫さんもう儲からないけどこの仕事していい?」って言うから、「いいんじゃない?」ってもうヤケクソで答えて。それでその困ってた人にずっとアドバイスしたりサポートしたりして、だいぶ経ってから、ようやく製品としてちゃんと買ってくれるって言い出したんです。大きな会社だったんで、入れてくれるだけですごい数字になって。その時初めて「あれ、どっちが先だったっけ?」って(笑)。
数字のために仕事してたら全然ダメだったのに、困ってる人のために頑張ってたら、結果として数字に跳ね返ってきたので、「入り口間違ってた!」って気づいたんですよ。

仲山

すごく大きな気づきですね、それ。

倉貫

いろんな本に「数字、数字」って書いてあるから、なんかもう「数字命!」みたいに言ってたけど、違うんだ、「お客さん命」なんだなってそこで気づいた。それでもう鬼軍曹やめたんです。だから僕ひとりっていうより、副社長がいて、お客さんがいてくれて、その成功体験があったから今があると。成功体験ですね。そっちでやった方がうまくいったんだっていう成功体験でスイッチできたんです。

宇田川

その前にはやっぱり失敗が積み重なっていったから、それが成功として自分で実感できたんですね。

倉貫

そうですね。それまでは成功体験じゃなかったんで。「やり方がうまくいかないなあ」っていう、確かに宇田川先生の言うところの「ある種の挫折」ですね。

第2回:「心理的安全性」が良いチームを作る

宇田川

今回鼎談のお話を頂いたので、仲山さんの「ジャイキリ」の本読みました。すっごく面白かったです。

仲山

ありがとうございます!この記事をご覧の方のために補足すると、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』というタイトルの本で、プロサッカー監督が主人公の人気マンガ『ジャイアントキリング』のシーンをケーススタディーにしたつくりなので、通称「ジャイキリ本」と呼ばれています。

宇田川

あれはね、まず4月から自分の大学のゼミでやりたいなと。

仲山

ああ、それは嬉しいです。どんなふうにでしょう?

宇田川

日本の大学生が就職希望先で選ぶ会社が、銀行と保険会社ばっかりだっていう記事が先日ちょっと話題に上がってびっくりしたんですけど、でも実際に日本の若者の統計を見ると、先進国の統計を取った国の中で1番「自信がない」んですよね。で、試しに以前勤務していた大学で、入りたての学生に、「大学で何したい?」って聞いてみたら、「友達を作りたい」って言うんですよ。
僕はこれ結構怖いことだと思っていて。

倉貫

怖い。

宇田川

はい。「友達」というなんとなくの集団の中に自分を埋め込んで、自分を決して「問われないで生きたい」って、そういうのって「自信がない」ということにつながってるじゃないですか。でもそういう人たちって、日本の大学生の中ではかなりマジョリティなんだと僕は思うんです。それで仲山さんの本を読んだら、そういう人たちに対して、どうアプローチしたらいいのかっていうヒントをもらった気がしたんですよね。

仲山

といいますと?

宇田川

まず、自分のある程度の規律をなんとなくつかんで、そこから意見を言い合うストーミングをして、自分たちで作ったルールでトランスフォームしていくっていう。ああいうプロセスをもっと学生に経験してもらいたいなって思ったんです。僕は大学の一教員として見てるんですけど、これはおそらく会社でも同じなんだろうなっていうのを間違いなく想像するんですよ。

仲山

ここも補足すると、人が集まってチームになるプロセスには4つのステージがあって、

(1)フォーミング(形成期):相互理解を進めて「このメンバーなら意見を言っても大丈夫かな」と思える心理的安全性を高める
(2)ストーミング(混乱期):メンバーが意見を場に出し合う。試行錯誤のため一時的にパフォーマンスが下がる
(3)ノーミング(規範期) :自分たちのやり方やルールの共有が進み、息が合うようになってパフォーマンスが上がる
(4)トランスフォーミング(変態期):チームがひとつの生き物のように、あうんの呼吸で動ける理想の状態になる

という考え方を大切にしています。

宇田川

組織づくりのテーマを扱うようになったきっかけってあったんですか?

仲山

僕は楽天が20人だった頃に入社して、その後数年で数千人規模に成長したんですけど、その頃に『あなたが伸びれば会社も伸びる』という本を読んだんです。何百人かのアメリカの起業家にインタビューした結果、企業の成長ステージを体系化しました、という内容なんです。最初の創業ステージはこんな状況で、そのうちこんな問題が出てきて、それを乗り越えると次のステージに進んで、乗り越えられないとこんな風にダメになるっていうのが書いてあって。それを読んだ時に、「日記だ!」って思ったんです。

宇田川

ああ、なるほどなるほど。

仲山

「書いてあること全部あった! しかもほぼこの順番で経験済み!」みたいな感じで。だからこれは自分の財産だなと感じました。たぶん今までの会社が30年とか40年で経験したことを、スピードが早い業界なだけに5年くらいで一通り体験できたということに価値があるなと思って。日替わりで成長痛を体験する感じだったので、まあしんどかったですけど。でもそれを、出店している店舗さんに伝えたいと思った時に、体験してない組織の問題というのをどう伝えていいのかわからない。

倉貫

難しいよね。

仲山

情報として知るだけでは、まったく自分ごとにならないんです。たとえば、『楽天ドリーム』という出店者向け月刊誌があって、毎号店舗インタビューで今までの経緯なんかを話してもらうんですけど、がんばっているうちに大体どこかで売り上げが急に伸び出して、受注がパンクして、寝られずに出荷をして、という失敗を経て、バックオフィスのシステムを整備して…というのが、お決まりのパターンなんです。でも、それを事前に読んだはずの人たちもやっぱりその後同じ道をたどるわけですよ。知っていても起こってみないと自分ごとには感じられないのが「組織」の問題の特徴だなと思って。

宇田川

そうですね。「未知の経験」は体験できない。

仲山

その点、「この商品の売り方を考えよう」というテーマであれば、「ではこの商品ページのラフ案を考えてみましょう」というグループワークでもすれば、だいたい大事なポイントを疑似体験できるんですけど、組織の問題を疑似体験してもらう方法がわからない。伝えたいメッセージはあるけど、伝え方がわからなかったんです。
そこで行き詰まっていた頃に、僕の今の相方であるチームビルディングファシリーテーターの長尾彰さんに出会いまして。彼が言うには、「自分は遊びみたいな体を動かすゲームを通して、チームで何かをやるための気づきを促すようなプログラムをやっている」と。
これは僕が求めていたものかもしれないと思って、自分の問題意識を話して、「コラボするのはありですか?」と聞いたら、「面白そうだからやりましょう」ということになって、そこから100時間くらい話し合いをした結果、今やっている3ヶ月間のチームビルディングプログラムができたんです。

倉貫

ほうほう。

宇田川

前に僕が倉貫さんと対談させてもらった時に、共通してるなって感じたところがあるんですけど…「ストーミング」ってすごくチームビルディングというか組織作りに大事なところだなって思うんです。でも大企業の人とか、そういう人たちと話してると、あれをすごく嫌がるんですよ。

仲山

まさに。一時的に混乱した状態になるので、効率重視や事なかれ主義の企業文化としては嫌なんですよね。

宇田川

そもそも名の通った大企業で働いてちゃんと給料毎月もらえてたら、自分の働きが会社の中でどう繋がってるのかってのがよく見えなければ問題をとりあえず起こさないっていうのが、その中で最適に見えるんだと思うんですよ。でも、本当はそれが本質的な解決ではないのもわかっているから嫌なんだけど、その状況を変えるっていうのはあまりにもハードルが高い。そういう問題に対して、僕自身から示唆がないかなっていうのをずっと思っていたんですよ。
それは「心理的安全って大事」という話じゃないかと。
でもそうするとね、次に必ず「心理的安全がなければできないんですね」って言われるんですよ。そうじゃないんだと思うんですよ。そういうものを「作る」の。

仲山

このメンバーなら自分の意見を言っても大丈夫そうだな、と思えるだけの「心理的安全性」の高い関係性を作ることこそが、フォーミングステージでやるべきことです。

宇田川

そうそう。じゃあ作るのを誰がやるのかっていう問題があって、たぶんそれにはプロセスがすごく大事なんだと思うんですよ。

倉貫

それぞれが思ったことをちゃんとできるようにする。そのためには「心理的安全」がないとできない。でもそれはそもそも誰が作るのか。

宇田川

そう。あといろんな人に言われるのが、ホラクラシーをやろうと思ったら信頼がなければダメだっていう。

倉貫

よく言われますね。

宇田川

いや、そうじゃないでしょと。やるから信頼が出てくるんでしょ。

倉貫

逆転してると。

宇田川

そうそう。で、みんなそうすると出てきた結果のものをツールとして自分の会社に導入しようとする。

倉貫

他の人から「倉貫さんの会社、それホラクラシーだよね」とか言われるんですけど、僕はホラクラシーってあとから知ったタイプなので。あとなんか最近また新しいなんちゃらっていう…

宇田川

ティールでしょ。

倉貫

あ、そう。「ティールですよ」って言われて、「ほお?」って(笑)。でもそういうのって、言われて「そうか」って思うだけで、じゃ「そっちをやりましょう」ってなっちゃうと、たぶん手段と目的を履き違えるんです。「信頼関係がないといけないんで、信頼を作りましょう」なんて、どっちが先なんだっけ?みたいな。

仲山

ティールというのはどういうことなんですか?

宇田川

まだ自分は勉強中です。最近よく出てきてますね。そういうのってどんどん出てきて、僕もその度に聞かれるんですけど、「ごめんなさい、よくわかんないんです」と。別に勉強する事自体はいいことだと思うんですけど。
でも、大事なことって、どういうツールがいいかじゃなくて、どういうプロセスでやるか、何のためにやるのかじゃないんですか?って思いますね。

仲山

「チームになるにはストーミングを超えることが大事」という話をすると、みんなすぐストーミングから始めようとするんです。まずはフォーミングを進めないといけないのに。

宇田川

なぜそこをすっ飛ばすのかっていう。

仲山

例えば社長が会社に帰って「ストーミングだ!」と言って、いきなりメンバーに意見を言わせようとしたりする。いやそれはストーミングではなくて、フォーミングの入り口で「社長ご乱心!」となっているだけですよって話をするんですけど(笑)。「お前ら意見を言え!」っていくら言っても、心理的安全性がなければそれはストーミングじゃないので。

倉貫

ご乱心(笑)

仲山

その点、倉貫さんの会社は、採用前にストーミングを超えられているように見えます。もし入社後に初めてストーミングが起こる流れだとすると、いよいよみんなが本音を言い出した時に、その場に一緒にいちゃいけない人が一緒にいたんだねっていうのが判明する場合があります。

宇田川

満を持して判明するんですね。

仲山

要は譲れないところがバッティングしてるのに、今まではお互いに言わなかったから一緒にいられた。でも「うちの会社の価値観ってこっち側なんだよね」と言われた瞬間に、「僕はいちゃいけない人であることが判明してしまった!」みたいなパターンです。それで辞めていくということって結構起きる。ここでチームが一回解散をするんです。で、残ったメンバーだと先に進めて、よりチームっぽくなれたりする。

倉貫

ひと山越えてね。

仲山

倉貫さんが言っている、「採用に時間をかけて」とか「うちの会社はこうだからね」っていう前提の説明を入り口のところでやっているっていうのは、後に解散しなくて済むように、入り口のところで一緒に越えられる人しか入れないようになっているってことなんですよね。

倉貫

はい。先に知っておいてもらって、本音を話す時に「あ、こんなんじゃなかった」って言わないようにしたいなと思っていて。

仲山

だから採用の時点で心理的安全性が高い状態を作り出せているってことだと思います。ほとんどの会社はそこまでやってないから、だからうまくいかないんですよね。

倉貫

これってたぶん、チームにもあるけど、個人にもありそうな感じがしてます。今の会社は割と成熟しているメンバーが揃っているので、もうストーミングが終わっている状態。

仲山

自分の中で自分のルールが確立していると。

倉貫

もうみんなそれなりにでき上がってるんだけど、やっぱり中途で入ってきた人は、価値観のところはわかっているんだけど、心理的安全が「本人には」ない。

仲山

まだ自信がないんですね。

倉貫

そうです。自信と信頼って紙一重っていうか同じようなもんだと思っていて、例えば社内だと割ときつめのことも冗談で言うんだけど、後から入った人は自分に自信がないから、その冗談みたいな言葉でちょっと傷つく、みたいなことがあるんですよ。でもそこで仕事をしていってもらって、自分自身が仕事ができるようになってきて引け目がなくなると割と強い冗談にも対応できるようになる。

仲山

「強めの冗談」ってどんな感じですか?

倉貫

例えば僕が、「プログラムができないやつはうちの会社としては全然ダメだ!」みたいな話をね。(笑)。そういうこと言うと、ドキッとするんですよ。「あれ、これ俺のこと言ってんのかな?」みたいなことを勝手に思っちゃう。

仲山

自分に自信が持ててないと、「やばい」と焦る。

倉貫

そうそうそうそう。

宇田川

そこで言ってることの意味がわかってくるっていうか。やっぱり言葉ってコンテクストの中で初めて意味付けされてくるものな訳で、そのコンテクストが全然違うとなると、言ったことがどう解釈されるのかがわからないんですごい怖いんですよね。だけどその「違い」が「わかる」、そこができてくるっていうのが「心理的安全」って言われていることの中身なんだろうなってすごい思うんですよね。だから、そのために、「意外に違うね」「違っても別にいいじゃない」みたいなのが、できてくるのが大事なのかなって、聞いていて思いましたね。

倉貫

最初におっしゃってた「友達作りたい」とか、その組織の中で「みんなと一緒でありたい」みたいなところって、心理的安全が欲しいみたいなのかっていうと、ちょっと違う気がしていて。

仲山

心理的安全というのはあくまでも、「自分が思っていることを言っても大丈夫だな」と思える状態なので、ただ「仲良くしてほしいから言いたいことを我慢する」というのは、心理的に安全「じゃない」状態ってことですよね。

宇田川

要するに、周りと「同じにしようとする」っていうのが「友達を作りたい」で、「違っていい」っていうのが「安全」な状態っていうことなんじゃないですか?

仲山

「みんなと違うこと言いますけど」と「言える」っていう。

宇田川

それは例えば冗談を言っても「ちゃんと受け取るだろう」と思うから言えるわけですね。

倉貫

そうですね。


第3回:「正しい飲みニケーション」とチームビルディング

仲山

心理的な安全性を高めるために、特に仕事の関係でやる時は、仕事「じゃない」話をするのが大事なんです。倉貫さんが前に「報連相より雑相」と言われてましたけど、まさに雑談。
仕事の話から入ると、お互いにポジショントーク的な立場があって、ちょっと違うことを言われると、「自分たちのやってることを否定された」みたいな風に受け取られやすいです。だから、「こいつ悪いやつじゃないな」と確認してもらえるまで、雑談をひたすらするのが基本なんです。まあそんな話をしてると、会社の中では「忙しいからそんな時間ないよ」と言われて何もできないことも多いんですけど(笑)。

宇田川

その手のことを言うとね、次に言われるのが「じゃあ飲みニケーションってことですね」。うーんちがうんだけどー…ってなる(笑)。

倉貫

そこね。

仲山

なんのためにコミュニケーション量を増やすことが必要なのかがわかった上で、「飲みに行こうよ」というのは、機能すると思うんですけどね。
僕らはチームビルディングの講座をやる時に、合宿をやって、この話を初日にするんです。それで懇親会に突入すると、みんな喋る意味を共有できた状態だから、すごくたくさん喋るんです。誰かが一方的に喋ってるのを周りの人がただ聞いてるって状況もない。お互いを知ることがこの場の目的だと共有されているので。そして翌日の雰囲気が、ギュッと距離の縮まった感じになります。飲みニケーションも機能するやつとしないやつがありますよね。

宇田川

うーんそうなんですよね。

仲山

上の人にゴマを擦るみたいな飲みニケーションもあるし。

宇田川

全然安全じゃないんですよね。

仲山

そうそうそう。無礼講ってキーワードがそれを象徴してますからね。「基本はあれだぞ。本当に言いたいことを言っていいわけじゃないぞ。わかってるよな」みたいな。

倉貫

飲み会もそうですけど、偶発性に期待しちゃってますよね。多分普通に飲み会やってもうまくいくチームってのもあるんですよ。

仲山

ありますね。

倉貫

飲み会やって、ちゃんとみんなわきまえて、チームビルディングの一環としてやるつもりの人たちが集まってやった時には綺麗にいきますよね。でもそれってハイリスクハイリターン。全然グダグダで終わっちゃって何もないっていう時ももちろんあるし。でも飲み会で成功体験がある人は、飲み会に頼っちゃうんですよね。実はもうちょっと分解して、「なんのためにやるの?」っていうのがないとダメなんですよねきっと。

仲山

だから、「チームビルディングとはこういうことか!」とわかった社長が、メンバーにも考え方を共有できると、そこの会社はみんなで飲みにも行くし、社員旅行とか運動会とかも「チームビルディング進むよね」となって、まさに「昭和か?」みたいな社内行事をやってるんですよね。そういう社内行事って、ストレスのたまるイベントとしてなくなる方向にありますけど、もともとはチームビルディングのためだったのに、いつのまにか惰性で開催されるようになって目的が見失われた結果じゃないかと思っています。

倉貫

うちの会社もやるんですよね、合宿とか旅行とか。でも合宿もやっぱりちゃんとわかって合宿しないと慰安旅行になっちゃうんですよ。

仲山

まさにまさに。

倉貫

うちの社内で、合宿は「やりましょう。やってもいいですよ」ってしてるんですけど、こないだちょっとした問題が起きたんですよ。うちは「師匠」「弟子」の制度でやってるんですけど、その「弟子」たちで合宿行こうって自分らで企画してやろうとしてたの。それ自体はいいことなんだけど、でもいろいろ聞いてくと、「何しに行くのか」というが特になくて、「僕はどこ行きたい!」って計画しようとしてた。「それはもしかしてただの仲良し旅行じゃね?」と。

宇田川

『合宿』とは違いますね。

倉貫

そうなんです。なので「それは『合宿』じゃないよ?」だけ伝えたんですけど。そういうことがあったので、「合宿」としてやる時は、「なるべく私を呼んでね」ってことにしました。普段なかなか話せない経営者の自分と12時間くらいずっと一緒にいるので、普段できない仕事の話ができていいよねと。それだったらやる意義がある。仲良し旅行は仲良し旅行で行けばいいんです。それは「懇親」。

宇田川

そこの壁を超えるというのが、どうやってできるのかなってすごい思うんですよ。ひとつ特徴的なのが「依存」なんです。
ヒエラルキーの構造って、もちろんこれは効率的に機能すればいいんですけど、事前にちゃんと正しい決定をしてないといけないって前提があるし、そうなると下の人は上の人の決定に基本的には従う、「依存をする」ということなんですよ。そうすると、そこの中で結局ある種の甘えの構造みたいなのができていくんですよね。

倉貫

上に委ねすぎると自由度は下がりますよね。

宇田川

たぶんチームが変わっていくときというのは、依存がなくなっているのではなくて、依存先が「増えている」んだと思うんです。結果自分も依存先のひとつになる。特定のところに依存していると、かなり支配関係が強くなるんです。そうじゃなくていろんなところに依存先ができるから、自由度が増すと思うんですよね。これを作っていくプロセスが大事なんだろうなって、仲山さんの本読んでてすごく感じました。

倉貫

自分で考えるのが大事ですよね。上司がいて「上司が正しい」だと、その「正しさ」の部分で思考停止してしまう。もっと自分で考えて動いた方が絶対いい。漫画の『ジャイアントキリング』もまさしく選手たちに「自分で考えろ!」と言ってますし。

第4回:「与えない」からできること、「与える」からできること

倉貫

実は『アオアシ』『フットボールネーション』が愛読書なんです。

仲山

おお、まったく一緒ですね!(笑)

倉貫

そうなんですよ。ずっと昔から。で、僕それいつかブログに書こうと思ってて。「マネージャーが読むべき3冊の本」は『ジャイアントキリング』と『フットボールネーション』と『アオアシ』だと(笑)。

仲山

まさにそうですね。この記事を読まれている方のために補足すると、3つともサッカー漫画で、『ジャイアントキリング』は主人公が監督で常識破りなやり方によってチームをつくっていく物語、『フットボールネーション』は身体論をベースに組織の動かし方とかバランスについてのヒントが満載、『アオアシ』はクラブユースが舞台で人材育成がテーマになっています。

倉貫

なんで僕がそれらの本が好きなのかっていうと、自分がマネージャーの立場なんで、立場が近いっていうのもあるんですが、選手たちに考えさえる、自分で考えさせるようにする、「育成とは何か」が共通してるんです。

仲山

わかります。

倉貫

『アオアシ』で主人公が悩む場面があるんですけど、そこでコーチが監督に「なんで教えてやらないんだ。教えてやったらすぐ解決するのに」って問い詰めるんです。監督はそれに対して「すぐに教えてしまうと、教えられることに慣れてしまうし、教えられたことは身につかない。自分で考えたことは自分の身になる。だから教えないし考えさせるんだ」って言うんですね。さらに、「簡単に教えちゃうのは指導者として怠慢だ」みたいなことも書いてあって。

宇田川

指導者を育成するような内容ですね。

倉貫

指導者としては、本当は指導するって教える方が簡単だし、手っ取り早く仕事できるようになる。でも、たぶん教えたところまでしか行かなくなっちゃうだろうなって思ったんです。だから僕もいつもメンバーたちに、なんにも教えないんです。「ホラクラシー」なんて言ってますけど、指示命令しない会社なんで(笑)。

仲山

自分で考える機会や環境づくりって大事ですね。

倉貫

このあいだうちの会社に中途で入ってきた人が、「会社の数字のことをもっと教えてほしい」と言ってきたんですね。基本オープンにしているので、みんな見えるんですけど、「普通にエンジニアしていたら、数字の意味がわからない。わかりにくいので、勉強したい」って。「なんで?」って聞いたら「会社の中で、何が数字的に問題になってて、どこに注力しなきゃいけないのか知りたい。それを知ったら自分のやるべき仕事が見えると思うんです」って、そんなことをこっちが言わなくても本人から言ってくるようになる。指示命令しないと、みんな結構真面目で、基本的に「なんか仕事しなきゃ」と思ってるんで、自然と探すようになるっていう。

仲山

あと、アイディアって制約条件がある方が出やすいですよね。制約条件がなくてアイディア出すのが一番しんどい。会社の経営状態がどうなっているのかっていうのを制約条件としてアイディアを考えましたっていうことですよね。

倉貫

そうです。

宇田川

「制約条件」の話で、ちょっと違うように聞こえるかもしれないんですけど、私、大学の教員なんで論文を書くんですけど、論文てね、締め切りがないと書けないんですよ。

仲山

本もそうですね(笑)。

倉貫

わかります。

宇田川

一応理論的にもそうだなって最近納得したのが、締め切りが「あんた書きなよ」とって言ってきてくれるんですよ。

倉貫・仲山

はいはい。

宇田川

あれね、会話のプロセスなんだってわかったんですよ。これに問われて、あなたはどう応答するかって、そこが問われているんです。でも、あんまりギリギリ締め付けてしまうと、ちょっとブラックな感じになってきちゃうんですけど。

仲山

僕は締め切りとか目標っていうのは「成長加速ツール」と位置付けています。成長加速に繋がらない目標は、目標ではないので。

倉貫

適度な目標は伸びるためには必要な刺激ですね。

仲山

「働き方の本を書きましょう」と言われてからもう2年ぐらい経っていて。内容を考え続けてはいたんですけど締め切りがなかったので、いつまで経っても始まるきっかけをつくれなくて、こちらからお願いして締め切りを作ってもらったんです。そしたら執筆し始めることができた。
あと、締め切りがないと「もっといいものを」とってなって、永遠に終わらないんで。

倉貫

なりますなります。でも最初から締め切りがあったらできないんですよね。機が熟してからの締め切りじゃないと(笑)。

仲山

そうですそうです(笑)。

倉貫

いやわかるわ。僕も本の企画いくつか走ってるので。でも全然書けないんですよね。でもいざ動き出すと、逆に締め切りがないと。

仲山

締め切りがあったほうがリズムが。

倉貫

そう、リズムがね。

第5回:信頼は貯金のように貯まっていく

倉貫

僕の会社だと、お客さんとの打ち合わせを毎週やるんですよ。顧問の仕事なのでシステム開発をするんですけど、ドカンと決めて持ち帰って3ヶ月後に「どうぞ」っていうんじゃなくって、毎週打ち合わせして、毎週ちょっとずつ見せる。毎週ちょっとずつ見せると、お客さんが「ここ違う」とか、途中なんだけど「こっちに変えたい」とか言ってもらえるんです。

仲山

最後に膨大な量を与えられるより、少しずつ見せてもらった方が相手も問題が見えやすいですね。

倉貫

こういうふうに小口化してやるっていうのが僕らの会社の価値観なんです。大きな会社だと3ヶ月後にドカンと締め切りがあって、みんなすごく頑張る。で、最後一気に追い込むみたいなのがあるんですけど、1週間単位だと、毎週わちゃわちゃするんですね。毎週締め切りだから。でも毎週わちゃわちゃすると、その「わちゃわちゃ」がもう普通になる。そうすると段々それが平気になって、リズムになるからちゃんとやるんですよ。これ「3ヶ月後でいいよ」ってなったら、最初の2週間くらい遊ぶ気がするんですよね。で結局最後「しんどいわちゃわちゃ」になっちゃう。1週間単位の締め切りでやってくと、当初信頼がなかったお客さんにも、なんとなく信頼してもらえるようになるんですよね。

仲山

「ちゃんと進んでるな」って。

倉貫

そうそう。大きな約束を最初から結んで、大きく見せて「すごい」と思われるよりも、それまで「この人大丈夫かな?」とお客さんに思われてたのが、毎週ちゃんと約束を守る、毎週言ったことをやるってだけで、信頼が貯まっていくんです。僕は「信頼貯金」と呼んでるんですけど、信頼って貯金みたいに貯まっていくので、実は小口化してちょっとずつ締め切りを守るのって、信頼を貯めるツールなのかなって感じてます。

宇田川

逆に大きな仕事をばーんと取るってなると、そこのところで信頼の偽装工作みたいなのをしなきゃならないのかなって思うんです。

倉貫

そうなんですよ。僕らの会社は与信管理をしてないんです。いわゆるお客さんとかパートナーさんとかと取引する時に、普通の会社だと与信管理、「この会社はちゃんとお金を払うんだろうか」とか、「この会社はどのぐらい続いている会社なのか」とかいうのをしなきゃいけない。でもそれって幻みたいなものを「本当に大丈夫かな?」ってチェックしなきゃいけなくて、嫌だったんです。ずっと。

宇田川

幻の信頼。なるほど。

倉貫

僕らは月額定額ってして、毎月お金をもらうんです。それでいつでも切れますよってしたら、与信管理しなくていいっていう奇跡が起きて。スタートアップのお客さんが多いんですけど、スタートアップって、SI屋さんに持っていったら仕事を断られるんですよ。「だってお前たち潰れるかもしれないし」って。でも僕らのところは来たらすぐ仕事するんです。なぜならお金を払えなくなったらそこまでだし、お金を払えるうちだけお仕事するってことにしてるから。そうやって信頼を小さく切って小口化すると与信管理がいらないんです。与信管理いらない世界の方がいいなって思って。

仲山

わかります。

宇田川

こっち側も嘘つかなくてよくなりますよね。無理したストーリーを向こうに言わなくてもよくなる。

倉貫

飾り立てなくてもやってることで証明するみたいな。

仲山

倉貫さんの今の話って、楽天の初期のビジネスモデルとほぼ一緒なんですよ。出店料が月あたり5万円と決まっていて、あとは出店者さんがやりたいようにやる。僕らはもちろん出店を継続してもらえるようなサポートをするんですけど。

倉貫

あとはお金のこと気にせずに、精一杯サービスするってことだけになりますもんね。

仲山

どうすればネットショップ運営が楽しくなるか、一緒に考えながら遊ぶ係をやってきました。

第6回:遊びはイノベーションにつながる

宇田川

遊べる人ってのは本当に強いんです。
強い人っていうのは、外側から入ってくるものを受け入れる余地のある、ある種の弱さみたいなものをちゃんと大事にしてる人だと思うんです。「リーダーは強くなきゃいけない、間違っちゃいけない、俺が言うことは正しくなきゃいけない」っていうんだと、無理なんですよね。仲山さんってそういうご経験あったんですか?

仲山

部下がいないので、とても弱い立場です(笑)。倉貫さんの話を聞きながら同感で、僕も出店者さんをサポートする仕事をずっとやってたから、「お客さんが喜んでくれている状態」がキモだというのは早い段階で思えたんです。だから出店者さんと接する現場に居続けるよう心がけていたら、会社の組織が大きくなるうちに僕のポジションがだんだんイボみたいな感じになりました(笑)。ほとんど外側と接していて、一箇所だけ会社とつながっている出島みたいな。それがさらにヴィッセル神戸に1年間お手伝いすることになって、1週間ごとに東京と神戸を行ったり来たりしていたら、イボが伸びたみたいなポジションになってしまいました。

倉貫

切れないの?(笑)

仲山

切れないけど、伸びてて社内から見たら遠くにいて会社にはいない感じですでも、そのおかげで、僕が会社にいなくても日常業務としては誰も困らない状態が確立してしまいました。

倉貫

伸びきっちゃったままなの?(笑)

仲山

最近は、つながりもプロジェクトベースなので、どちらかというと衛星のように回ってる感じかも。

倉貫

一応楽天の仕事はしてるんですか? 楽天の仕事って何?って感じだけど(笑)

仲山

兼業フリーになってから、知り合いからの仕事の依頼は断らないと決めて、いろいろやってみたんです。その結果、ネットショップやってる人を相手に講座をやる仕事って、恵まれてたんだなと気づきました。
例えば楽天外で同じ3ヶ月プログラムをやっても、3ヶ月終わった時点であまり変化が起こっていないということがありました。ネットショップやってる人だと、夕方ぐらいには「もう帰っていいかな!? やりたいことがいっぱい見つかっちゃったので!」となるんです。翌日には企画が立ち上がってたりとか、まあ1週間以内には何か変化が起こってるんです。3ヶ月同じメンバーでやると、ほとんどの人が何か変わってる。「やりがいあるな!」と思って。それでやっぱり軸足はネットショップやってる人と仕事しようと決めました。ただ、楽天の中でやるには小さすぎたり、費用対効果が見えなかったりして、オッケーのハンコがもらえないみたいなことってあるじゃないですか。

倉貫・宇田川

(笑)

仲山

例えば理念を作る講座をやりたいと思った時に、「それをやったら流通総額は何パーセント上がるの?」とかいう話になってしまうんですよ。だからそういうのは外でやるんです。誰のハンコももらわずにできるから。それに参加した出店者さんが伸びていくと、結果的に楽天の売り上げが伸びることになるので、僕にとってその活動は「楽天の仕事」なんです。会社の人は「楽天の仕事やらないで何やってんだろ」と思ってるかもしれませんけど(笑)。出店者さんたちはそれをわかってくれてるから、それでいいかなと思ってます(笑)。

宇田川

宇田川:なるほどなるほど。
バーゲルマンという戦略論の研究者が言ってることなんですけど、もともとはアイデアがあって戦略ができてくるんだけど、その戦略がちゃんとできると、いわゆる「優秀な」経営者の人はその新しくできた戦略にフォーカスして、効率化を推進していくわけですよ。そうすると戦略がどんどん硬直化してきて、現場もあんまりアイデアを出さなくなる。アイディア自体も、自分で自由に考えるんじゃなくて、今ある戦略にフォーカスしてるものかどうかっていうプレッシャーもかかってくる。よしんばアイデアが出てきたとしても、ミドルの人が上に怖いから言えない。そういう状態を「共進化ロックイン」って言うんです。

倉貫

アイディア自体が出てこなくなりますね。

宇田川

そう。要は組織の中で除草剤が撒かれるようにアイディアが淘汰されてしまう。そのバーゲルマンの理論を使って、もう一段コンパクトにわかりやすくしたのがクリステンセンの「イノベーションのジレンマ」です。組織が硬直化する時どうしたらいいのか、という問いに、「別働隊をちゃんと作りましょう」って話が出てくるんですよ。仲山さんの話はまさにそれだなと思って。
例えば、「どんどんアイデアを出せ」と言って、アイデアが出てきたら「それって百億円の事業になる?」と言うようなこと。それはその段階ではわからないですよね。逆転満塁ホームラン以外は出塁することを認めない、けれども「打席には立て!」っていうことですよね。そういう淘汰環境から自由なところで活動する、イノベーションを作るってすごく大事だと思うんですよ。別働隊がない組織ってほとんどイノベーションのアイディアまで潰しちゃうでしょ。

仲山

はい。

宇田川

たぶん仲山さんがやってるのってイノベーションを作るってことですよね。

仲山

そうですかね。それが本当にイノベーションにつながってるかはわからないですけどね。

倉貫

やってる本人たちはイノベーションとかあんま気にしてないんですよ。

仲山

そうそうそう(笑)。みんなと違うことやってるなっていう自覚はありますけど。
この前『ひらめきはカオスから生まれる』って本を読んだんです。アメリカ軍などで仕事をしている組織論の専門家人が書いているもので、その人の前著が『ヒトデはクモよりなぜ強い』ってタイトルなんですけど。

宇田川

ああー!

仲山

クモっていうのは頭を潰したら死んじゃうけど、ヒトデは切ってもまた生えてくる。それはヒエラルキー組織と、そうじゃないネットワーク型の組織の例えなんですね。で、アメリカ軍はヒエラルキーだったけど、ゲリラ戦で痛い目にあって、「俺たちこのままじゃダメだぞ」と考えてネットワーク型に近づけようとしてます、という話で。そのあとの本で、その人が、イノベーションを生み出すようなカオスを「穏やかなカオス」と言ってたんです。その「穏やかなカオス」という表現が気に入りまして。

倉貫

柔らかい言い方ですよね。

仲山

「ストーミングやりましょう」と言うとみんな怖がって進もうと思いにくいんだけど、「穏やかなカオス」と言ったら「なんとなく大丈夫そうかな」と思ってもらいやすそうだなと。その「穏やかなカオス」には、「余白」と「異分子」と「計画的偶然(セレンディピティが起こりやすい環境)」の3つの要素が大事だと書いてあって、すごく共感したんです。やっぱり忙し過ぎて精神的・時間的に余裕がない人たちって今までのことをずっとやり続けるから、いつまでたってもイノベーションは起こらない。

倉貫

働かないアリ、重要ですよね。

仲山

働かないアリと言えば、この前、コーネル大学の研究者・唐川靖弘さんから「ウロウロアリ的人材」を研究しているって聞いたんです。働きアリみたいにラインに入ってないでウロウロしてるアリが存在しますと。英語では「Playful Ant」。要は遊んでいるアリなんですけど、それが実は組織の維持にとって大事な存在なのだそうです。

倉貫

うちの会社で言うと「部活」ですね。遊ぶための時間を絶対社内で作るんですけど、前の会社で「あいつ遊んでばっかりだ」って言われるのが嫌だったので、もう全員で働くし、全員で遊ぼうと思って。社内で「あなたたちは遊ぶ部署、こちらは働く部署」ってしちゃうと対立になっちゃうんで、社員平等に働く時間と遊ぶ時間を与えて、「遊ぶ時間で遊びましょう、働く時間で働きましょう」と。で、うちの会社は頑張ったら働く時間短くていいよってなる。そうすると遊ぶ時間が増える。うちの会社で一番かっこいいやつは誰かっていうと、一番遊んでる奴なんですよ。「いやーすげー働いた!」って言うよりも、働いた結果遊んでるっていう奴の方が「偉い」。「偉い」ってするんで、若者たちは「あの遊んでる先輩みたいになりたい」と自動的に思うんです。

仲山

その話、うらやましいです。今僕はほぼ100パーセント遊んでるような状態ですけど、それが会社ではかっこいいとされていないので、ただ遊んでるっていう…(笑)。

倉貫

この会社では僕も100パーセント遊んでる人なんですよ。社長が一番遊んでるのでいいなって思ってるし、うちの副社長がよく「倉貫を暇にするのが自分の仕事です」と言ってくれていて。副社長の役割分担としては、急いでやらなきゃいけない仕事は全部やる、なんです。で、「この人を暇にしたらなんか面白いことやるから」と。逆に暇にしないと、ちゃんと仕事しちゃって…

仲山

イノベーションが起きない。

倉貫

そう。「暇にしたら慌ててなんか面白いこと考えつくだろ」って暇にしてくれるんだけど、たまにプレッシャーに感じる時があるんです。「すっごい暇になってる! 暇だなー。なんかしなきゃ」みたいな(笑)。

仲山

余白ですね。がっつり余白を作っておくとがっつり新しいことが。

倉貫

僕、スケジュール帳は余白の方が多いですよ。

仲山

僕なんかもうスケジュールの中に一個でも予定が入ってたら「ああー、予定入ってるー」って(笑)。なんにも入ってない日、ようやく「あ、仕事できるな」みたいな感じです。といっても、入ってる予定も遊びの打ち合わせなのですが。

一同

(笑)

第7回:「遊び」は「評価」できない

宇田川

ソニックガーデンの場合だと人事評価で差をつけないんですよね、確か。

倉貫

そうですね。評価しないです。

宇田川

それも大きいのかなって。やっぱり人事評価で差をつけるってことは、今流行りの言葉で会社的に「忖度」して、そこに合わせるってことなんですよね。それがいい、価値なんだって言う風に。そうすると評価する側にどうしても依存するようになっていくわけなんです。だって権力を持つんだから。そういうふうになる仕組みになってるんですよね。

倉貫

評価するっていうことは「計画してる」ってことですよね。

宇田川

そうそうそう。

仲山

あと、社内の表彰とかあるじゃないですか。あの手のものって、上司が部下に「これちょっとしんどいけど頑張って」と言って、その人が頑張ってやった場合にもらえることが多いなと思って。上司が出したお題じゃないことをやった人が表彰されるシーンが増えるとワクワクしてくるなと思うんですけど。

倉貫

戦国時代のね。

宇田川

論功行賞ですよね。そこにやっぱり遊びってあんまり生まれる余地は…

倉貫

評価しちゃうと遊び得ないですよね。遊びを評価しづらいですからね。

宇田川

そうですよね。だって事前に決まってますもんね。それをどれだけこなせるかっていうところの関係性がずっと再生されますもんね。ちなみに仲山さんって、会社の中で業績評価って上司…

仲山

人事考課もフリーなんです。

宇田川

え、人事考課フリーなんですか(笑)。

倉貫

放し飼いですよね(笑)。

後半は会食しながら。

仲山

放し飼いです。「何してんの?」とか定期的に連絡をくれるような人もおらず。だから、社内フリーランスみたいな感じです。仲山に仕事を依頼するときは個別契約を都度結んで発注する、みたいな覚書が雇用契約にくっついてるんです。
僕は「楽天株式会社と契約している」と思っていて、どんな部署の人とでも仕事をするので、まさに社内フリーランスです。仕事の依頼がなくて社内失業していることもあります。

倉貫・宇田川

(笑)

仲山

人事考課がないので、給料はその契約になった時からずーっと据え置きです。この分ぐらいはどんな形でもいいから楽天に貢献するというのが自分の中の評価基準としてあります。店長さんたちに遊んでもらいながらコミュニティをかき混ぜるような活動をしていると、僕がハブになるようなカタチで店長さん同士のつながりができていって、みなさんの人生がちょっとプラスに変わって、「楽天コミュニティ、楽しいな」と思ってもらえたらいいなと考えています。

倉貫

お金のことを気にせず働く。お金のことを気にしないのが一番のお金持ちなんですよ。

仲山

そうですね。お金のことを心配することのないまま死んだ人が一番いいなと思います。

第8回:「ルール」と「伝統」が「不自由」を作る

宇田川

今ってすごく不自由になってる気がして。それってどうしたもんかなって悩んでるんですけど。

倉貫

不自由っていうのは?

宇田川

例えばルールがどんどん整ってくると、そこから外れたことができなくなってくるじゃないですか。最初楽天を立ち上げた時とかも、すごく自由だったでしょ?

仲山

何も決まってないですからね(笑)。何かを決めても翌月には合わなくなってるようなことも多かったですし。

宇田川

だけど今、学生って楽天で働きたいと思ってみんなたくさん志望するわけじゃないですか。そこに染まりたいと思ってくるわけですよね。会社も大きくなってくればプロトコルもちゃんと整ってくる。今、日本社会全体がそんな感じになってるんじゃないかなってすごく思うんですよね。そこから新しいものを作るって言ったら外側から作るしかないんだけど、外で作っていくものがちゃんと育っていくのかっていうところもひとつのテーマだし、結局邪魔しちゃったりとか、うまく生かせなかったりとか、そういうところをどう考えたらいいのかなっていうのが、最近の僕の問題意識なんです。

仲山

社内のルールみたいなところで言うと、ある時、みんなの日報メールを眺めてたら、まだ入社何ヶ月かのメンバーが、「今日はみなさんにご迷惑をかけて申し訳ありません」と謝ってたんですよ。自分は良かれと思ってやったことがその部署のルールとは違ったみたいで、迷惑をかけて怒られたみたいなんですけど。「このやり方はこの部署の伝統的なやり方なので、それが理解できない私の理解力不足でした。申し訳ありません」とか書いてある。でも、その部署の「伝統的なやり方」と書いてあるのって、2年前ぐらいから始まった新しいやり方だったんですよ(笑)。

倉貫

2年の伝統(笑)。

仲山

おそらく2年経つあいだに制度疲労が起こって、新人からすると「なんかおかしいな」と思ったのかなと。でも、その部署は社歴の浅いメンバーばかりだったから、「伝統」みたいな扱いになっていたのでしょうね。ルールって、制定された立法趣旨をちゃんと把握してないと、状況がコロコロ変わっちゃう環境だと弊害が大きいと思います。

倉貫

本質が見失われますよね。表面が残って。

仲山

社内ルールって、そんなものが多いなっていうのはすごく感じます。

倉貫

仲山さんにぜひ聞きたいのが、組織としてそうやってルールができたりそれが伝統になったりって、ほっとくと人間はそういうふうになっちゃうもんなんですか?  みんなルール作ろうとか、伝統にしようとか思ってやってるわけじゃなくて、勝手にできてるような気がして。人間の特性として、集団の特性として、集まったらそうなっちゃうもんなのか、どうなのかって。

宇田川

それがまさにマックス・ウェーバーが問題とした点なんですよ。ウェーバーの有名な『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』という本があるんですけど、プロテスタンティズムの精神から、資本の蓄積が進んでいって、資本主義が育っていきました。でも、1回その制度化が起きてくると、今度は制度を受け継ぐようになってくるんですよ。つまりプロセスが抜けて、形だけが残っていく。最初の方に話したホラクラシーだとかティールだとか、新しい概念っていっぱい出てくるんだけど、「それがどういうプロセス、葛藤の中で生みだされたの?」「なんのためのものなの?」っていう大事なところがスコーンと抜けてくわけですよ。で、みんな形を守ろうとして、どんどん不自由になっていく。これは近代ってものの限界なんですよ。もっと言うと、話し言葉が書き言葉になった人類の抱えてる問題。

倉貫

うーん。

宇田川

例えば音楽だって五線譜ができたからいろんなところに広まるし、グーテンベルクが活版印刷を開発したから、文書が一部の聖職者だけじゃなくて大衆に広まるんだけど、広まるために必要だったもののネガティヴな側面が出てきてしまう。それをどう乗り越えるのかっていうのが、たぶん大事なんですよね。もう1回「これはこういう意味なんだよ」っていうのを語って聞かせるやり方もあるんだけど、限界がある。それならもう1回作るっていうのはどうかなと思ってるんですよ。

倉貫

説明されるよりは作るプロセスをやり直す方が手っ取り早そうですね。

宇田川

日本って19世紀の半ばくらいに近代化して、ずーっと東京を中心に大企業・大財閥系・東大・中央官庁とかを中心にヒエラルキー作ってそれで効率化してきたじゃないですか。「これが国だ」「これが社会だ」「これが企業だ」ってみんな思ってるんだけど、それはその時必要なものを葛藤の中で勝ち取ってきたものなので、大事なのはその形じゃない。それを作っていくプロセスなんですよ。もっとプロセスを大事にしてくれっていうのはそういう意味で言ってるんです。「どういう正解がありますか?」って僕も学者だから訊かれるんですよ。知らないんだけど!(笑) よっぽど仲山さんとか倉貫さんのが詳しいんだけど、なんかそういうもやもやをずっと感じててね。

倉貫

経営閾値になった瞬間「伝統」になっちゃう。広まりやすいんだけど、残っちゃって変化しづらくなるっていうか。

宇田川

そうなんですよ。

仲山

チームの成長法則でいう「フォーミング・ストーミング・ノーミング」って、ルールの話で言うと、第1ステージのフォーミングが他人のルールで動く「他律」のステージ。ボスの指示命令や、決まった規則で動く。第2ステージのストーミングで試行錯誤を経て成功体験ができていって、第3ステージのノーミングで自分たちのルールができる「自律」のステージになる。ルールの功罪みたいな議論も、第1ステージ的なルールと第3ステージ的なルールとで全然違うんですよね。それを混同すると、話が噛み合わなくなります。前者はボスが組織をコントロールするためのルールで、後者は自分たちが夢中で居続けやすくするためのルールなので。

宇田川

仲山さんの本にも、最後は「1回トランスフォーミングが起きたからってそれで終わりじゃないよ!」って書いてあるじゃないですか。1回それでみんなで自律的に作る。でも形骸化されていく。だったら「これダメだよね」ってとこでもう1回壊す。ここがすごく難しい。

仲山

それこそ「伝統」みたいなものを「自分の代で絶やすわけにはいかない」みたいな、変な文化がありますもんね。

倉貫

ありますねー。

仲山

「何代目」かの人と話していると、「やっぱり会社の目的って存続させることだよね」という言葉が出てくることが多い気がするんですが、創業した人って、「別に俺の代でなくなってもいいんだけどさ」みたいに言いますよね。

倉貫

引き継いだ人が伝統を守りたがるのかな。

仲山

たぶん。

倉貫

最初に作った人はそんなに「伝統」にしたいと思ってない。

仲山

伝統なんてないところから始まってますもんね。

第9回:組織の境界線を緩めて自由なコミュニティに

仲山

会社のサイズが大きいと、チームになりにくいです。重厚長大産業は、大きい工場が必要だから会社を大きくしないといけなかったと思うんですけど、今はそんなに大きな会社が必要ない仕事の方が多くなってる。なのに会社だけどんどん大きくしていこうとすると、なおさらフォーミング状態から進めなくなってしまいます。

宇田川

「成長してるのか膨張してるのか」って誰かが言ってたんだけど。

仲山

それ僕、本に書いたことあります。『あのお店はなぜ消耗戦から抜け出せたのか』という本。

宇田川

本当ですか? 会社として、組織として成長するっていうのがどういうことかってことなんだろうと思うんですよね。
例えばソニックガーデンとか、他のとこでも「こんな面白い会社があるんですよ」と話題に出すと、「それは小さいからできるんですよ」って言われるんですよ。で、「うちの会社はどうやって変えたらいいのか、何からやったらいいんですか?」って。

仲山

「小さくしてください」(笑)。

倉貫

僕も言おうと思った(笑)。まず小さくしよう!

仲山

「バーチャルでもいいから小さくしてみようよ」って言えばいいですよね。

倉貫

大きいままで、大きい状態をそのまま変えるって難しいですよね。

仲山

難しいです。喋ったことない人が1人でもいたら、心理的安全性がいつまで経っても確立しないですもんね。しかも評価してくれる上司が、「このプロジェクトは俺が責任持つから」と言ってくれればいいけど、その上の人がまたそれを評価するみたいになったらもう、ね。直属のボスがいいと言ってもダメな場合もあるなんて、心理的安全性がなさすぎて、もう何もできなくなりますよね。

宇田川

でもそこが直属の上司の頑張りどころですよね。

倉貫

うちも今チームで28人いて、その28人は知らない人がいない状態でやっていけるけど、この先どうしていくのがいいかなって思ってるんです。
僕らの会社は売り上げ目標を立てないから、人を採用するKPIもないんですね。いい人がいなければ入れない。逆に言うと「いい人がいたら入ってもらえばいいや」っていう発想なので、採用はものすごく厳しくしてるんだけど、乗り越えてきちゃう人がいるんですよ。

仲山

現れてしまうんですね、人材が。

倉貫

そう。きちゃった!みたいな(笑)。そうするともうお断りできない。そうやって徐々に増えてきたので、この先も同じ感じで、KPIにはしないけど、ほっといたら増えて…辞めないので人数は増えますよね。これをどうやって維持するのか?バーチャルに部門を分けるとしてもどう分ければいいのか。分けて社員たちは違和感を感じないのか。

仲山

僕がその辺で思うのは、チームって、プロジェクト単位で第1段階から進んでいって、そのプロジェクトが終わったら解散をする。だけど、ストーミングを超えて「俺たちチームだよね」となった人たちが解散をすると、心理的なつながり、信頼関係が残って、コミュニティができる感じがあるんです。「またなんかあったら一緒にやろう」と。会社って、この箱の中に「同じ価値観で働ける」、言い換えると「ストーミングを超えやすい」人たちがたくさんプールされてる場所、と捉えるのがいいかなと。濃いコミュニティみたいな感じですね。何かプロジェクトを思いついた人が「こんなことをやりたい人、この指とまれ」って募集をかける対象となる人材がたくさん集まってる場所。世の中の他のところで募集してもなかなかいい人が集まらないけど、会社内からなら集めやすい。
だから釣り堀じゃないですけど、一緒に遊べる人がたくさんいるコミュニティ、みたいに捉えて、仕事はプロジェクト単位で考えるのがいいのかなって。

宇田川

絶対そうです。

倉貫

じゃあそのコミュニティが100人ぐらいになったとしたら、やっぱり知らない人が出てくるけど、それはまあいいってことですよね。その中にチームがあり、プロジェクトがあって、プロジェクトの中にはもちろん知らない人がいたら仕事しづらいんだけど…。

仲山

そうそう。そうすると、プロジェクトで出会って「仲間」になりました、みたいな関係が社内にいっぱいできる。

倉貫

そのコミュニティの外側っていうのはやっぱりあるし、コミュニティの中にプロジェクトはあるし。
確かにその感覚は最近僕も持っていて、昔10人ぐらいだった時には、チーム=会社の感覚でやってきたんですけど、徐々に増えて、今はもうこれをワンチームというにはちょっと…。

仲山

重要な感覚ですね。

倉貫

ワンチームであらねばいけないのかっていうところが、たぶん僕がブレイクしなければならないところなんです。逆説的に言うと、「社員同士は全員知ってないといけない」みたいな風潮がやっぱりあるんですよ。とはいえコミュニティだから、そこは知らない人がいてもいいんじゃないかと。でも、普段毎日一緒に仕事する人たちの中に知らない人がいたらいけないので、そこは強固にやるんだけど、もうちょっとゆるいところもあっていいっていう風に最近思い始めて。実験的に採用を2段階に分けたんです。

宇田川

正社員の前にひとつ段階を置いたってことですか?

倉貫

そんな感じです。うちの会社は採用自体をすごく厳しくしていて、「ソニックガーデンに入る!」「社員としてホームページに載る!」って言ったらもうめちゃめちゃ厳しい。でもグレーゾーンを作ろうかなと思ったんです。今28人の人がいるソニックガーデンとしての世界の外側に、一緒に働いてもいい人、という領域を作ろうと思って。でもそこには社員としての採用ほどではなくともそれなりに厳しい入国審査があって、それを通り抜けてもらうんですけど、ホームページには載らないし、名刺も持つわけじゃない。でも中の人たちと一緒に仕事する。例えば何か新しい案件をこなす時に、そのグレーゾーンにいるデザイナーさんと組んだりとか。

仲山

案件によって手を貸してくれるいろんな職種や強みを持ったパートナーがいる形ですね。

倉貫

ソニックガーデンは職種としてはあえてプログラマしかいない会社にしてるんですよ。その方がカルチャーが強固になるし、みんなの気持ちも合うし、キャリアパスもシンプルだから。でも仕事していく上で、デザイナーさんがいたり、ライターさんがいたり、我々の周辺にね。その人たちもある意味会社みたいなもので、コミュニティに入ってもらってやっていくんです。しかも僕らの会社、基本的に給与一緒で、固定給だし、ベーシックインカムなので、ま、国みたいなもんだなと。国とか町みたいなもんじゃないのかなって、会社って。

仲山

「国外」の人たちとチーム組んでもいいですよね。

倉貫

そうそう。この入国審査過ぎればもうオッケーで、バーチャルの国みたいな。でちゃんと自分で稼ぐ分だけ稼げば、税金さえ納めればいろんな権利を得られるっていう状態になってる。もうこれもはや会社なのかなんなのかよくわからない(笑)。

仲山

「会社とは何か」ってところにいきますね。問いとしては。
僕は昨年、日本大学で半期の授業をやったんですけど、僕と事務局は楽天の社員で、あと楽天出店者さんたち何人かとチームを作ったんです。言ってみれば会社が違う人ばっかりがチームとしてやってる。しかも楽天の立場からしたら「お客さん」である出店者さんが同じチームのメンバーなわけです。もはや「会社ってなんだろう?」とか「お客さんってなんだろう?」という感じです(笑)。

宇田川

近代の社会の中でできてきた、「組織=企業」という考え方が、だいぶ変わってきてるんだよなってことですね。企業だったらみんな組織になってるのかという問題って結構あると思うんですよ。そのコラボできてない会社なんていっぱいあるじゃないですか。

仲山

ありますね。

宇田川

そういう風に考えると、ちゃんと協働するものであればそれは組織なんじゃないのかって思うんですけどね。
今までの企業のあり方、組織のあり方って、あくまでもひとつの在り方だったんだと思うんですよ。でも別にそれ以外のやり方もある。もっとコミュニティ型になっていくようなのが。だって、インターネットってそもそもそういう世界じゃないですか。その方が全然レジリエンスが高いわけで。
新しい組織のあり方って、今までの区切り方と違う境界線というか、もうちょっとゆるい境界線で構成されるコミュニティっていう風に思います。本来上とか下とかっていうのも別にそんな大事な問題ではなかったし、内と外っていうのもそんなに重要な問題ではなかったと思うんですよね。だって創業の時って必死になんとかするから、別にそういうことってそんなに重要じゃないじゃないですか。

倉貫

生きてるだけで精一杯ですよ(笑)。

宇田川

ですよね。出来上がってくると上下や内外の境界がはっきりした感じになっていって、出来上がったストーリーで変わっていっちゃう。本質は出来上がった形の話じゃなくて、どうやって協働してつくっていくかってことなのかなって僕は思ってるんですよね。

仲山

チームになるためには、パズルのピースのサイズが揃ってないとうまく組み合わさりにくいと僕は思ってるんです。「7人の侍」とか「ガンバの大冒険」とか「ワンピース」もそうですけど、パズルのピースのサイズ感が揃ってる。それで、得意不得意が違うから、それぞれのシーンで「ここは俺が!」と強みによって出番があって、みたいな。逆にいうと、ヒエラルキーってチームになりにくい面があります。

倉貫

なりにくいですね。均質化しようとするんで。

宇田川

あれね、もともとはね、アメリカが急速に近代化して、社会が大きくなっていく。その時に移民労働者が増えるじゃないですか。でも移民労働者ってなんのスキルもないし、言葉が通じないんですよね。だから現場の偉い人が牛耳ってて、しかもこの人気分によって働いたり働かなかったりする。でも急速に発展していくのに全然生産が追いつかないみたいなそういう状況の中で、それぞれ違うけど、人がそれで抜けたりとか死んだりとか怪我したりとかしても、一応組織として続くように、人の互換性を作るためのものなんですよね。そのためにマニュアルを作って、あの時代に「研修」って初めて生まれたんですよ。

倉貫

ほう。

宇田川

要は「それぞれ違うけど、ここの部分だけ揃えます」ってしなきゃいけない時代だったからそうしてたんであって。テイラーって人がそれを考えたんですけど、テイラー今の時代に生きてたら、同じような事言うかなっていうと、違うんじゃないかなって僕は思いますけどね。

仲山

「そんなヒエラルキー組織だったら効率悪いだろ」とか言ってるかも?!

宇田川

そうそう。

仲山

「ネットワーク型の組織…ナイス!」って(笑)。

宇田川

かもしれない(笑)。

仲山

テイラーさんが「効率が悪いのが嫌い」という人だったらそういう可能性ありますよね。当時の「人が入れ替わっても大丈夫」という発想は、中期的な効率を視野に入れているアイデアですもんね。こうやって取り替えが効くようにすればいいんだよ、という。

宇田川

だからチームと組織っていうのが、たぶん現状では違うんだけど、チーム「が」組織になっていくんじゃないかなと思いますけどね。

仲山

生産性の高いチームワークで仕事を成し遂げる「チーム」ができて、そのようなチームが再生産されやすい環境としての「組織」になっていく、という意味ですね。同感です。

第10回:日本人は「フォーミング」体質

仲山

サッカー日本代表の歴代監督のチームビルディングスタイルを考えてみたことがあって、トルシエ監督は「俺の言うことを聞け!」って第1(フォーミング)ステージで100点を取りに行くフォーミングスタイル。ジーコ監督は真逆のトランスフォーミングスタイルで、「自分たちは『黄金の中盤カルテット』って呼ばれてたし、みんなも自由にやったらトランスフォーミングできるよ!と、中田英寿・中村俊輔・小野伸二・稲本潤一というスター選手を集めたけどうまくいきませんでした。中田選手がグラウンドに倒れ込んで天を仰いでいた、あの大会です。

宇田川

なぜダメだったんですか?

仲山

欧米って「自己主張」から始まるじゃないですか。文化的背景が違う人が集まるので、まず自分を理解してもらうためにストーミングから入る必要がある。人が集まったら「じゃあストーミング始めましょうか」という感じです。それを「ストーミング体質」と呼んでいます。これに対して、日本人は「フォーミング体質」です。島国で同一民族なので「言わなくてもわかってるよね」と空気を読むことを求められる。だから、「自由にやっていいよ」と放っておくだけだとストーミング超えできないと思うんです。で、第4ステージのトランスフォーミングには遥か及ばず、第1ステージのまま敗退した感じがします。
その次が、オシム監督。オシムさんはファシリテーター型で、次のステージにうまく進むようにしていた感じがするんです。例えば「走って走って走れ!」と言って、自分のポジションに留まってたら怒られるような練習をするわけです。そうしたらとりあえず走らなきゃいけないから選手はみんな動き出すんだけど、みんながバラバラに動き出すと、ぶつかったりとかするし効率よくないので、そのうちみんなが「どうやって動く?」みたいなことを打ち合わせするようになってきて。

倉貫

考えるようになったんですね。

仲山

そう。それで有機的な連動性が生まれて強くなりました。でも病気で倒れて岡田監督になった。岡田さんは基本的には「俺の言うことを聞け!」スタイル。

倉貫

規律型のイメージ。

仲山

でも、ある時から選手に自主性を持たせたいと思うようになり、自分のスタイルを変えようとしたんだけど、ストーミングの谷を越えるまでに何連敗もしてるうちに自分の首が危なくなって、しかたなく元の指示命令型に戻すということを繰り返した。最終的に「雇われ監督の立場だと限界がある」と思ったから今度はFC今治でオーナーになった、と僕は見ています。
その次のザッケローニ監督は、イタリアのACミランで個性の強い選手たちのストーミングを「みんなファミリーなんだ」と言いながらうまくまとめて優勝した人です。その手腕を買われたと思うんですけど、日本人がフォーミング体質だと知らないから、たぶん来日した時に、「お、もう結構ファミリーになってるじゃないか。それぞれ言いたいこと言ってバラバラな状態じゃなくて、まとまっている」みたいに、第1ステージ(フォーミング)を第3ステージ(ノーミング)と見間違えたのではないかと見ています。

倉貫

チームができてると思っちゃった(笑)。

仲山

そう。もう第3ステージだと思っちゃった。第1ステージなのに。みんながこう空気を読んで……

倉貫

だたおとなしいだけですよね。

仲山

あくまで「他律」でピシッとやってる状態を。

倉貫

オシムさんよかったな。

仲山

オシムさんよかった。

宇田川

そう。素晴らしい監督でしたね。

倉貫

ほっといて自由すぎてもダメなんですよね。

仲山

そうそうそう。日本人はほっといても、なかなかストーミングを超える文化にはなりにくいと思うんですよね。よっぽどのことがないと。

宇田川

そうでしょうね。

仲山

だいたい日本のチームが世界大会で優勝した時って、「キャプテンが怪我をして決勝に出られない!あいつのためにがんばろう!」とか「震災からの復興のために!」と言ってみんなが一致団結するようなパターンが多いと思うんです。

宇田川

先日のUAE戦もそんな感じでしたよね。

仲山

まさに「主将の長谷部が怪我した」という。そういう時の団結感ってすごんですよ、日本って。そういう外部要因がないとなんかバラバラなんだけど、みんなの共通のお題目があった瞬間によくなる。震災後のなでしこジャパンはワールドカップ優勝したし、楽天イーグルスも13年に優勝したし、みんなそうなんですよね、外部要因で一致団結みたいな。

宇田川

岡田監督の南アフリカ大会の時って、かなり直前まで負けが込んでたじゃないですか。それでミーティングをして、闘莉王選手が「俺たちどうせ下手くそなんだから一生懸命やるしかないだろ」と言って、あの松井選手がすごく守備を頑張る、みたいになってベスト16までいけた、みたいな話はよく聞くんですけど。

仲山

選手だけのミーティングをやって、闘莉王選手がストーミングのきっかけをつくって、みんなが本音を言い合えたことでストーミングを超えられたパターンですね。

宇田川

だから「みんなそう思ってたんだ」とわかるとか、「言っていいんだ」と思えるようになることが大事。

倉貫

口火を切るやつが出るんですね。

宇田川

そう。口火を切るってすごいことです。

倉貫

勇気いりますね。

仲山

いつもだいたい帰化した外国人選手がキーマンになるですよ。ラモス選手とか、闘莉王選手とか。

倉貫

その辺は日本人のメンタリティじゃないから、言えちゃうんですよね。

仲山

そう、ストーミング体質だから。

倉貫

怖いもんないのかな?

宇田川

それが普通だと思ってるんじゃないですかね。

第11回:「みんな同じ」ではなく「みんな違う」に揃える

宇田川

僕の好きな作家さんで…劇作家の平田オリザさんなんですけど、彼の本で『分かり合えないことから』っていう本があるんです。その中で、みんな「わかり合えてる前提」だから対話ができないって言ってて。実際は分かり合えていないことっていっぱいあって、本当はみんなそれぞれ全然違うじゃないですか、会社の中でも大学の中でも。全然違うんだってことを認めたところから初めて対話が可能になるんだって話をしてるんです。我々がつい考えちゃう一致って、「みんなが同じである」という一致だと思うんですけど、そうじゃなくって、「みんな違う」ということについて合意していという事こそが一致というか、そういうものなんだと思うんですよね。それを表に出すために、「違う」と言える環境をどう作るかっていうのがすごく大事なのかなって。これは個人の能力をどんなに育てていっても破れない壁だと思うんですよ。

仲山

OSのところですもんね。アプリを磨いていってもダメ。

宇田川

そうなんですよね。

仲山

僕らがチームビルディングをやる時は、みんなにストレングスファインダーなどの「タイプ診断」をやってもらうんです。名札に5つの強みを書いた状態でいろいろアクティビティをやるんです。そうすると、書いてある通りの言動をする人たちがいっぱいいるから、それをフィードバックするんです。「今のコメントって最上志向っぽいですね」とか、「そうやって腕組んで”うーん”って考えてたのって着想っぽいですよね」とか。すると、「えっ、みんなそうじゃないの? 自分だけなの?」って、自分の強みに気づいていくんですよ。
自分にとって「当たり前」だと思ってると、他人に対しても「ここまでやるのが当たり前だろう」って要求しがちです。すると、その過度にハイレベルな要求は裏切られるから、イライラするっていうことが日々起こることになります。自分の強みのレベルで他人に要求をするのは不自然なことだと気づくと、期待値が適正なところまで下がるんですよね。そうすると裏切られることもなくなり、しかも自分が苦手なことを嬉々としてやってくれる人がいるということもわかってくると、素直に感謝できるようになり・・・みたいな変化が起こります。

倉貫

チームってそのためにある。

仲山

そのためにある。苦手なことをしないために。

倉貫

そうそう。僕らの会社、よく言われるんですけど、「そうしたらみんなフリーランスみたいなもんですか?」って。フリーランスでもやっていける人たちだけど、会社でやってます。別に稼ごうと思えば稼げる、サボろうと思えばサボれる人たちなんだけど、結局みんなそれなりに働いて、報酬も一緒にしていて、ベーシックインカムでもいいって思えるのは、フリーランスだと実は自由じゃないから。自由だと思われがちなんだけど、苦手なことも全部1人でやんなきゃいけないので。

仲山

できることが限られてくるんですよね、なんか。

倉貫

そう。会社員よりはちょっと自由だけど、会社員時代に総務や経理の人がやってくれてたところを自分でやんなきゃいけなかったり、営業が苦手な人も営業やんなきゃいけなくなると、割と選択肢の自由はあるけどそこまで自由にはなれてない、みたいなことになる。それが僕らのようなチームでやると、苦手なところをやってくれる。例えば僕は細かいことや、繰り返しの仕事が苦手なんだけど、うちの副社長はそれをやってくれるし、新しいことをやるような僕の得意な仕事は回してもらえる。営業が苦手なエンジニアたちからすると、営業とかマーケは僕らがやるから、一緒に組めるし。そしたらフリーランスやってるよりも圧倒的に自由になれる。その、やりたくないことをやらなくていいのがチームだなって(笑)。その代わり強みがないとただの足手まといになるので、本人も周りも辛くなっちゃうので、尖ってるところがないとあれですけど。

仲山

倉貫さんの会社は、入社したら最初「修行中」のステータスになるんでしたよね。

倉貫

うん。その、自分の得意領域を見つけてもらう、伸ばしてもらう。苦手なところ埋めるより得意領域伸ばした方がいいので。

第12回:コントロールを放棄せよ!

仲山

『同質性とコミュニケーション量』の話なんですけど、楽天大学で「売り上げを10倍にする方法を考えよう!」という2泊3日の合宿を20回くらいやるなかで、興味深い経験をしました。最初のうちは参加資格もなく、希望者で集まって盛り上がっていたのですが、やってるうちに段々みんな売り上げが上がってきて、「月商1000万超の人だけで合宿やってみたい!」というリクエストが出たんです。1回やってみましょうかということで、1000万以上の人限定で合宿をやったらすごくコミュニケーション量が減ったんですよ。

倉貫

へー。

宇田川

ほう。

仲山

いつもは、先にもう何百万円とか一千万円売っている上のステージにいる店長さんが、始めたばっかりの人とかに質問されて、「うちはこんなふうにやってるよ」という感じでレクチャーするというコミュニケーションが起こるんです。それを横で聞いた同じく上のステージの人も「なるほど、そんなことやってるんだ。勉強になる!」ということが起こります。でも1000万円以上の人だけにしたら、「うちがやってることなんて他もやってて当然だろうな」と思うせいか、誰も自分からしゃべり出さないという状態になってしまって、コミュニケーション量が極端に減ったんです。だから、あえていろんなステージの人を混ぜる方がいいなと思ったんですよね。ただ、ステージが離れすぎてるとすぐには参考になりにくい。すぐ参考になるのは自分より1ステージ上の話だから、だいたい4段階ぐらいの人が集まると、みんなそれぞれ具体的に役立つヒントを得られることがわかったんです。ちなみに、1番上のステージの人は与えるだけのように思われるかもしれません。でも1、2年経った時に「合宿の時は下だった人たちに抜かれてる」という状態が生まれて、「俺ももう一回、頑張ろう!」と思う、ということも起こりました。「先輩に迫り、追い越す」のが教わった側ができる1番の恩返しじゃないかと思って、そういうチーム設計を。

宇田川

教育学で、発達の最近接領域という考え方があって、ヴィゴツキーという人がもともと言ったものなんですけど。例えば7歳児に15歳の勉強を教えても、難しいとすらわからない。だけど8歳ぐらいの勉強だったら、難しいけどなんとか理解したいって頑張るんです。そこのゾーンがすごく大事ということなのかなと今聞いてて思いました。その頃合いってすごく難しいんですけど、その人がどういう存在なのかを、こっちサイドの都合でなくて相手の立場でちゃんと理解していかないと絶対に見えてこないことですよね。まず「違う」っていう前提にちゃんと立たないと見えない。かつ、その人ごとに抱えてる問題はそれぞれ違うと思うんだけど、その人にとって意味のあるゾーンはどこなのかというのをちゃんと見ないといけないんですね。
そうやって見えてくると自ずとその次が見えてきますよね。でもその「次」をいきなり見ることはできないんですよね。

仲山

1段飛ばし、2段飛ばしはできないですからね。

宇田川

そうなんですよね。一気に何かを解決するってことは難しくて、やっぱり今何ができるのかということなんでしょうね。

仲山

『アオアシ』の話とつながりますよね。コーチから見えてるところまで引き上げることはできるけど……

宇田川

そうそうそう。

仲山

成長は螺旋階段だから、本人以外の力で1階から2階に引き上げてもダメなんですよね。一周回るプロセスがないと。

倉貫

そうしないとそこからさらに上に行けないので。

仲山

また引っ張りあげないといけなくなっちゃう。

倉貫

階段登ってるうちに筋力がつくんですね。またさらに上に登れるだけの筋力がつくんで、また登れる。
人を育てるのって結構会社の中では大事なことなので、気をつけてやってたんですけど、教育プロセスとか育て方って、均一化できるとちょっと勘違いしてたんですよ。「プログラマの育て方」というのがあると思ってたんだけど、人によって全然違うということが、当たり前といえば当たり前なんだけど、去年ぐらいにようやく気づいて。

仲山

しかも成長速度や伸びるタイミングも人によって違う。

倉貫

そうなんです。僕らの会社の基本理念は「コントロールしない」なんですが、これはコントロールすることを放棄した方が、自然にした方がうまくいくだろうということなんです。それまで売り上げ目標がないだとか、いろんなものをコントロールしない、指示管理ないと言ってたのに、教育とか成長に関してだけコントロールしようとしてたんですよ。そうするとどうしても伸びない人がいる。でもこっちの人はもうぐいぐい伸びる。同じ様に育てても、すごく時間かかる人がいる。これ副社長と話して、「俺らもしかして人の成長速度をコントロールしようとしてたんじゃない?」って気づいて、これ放棄するべきじゃないの?と。でもう早く行く人は早く行くし、ゆっくり成長する人はじっくり育つから、そこのコントロールをやめたんですよね。本人のペースで任せて、時間かかる人はもうしょうがないと。本人にも「そういうもんだよ」って言って。言わないと本人が焦っちゃうので。

宇田川

コントロール型の教育の最たるものがカリキュラムって考え方ですよね。

倉貫

詰込み型でやったらいい、という…。

宇田川

そうそう。事前に誰かが何をどういうタイミングで学ぶかというのを決めるんですよ。ほら、僕らの学校教育の時って、テストやってできないとかできるとかで優越感と劣等感を感じるような。でもあれって、みんなが同じスピードで進む前提じゃないですか。人間の発達スピードは全員同じっていう。やっぱりあれをずっとやってると、洗脳されますよね。

仲山

「教育とはこういうものだ」って。

宇田川

そう。で、「仕事とはこういうものだ」にもなるんじゃないかと思うんですよ。同じ様にできないとか同じ様にしないとかそういうのに対してすごく頭にきてしまう。ほら、学校だと同じ様にしない子をいじめたりするじゃないですか。そういうことって会社でも、いじめまで行かなくても、ちょっと干したりとか、っていうことって出てくるんだろうなと。でも案外違う発達の仕方をするってことが、その集団をよくしたりしますよね。そんなに詳しくないけど、ヨーロッパ、北欧とか、あとオランダの一部でやってる様な教育は、発達のスピードはそれぞれの得意分野が違うから、お互いに助け合うということをやらせたりして。そういうのが本当のあるべき姿なんじゃないかなと思うんですよね。それがコラボレーションだと。今の教育は先生というか、文科省を頭に全部ヒエラルキーになってて。今一生懸命これを改革しようとしてるんでしょうけど、仲山さんのモデルでいうと、こういう教育を受けていたら日本人はフォーミング型になるよねと。

仲山

なりますよね。

倉貫

洗脳されちゃう。

仲山

「自分で考えるようにしなさい!」という、指示命令をしてたりとか(笑)。

宇田川

そう。あと「早くしなさい」もありますよね。速度も決められちゃう。ダブルバインドになってるんですよ。「自主性を発揮しなさい、けれども私の許す範囲で」。

倉貫

「自主性を発揮しなさい!」ってもう言ってるからね。

宇田川

「何それ?」ですよね。

倉貫

ねえ。「イノベーション起こしなさい!」って言ったところで起きるか!という話ですよね。

宇田川

そうそうそう。でも、今それ色々なところでやってますよね。

倉貫

「イノベーション起こそう!」っていう掛け声が1番イノベーション起こさない。

宇田川

ほんとそうなんだけど(笑)。でもツール化していくとそうなっちゃうわけですよね。

倉貫

イノベーションって言葉を使っちゃうとね。

宇田川

そうなんですよ。僕なんかは「なんの研究してるんですか?」って聞かれて、「イ、イノベーティブな組織の研究です」みたいなことを一応答えるんですけど。でもそれは方便で言っているだけで、そこが全然本質じゃないんですよね。そこのもやもやしたところから立ち上がっていくというところを作れるかですよね。

仲山

僕は「チームをつくるために何からやったらいいですか?」と聞かれた時に、はっきり「知らない」と言うか、「模造紙で自己紹介するのがオススメです」って言うんです。講座の最初の合宿ではいつもやるんです。サンプルに自分のことを書いたマインドマップ風のものを貼って、「20分くらいで書きたいことだけ書きたいように書いてください」って。みんなで自己紹介模造紙を壁に貼って、ポストイットの束を持って、お互いのを見て、コメントしたいところにコメントしていく。「リアルフェイスブック」と呼んでるんですけど。

宇田川

あーなるほどね。

仲山

リアルフェイスブックをやると、1人ずつ自己紹介でしゃべるよりも情報量が多いんです。だからコミュニケーション量が多くなるし、あとは字を書くと、ちょっと怖そうに見える人も「こんな字、書くんだ。いい人っぽい」みたいに思えるんです(笑)。字を書くって自己開示として伝わるものがあるなと思って。しゃべりは、よく見せようとしてしゃべれる人がいるじゃないですか。「あの人あんなシュッとしたしゃべりをするのに、こんなかわいい字を書くんだ!」みたいなことがあるんですよね。なので「自己紹介を模造紙でやったらいんじゃないですか?」と言う。でもそうすると、やったことない人からは「もう、ちゃんと教えてよ。ケチ」とか言われて。僕の最高ノウハウなのに(笑)。
でも本当にそれを会社に持ち帰ってやった人たちが口を揃えて言うには、「もう20年も顔を付き合わせてやってたのに、知らないことがいっぱいあった」と。

倉貫

あーはいはいはい。

宇田川

なるほど。

仲山

自己紹介、いいですよ。

宇田川

自己紹介いいですね。そういえば僕、MBAで非常勤で教えてた時に、経営戦略論という授業を持ってたんですよ。一応経営戦略論のスタンダードな理論を教えていって、その後いかにこれが役に立たないかって話をずっとするんですけど(笑)。こういうことやってるから会社というのはだんだん硬直化していってダメになっていくんですよね!という話をして。そうするとね、受講者の反応が本当に二極化するんですよ。片っぽはすごくディープに反応してくれて、もう10年近く付き合ってる。でももう片っぽの人たちというのが、反応がものすごく薄い。むしろ若干怒り気味なんです。「あいつは正解を言わない!」と。「あいつは答えを言わない、教えなかった」「わからないんじゃないのか」ってね。そういう反応をする人がいて。それたぶん仲山さんと同じ悩みですよね。

仲山

同じですね。僕のことをよく知ってる店長さんが、僕のことを知らない人に紹介する時のお決まりのフレーズが、「この人、何にも教えてくれない人だから」なんです(笑)。そのあと補足があって、「何にも教えてくれないわけじゃないんだけど、答えは教えてくれないんだよ」と紹介してくれます。

宇田川

それは答えが重要なんじゃなくて、答えを考えていく…

倉貫

考えることが大事なんですよね。

宇田川

その過程がすごく大事で、そこを伝えたいですよね、本当に。だって答えがみんな違ったっていいじゃないですか。

第13回:「もも前」経営と「もも裏」経営

仲山

僕、『フットボールネーション』という漫画が好きなんです。身体論がテーマになっていて、「もも前」の筋肉を使うタイプと「もも裏」の筋肉を使うタイプの違いに言及してるんです。下り坂を降りるとき、太ももの前に力が入りますよね? 太ももの前の筋肉の力を抜いて坂を降りようとしたら、止まれずにダーっと行っちゃう。だから太ももの前というのは「ブレーキ筋」なんです。でも多くの人は、もも前の筋力を鍛えてムキムキにすることで、持ち上げて、地面を蹴って、前に進もうとしてる。でも実はそれはブレーキをかけながらアクセルを踏んでいるようなものだと。逆に「アクセル筋」はもも裏なんです。もも裏を伸ばすことが推進力につながる。
『フットボールネーション』に出てくるサッカークラブは、「脚のきれいな選手求む」と言って、太ももがムキムキしてない選手であることが採用基準になるんです。ヨーロッパとかでも、超一流の選手はすらっとしてる。もも裏をちゃんと使った動きをしていると、そういう体型になる。もも前だけで頑張ってる人は、一流にはなれないという話が出てきます。
それって体の姿勢の話だから、経営の姿勢に置き換えるとまさに「もも前経営」と「もも裏経営」みたいに分けられる気がするんです。

倉貫

面白い(笑)。

仲山

独自の価値をつくらずにプッシュ型の営業で売り上げ伸ばそうとしてるのは、もも前っぽいですよね。

倉貫

数字だけ追い求めるのもも前ですね。

宇田川

なるほどー。

倉貫

主人公側はもも裏のチームなので、とても合理的なんですよ。その主人公のチームは試合が始まる前に円陣とか組まない。

宇田川

ほうほう。

倉貫

相手チームからは「なんで円陣組まないんだ?」と聞かれる。そうしたら「必要ないからだ」って答えるんです。もも前経営してるところは、たぶん根性とかで経営するんですよ。「営業目標達成!」とか「締め切り頑張れ!」とか「今期この数字なんとかする!」とかっていうのを、昔ながらの営業出身の社長がやってるのがもも前経営っぽいなと思って。

仲山

号令かけてるんですね。

倉貫

でも合理的にやったら別にそんな無駄なことはしなくていいし、

仲山

あとは普段の練習でちゃんとコミュニケーション取れてるから、別に円陣で確認することもない。

宇田川

その、倉貫さんの前で引き合いに出すのはちょっと恐縮なんですけど、ダイヤモンドメディアって、経営理念を明文化して持ってないそうなんですよ。それは「俺は英語がいい」とか「カタカナが」とかになっちゃって、本質的な話にならないっていうのと、もうひとつは、やってることが大事だから、あえて持たないようにしたんですって。それとあそこは飲み会が少ないらしいんですよ。そういう話ですよね。

倉貫

そういう話ですね。

仲山

僕も楽天の最初の頃とか、会社の人と飲みに行った記憶とかほぼないです。

宇田川

仕事の時間の中で十分できている。

倉貫

そう。その最初の話で、飲み会というセレンディピティに頼ってない。頼らずとももう出来上がっているので。もし飲み会のコミニュケーションを救世主みたいに感じていたら、「飲み会行かなきゃ」みたいになるけど、そんなものはない。

仲山

ちゃんとクールダウンの時間を1日の中でとるイメージですね。楽天初期はネット接続がダイヤルアップで電話代がかかったから、23時からの「テレホーダイ」という定額サービスを使って店舗さんがみんなページを作り始めるんです。だからその時間になったら電話がじゃんじゃんかかって来る。そのピークが終わると、雑談タイムになるんですよね。そこでちょっとゆるめて、他の人がなにやってるのか聞いて、情報交換すると。

宇田川

それが健全ですよね。

仲山

それをお酒飲みながらやれば飲み会だし、ってことですよね。

倉貫

僕らの会社の経営会議は、副社長の藤原と2人でだらだらしゃべるだけなんですよ。いつやるかも決めてなくって、2人で大体いつもリモートで、夜10時くらいから繋いで話し始めるんです。ちょうど昨日の夜も、経営会議っていうかただの雑談みたいなもんなんですけど、僕らの会社は売り上げ目標ないし、数字も毎月お客さんからのストックしか入らないんで、その数字の確認をすることがないんですね。

仲山

もう決まってるから。

倉貫

そう。予測もなにも結果がもう出てるから、2人で話すのは「今度入ってくる人こういう人なんだけど、どうしてあげたらいいのかな」とか「この人入るにはもうちょっと時間かかるね」とか、今いる人の「この人は今どんな感じなのか」とか、社内の人の話ばっかりするんですよ。だらだらといつもするんで、時にはそこにビールやワインがあったりとか。もう飲み会なのか、経営会議なのか、雑談なのか、仕事なのか、わからなくて。でも共通してるのは、その時間が楽しいんです。たぶん僕らは遊んでるんです。経営って言いながら。だから僕らの究極的にやりたいことは、「遊ぶように働く」。そのキーワードが、僕らの会社の1番大事なところで、遊んでるのか働いてるのかわからない状態になったら、それやってる人が1番勝ちだなと思って。

仲山

調子いい状態。

倉貫

「成功」だとか、「幸せ」だとかよくわかんないけど、遊んでるように働いてる。外から見たら「こいつ遊んでるのかな」ぐらいの状態になってたら、それでいいじゃないかと。そこを目指してるし、できてるし、維持していこうと。

仲山

僕はチームビルディングの講座をやるときに相方がいるんですけど、少ない時は9ヶ月ぶりのご無沙汰期間があったんですよ。そうするとお互いに9ヶ月の間に見えてるものが変わったりするので、二人のチーム感がずれてくるんですよね。そうならないように定期的にコミュニケーションタイムを作ろうと言って、なんのテーマも決めずにとりあえず集まって、2時間か3時間くらいおしゃべりをして、「じゃあね」って帰る。でもそれをやるかやらないかがすごく重要で。

倉貫

やー重要ですね。重要。僕らも社外の方と新しいサービス立ち上げる時とか、社内の人だったらいいんですけど、社外の人だと利害関係が発生するので、お金持ち出すのか、どっちからちゃんとお金払うのか払わないのかみたいになるのがやっぱり嫌で、ちゃんとやる前に関係が必要だなと思います。

仲山

まさにまさに。

倉貫

やりたいなと思う人がいたら、声かけて、2週間に1回ぐらいずーっと雑談兼ブレストみたいなのを続けるんです。そういう人が何人かいるんですけど、そうしてると、最初は2週間ごとに会っても話すことなかったらやだな、と思うんですけど、いざ会ったらなんとなく話が続く。それを2週間おきに続けていって、だんだん面白いことを思いついてきたら一緒にやれるし、なかったらただ疎遠になって終わるだけなので。そこを「アライアンス!」とか「パートナーシップ!」とか、いきなり最初から…

仲山

ビジネスをやること前提みたいに。

倉貫

そうなっちゃうともうやりにくいんですよね。

仲山

今の話はまさにフォーミングの段階で相互理解を進めてみて自然にストーミングの意見交換に進んでいくときもあれば、ないときもあるっていう過程の話ですね。

倉貫

そうそう。進んでから、後から契約なりなんなりはすればいいだけで。

仲山

でもほとんどの人は最初っから契約しちゃって、そこからフォーミングを進めていく。

倉貫

「それがないと前へ進めない」って言われるとやりづらい(笑)

仲山

だからほんと「もも裏」の人たちって強そうに見えないんですよね。『フットボールネーション』には「なんであんなひょろっとしてるやつに俺は当たり負けしたんだろう」というシーンがよく出てくるんです。そういうプロジェクトの進め方も弱そうですもんね。

倉貫

弱そう(笑)。

仲山

ちゃんとしたプロジェクトプランナーみたいな人から見たら、ダメダメな感じじゃないですか。

倉貫

そうですね。

仲山

「もも裏」の人は、体がゆるんでないとダメなんですよね。

宇田川

なるほど。

倉貫

雑談してる方が信頼関係がなんとなく出来上がるんです。お互いのことよくわかってきた方が話が進みやすくなるんで。

宇田川

そうですよね。助走期間がないと。

倉貫

いきなり2人で「よーいどん!」って言われても、いやー…ってなっちゃう。

仲山

1回「もも裏」スタイルを身につけてしまうと、「もも前」の人とはうまく組めないんですよね。

倉貫

かっちりしてるなーって構えちゃう(笑)

仲山

力入ってるなー、と(笑)。そういう人とは「雑談しましょう」ともならないですけどね。もはや。

倉貫

「なりにくいですね。うちの会社は採用基準を「T・I・P・S」にしてますってよく取材で言うんですけど、あれ『フットボールネーション』からとったんですよ。

仲山

美しく勝つサッカーを追求したヨハン・クライフが作ったコンセプトですよね。

倉貫

クライフのトータルフットボール、大好きなんで僕は。その「T・I・P・S」、テクニック、インテリジェンス、パーソナリティ、スピードの4つを兼ね揃えた選手がいい選手なので、そういう選手をアヤックスが採用しているという話で。
テクニックは難しいテクニックじゃなくて、ボールをちゃんと止めるとか、パスができるとか、そういう基本のテクニック。インテリジェンスは、自分で考えられるか。ピッチに立った時に、監督の指示じゃなくて自分で考えないといけない。スピードはやっぱり当然必要。その3つだけだとただうまい選手なので、チームとして機能させるためにはやっぱり人間性が必要だよねってことで、パーソナリティ。合わせて「TIPS」が必要ですと。

仲山

ええ、ええ。そうですね。

倉貫

これはプログラミングでも全く一緒で、うちのテクニックっていうのも、「難しい技術知ってます」とか「すごい複雑なシステム作ってました」よりも「きれいなプログラムがちゃんと書けること」。インテリジェンスはもちろんセルフマネジメントですね。指示命令しないんで、依存せずに自分で考えられるか。スピード感もとても重要で、100パーセントに近い状態にまで作ってからじゃないと人に見せられませんという人は、うちに合ってなくて、80パーどころか60パーぐらいで相談に来るぐらいのスピード感の人がやっぱりカルチャーに合ってる。で、パーソナリティもちゃんと見ると。これ見てますっていうのを「採用どうしてるんですか」って聞かれると答えるんですけど、元ネタは『フットボールネーション』です(笑)。

宇田川

たぶんそのTIPSって旧来のもも前経営の人たちも、全然違う意味合いで「TIPSだ!」って言いそうな気がする。

仲山

テクニックは、「振ったことは確実にやる」。

宇田川

パーソナリティは「ちゃんと真面目にやる」。

仲山

「気合いで頑張る」(笑)。

宇田川

スピードはもう「早い方がいいだろ!」っていう。

倉貫

そうですね。

仲山

やるためには寝ないでやれ!っていうスピード感と、

倉貫

根性でね。

仲山

もも裏派としては、違う方法を考えればできるでしょう、というところですね。

宇田川

「無理しない」でしたよね。

倉貫

そう、うちは無理しない。ずるい方が偉い。「チートしよう」ってよく言うんで。

仲山

「チート」って何語ですか?

倉貫

「チート」ってたぶんゲーム業界の用語なんですよ。裏技だとか、本当は使っちゃいけない技を使って勝つ!みたいなのが「チート」って呼ばれてて。

仲山

サッカー用語で言えば「マリーシア」。

倉貫

マリーシアです。ずる賢い感じで。愚直にやる人は、うちの会社合わないよと。愚直で真面目でって言ったら普通の会社絶対欲しいじゃないですか。でも「愚直で真面目な人はダメです」って言うんです(笑)。

仲山

向いてません、と。

倉貫

そうそう。ここからここまで行かなきゃいけないのに、壁があってこう回らなきゃ絶対行けないというところを、すぐ行けるところを見つけるとか。「だったらこっち行きましょう」みたいなのを思いつくか。

仲山

壁があったら「越えずに済む方法」を探す視点を持っているという事ですね。

第14回:「できること」を発信することが自分の立場を作ること

宇田川

世の中的に、大学の准教授という肩書きだと、なんでも答えを知ってるって思われる方もいるんですが、僕はちょっとしか知らなかったりするんです。とはいえ組織論とか組織開発については自分も噛んでるところだから、何か言えって言われたら言わなきゃいけないなって思うんですけど。どうしたらいいですかね?(笑)この先俺はどうやって生きていったらいいのかな(笑)。

倉貫

じゃあ最後このテーマで締めましょうか。宇田川先生どうしたらいいのか問題(笑)。

宇田川

地道ではないんですけど、自分がやるべきだと思ってやってきて、東京に10年ぶりに帰ってきたら、いろんな人が「話しませんか?」と言ってくれて。それはすごく嬉しいんですけど、何で僕に声がかかってるのかもあんまりよくわからない。でも悪い気はしないじゃないですか、全然。しかしいまいちモヤっと、悩みを抱えている、いちアラフォー教員(笑)。

倉貫

僕も割と呼んでもらってしゃべってますけど、そんな派手なことをしてるつもりはないしうちの会社も派手じゃないから、地道に地味なことをやってるんですけど。究極それをただ続けるだけだろうなと思っているんですよ。
25、6歳の時に、プログラムのシステム作って、システムの事例取材が来て、雑誌に載ったことがあったんです。すごく若いうちに載ったんですね。その時先輩に言われたのが、「今がおまえの人生のピークじゃないのか」って(笑)。

仲山

雑誌なんかに載るなんて、と(笑)。

倉貫

そうそう。これが人生のピークだぞと。後は下り坂かーと思ったんですよ。でもそれは悔しいなーと思いつつ衝撃的だったんだけど、それがよかった。割と常に今が人生のピークだと思ってるので、派手なこともしないし、やらなくなることもないし、やってたことを全然変わらないようにやってる。常にピークぐらいの気持ちだから、ここで派手なことやったら逆にもうダメですね(笑)。

宇田川

なるほど、いいですね。

倉貫

そこでこうのぼせ上がらない。あの時のあの先輩の言葉がいつもあってね。あそこでもうちょっと調子に乗らせてくれてたら違う企画してたかも。

仲山

「もも前」経営で頑張ってたかも。

宇田川

なんか「もも前」って力入りがちになりますよね。あんまそうしないようにしてるんですけどね。

仲山

そういう「もも前」ではない組織の在り方、働き方みたいなのが今だんだん注目される波がきてるから、声がかかるようになってるんですよね。トレンド的なものが過ぎればまた元に戻るだけかなと。自分たちがやってることは自分が楽しいからやってるだけだから、別に世の中のトレンドとは関係なく続けていくだろうし。でもたぶん大きな流れとして、これまで企業の成功の定義に「大きくなること」があったと思うんだけど、実は大きいほどフォーミング体質が固まってくるから、世の中の変化のスピードに対応するのがだんだん難しくなってきた。もう正社員で終身雇用もきつくなってきたから、副業してもらって、自活力つけてもらわないとね!みたいな雰囲気にもなってきて。そんな流れは数年のものじゃないから、もっと長続きはすると思うんですけど、「僕ら10年ぐらいこのスタイルでやってます」みたいなのが、まだ珍しいうちは呼ばれるかも(笑)。

倉貫

まだまだ続く(笑)。

宇田川

そうか。まとめると、自分の大事にするところをちゃんとある意味信じて、大事にして、それで必要があればやっていって。

仲山

あと最初の「全部を知っているわけじゃない問題」でいうと、僕、出身が北海道なんですけど、北海道の人あるあるで、東京で「あの人も北海道だよー」とか言って引きあわされるじゃないですか。「やだなー」って思いながら、「北海道ですか。どこですか?」「旭川です」「函館です」「しーん…」みたいな感じで、遠すぎてお互い行ったことがないから話が終わるんです(笑)。似てると思ったけど違う、と判明した人の方が仲良くなりにくいみたいなのもありますよね。研究の専門分野でいうと、「法学部の教授です」「じゃあちょっと聞きたいんですけど土地のことでもめてまして」「ぼく刑法なんだけど…」みたいなことがありますよね。

宇田川

そうそうそうそう。

仲山

だから「できることはこれです!」というのを発信しておけばいいんじゃないですかね。

宇田川

そうなの。そうなんですよ。

仲山

勘違いした人がこないような環境を作っておけば、そこで悩むことはない気がします。

宇田川

そうですね。

仲山

僕は、Eコマース業界の人だと思われて、「プログラミングできるんですよね」「バックオフィスのシステムはどれがいいですか」なんて話しかけられたら全く役に立てないから、「人に関することしかわかりません」と発信して、そんな人からは話しかけられないようにしてます。「そこしかワカリマセーン」って平気で言えるためには、自分の興味持ってるところは「呼んでくれたらまあまあイケるよ?」ぐらいにしておきたいなと。

宇田川

なんかこの鼎談全体の話につながりますね。

倉貫

好き嫌いがはっきりして生きていけば、割と楽なんですよ。

宇田川

そうですね。いやー本当…勉強になります(笑)。

仲山

僕も好き嫌いでいうと、数年前まではマーケティングの話をするにしても、「もも前」派にも「もも裏」派にも役に立つような抽象度でやってきたんですけど、ここ数年は「もも裏でいきましょう!」というふうに変えました。「もも前は専門じゃないので」と言って。初めて「もも前はダメです!」という本を作ったのが3年前です。

宇田川

じゃあ本を書くっていうのも…

倉貫・仲山

お。

宇田川

それも大事ですね。

倉貫

まずは締め切りなしで(笑)。

宇田川

僕も「もも前」はダメだと思うので、そういうのを僕の観点でちゃんと出すというのも大事ですよね。名刺になりますよね。

仲山

大事です大事です。

倉貫

宇田川先生が出すことの方が意味があるってのもあるんですよね。僕なんかがやってることを書いても、「まあそりゃそうだろ」ってなりがちで。

仲山

「うちには関係ない」「あてはまらないな」ってね。

倉貫

「ストーリーとしては面白いけどね」ってなっちゃう。

仲山

「こんな会社もあるのね」って言われて終わるけど…

倉貫

第三者視点みたいなところから…

仲山

抽象化された理論的なところで、もも前理論を真っ向から「ダメだ!」と言って…

宇田川

もも裏理論の本を出す!と。

倉貫

まずは漫画3作品読んでからこないとわからないですね(笑)。でもいいですね。自分の思想を本にして、立場とする。

宇田川

頑張らない程度に頑張ります。

一同

(笑)。

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