リモートワークラボ

【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 田原真人(Zoom革命代表) × 武井浩三(ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役)

自分らしく働く時代。働き方が多様化する中、誰もが自分らしい働き方を模索しています。だけど、自分らしさには正解がないから難しい。

多種多様な働き方をする人々を迎えて「働き方」について再考するシリーズ「ボクらの働き方」。

第2回は、序列のないフラットな組織を運営する3人を迎え、自由に楽しく働くための組織づくりについて、語ってもらいました。


武井浩三たけいこうぞう

ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 共同創業者
神奈川県出身。21世紀型の経営スタイルを実践。”人間性経営”、”フロー経営”、”非管理型経営”、”奇跡の経営”、”ホラクラシー経営”などと呼ばれる。ホラクラシーという言葉が生まれる以前より、ホラクラシー型の経営を実践し続け、ホラクラシー経営第一人者として講演活動なども行っている。

田原真人たはらまさと

自己組織化ファシリテーター/オンライン教育プロデューサー/「反転授業の研究」代表/フィズヨビ代表/Zoom革命代表
早稲田大学応用物理学科から同大学院博士過程に進み、生物と物理の境界分野に強く関心を持つ。河合塾など大手予備校の他、小規模の塾などでも教え、微積分を使いつつも難しさを感じさせない「田原の物理」は、予備校の生徒から大きな支持を得るようになる。2005年にフィズヨビを設立。動画を使った学びを全国に先駆けてスタートする。「究極の学びシステム」をつくるために「反転授業の研究」グループを創設。また「Zoom革命」代表として、分野を超えた様々な活動をしている人たちと対話しつづけている。

倉貫 義人くらぬき よしひと

株式会社ソニックガーデン代表取締役社長
京都生まれ。立命館大学大学院卒業。大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。「納品のない受託開発」という新しいビジネスモデルを展開。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。
ブログにて、人材育成からマネジメントまで、ソニックガーデンの経営哲学とノウハウについて、日々の学びを発信中。
http://kuranuki.sonicgarden.jp/

組織も人も「コントロールしない」で作る

田原

ではまず簡単に、どういうお仕事をしているのかお話いただけますか?

武井

弊社は、不動産関係のwebのシステムやサービスを提供する会社でして、今現在社員は25名くらいです。最近話題のホラクラシー経営というか、そういった上下関係を作らない組織で創業当初から、かれこれ9年くらいやっております。

倉貫

私のところはシステムの受託開発をしています。そもそも納品があるから最初に決め切ろうとしてしまうし、決めて納品してしまうとそこから進化がなくなってしまう。そうするとユーザーさんも開発者も嬉しくないので、納品をなくして、月額定額で受託開発をするという形にしています。お客さんのところに行かずに実施するというのが最近の動きで、客先に行かなくていいなら会社にこなくてもいいよねということで、みんな在宅勤務という形で家から仕事をしています。オフィスは去年なくして、オフィスのない会社で30人ぐらいでやっております。

田原

多分みなさんが興味があるのが、「なんでこんなこと始めたんだ?」ってことだと思うんですよ。他の人とは違う形態の会社を始めたということは、お2人にとって何か思いがあると思うんですが、それはどういうものですか?

武井

僕はですね、社会経験がないんです。ずっと音楽をやっていまして。そこからサラリーマンはやりたくないから自分で会社をやるか!と始めて、1回失敗してもう1回やり直したのが今の会社なんです。どういう組織が良いのか、どういう意思決定の仕方がみんなに平等で良いのかを純粋に考えていったらこうなりました。「社長ってなんで必要なんだっけ?」とか「給料ってなんで自分で決めちゃいけないんだっけ?」とか「なんで休みたい時に休んじゃいけないの?」とか未だに良くわからないですね。

倉貫

僕ももともと会社経営を長くしていたわけじゃないんです。ずっと学生時代からプログラミングをしていてそのままSIerに就職したんですけど、大手SIerだと実はプログラミングの仕事は価値が低く見られるんです。上流工程っていうんですけど、お金に近いところの方が偉いという考えになる。あとは管理職になった方が偉い、お金がもらえるっていうのもありますね。これはよくないなと思って。プログラマのための良い会社ができないものかなとずっと思っていたところで、前の会社でチャンスをもらって社内ベンチャーをやらせてもらったんです。そこから経営者の人生が始まるんですけども、大手の会社で社内ベンチャーをやると、普通に起業するケースと違って、周りに経営者がいないんですね。

武井

ほう。

倉貫

若くして起業した人だと、周りにベテランの経営者がいて、そこから一般的な経営を勉強すると思うんですけど、社内ベンチャーの場合お金だけ出してもらって、経営を教えてくれる人がいないんです。結局自分たちで「締め日ってなんでこの日なんだっけ?」とか「契約するのになんでこの書類が必要なんだっけ?」とか「本当に書類じゃないといけないんだっけ?」とかを本当に突き詰めて考えていったら自分たちなりの経営に行き着いた感じなので…僕も(武井さんと)全く一緒ですね。経営の先生がいなかったので、良くも悪くも、自由奔放にできました。

理不尽なことが嫌い。本質的なことだけをやりたい。

田原

例えば今やってる活動の1ヶ所をひっくり返すと、整合性を取るために他のところも自動的にひっくり返っていって決まってくる、みたいなことを僕も感じるんですけども、武井さんも倉貫さんも、事業全体で整合性が取れてるように見えます。それが旧来の整合性の取り方と違う取り方をされているような気がしていて。一番大事にすることを決めると、他のところも自然に決まってきているような。その一番最初の押さえどころは何でしょうか?

武井

僕も倉貫さんも多分理不尽なことが嫌いなんじゃないかって思います。

一同

(笑)

武井

僕、周りの軋轢とか、長いものに巻かれろ的なものがとにかく嫌いなので。良いものは良い、あとは本質的なことしかやらない。仕事というもの自体をそのように捉えています。多分倉貫さんもそういうタイプの人だと…。

倉貫

そうですね。本質的じゃないことも嫌いだし、合理的じゃないことも嫌いですね。

武井

ああ、はいはい(笑)。

倉貫

僕らはプログラマなので、プログラマ的発想として、無駄が嫌いで、合理的なものが好きなんです。あとポイントはどこだろうなあ…会社経営というところで言うと、株主としての会社のオーナーはもちろん僕なんですけど、会社を自分がコントロールするものだと思ってないですね。入り口はそこな気がします。

武井

僕自身も人からあれこれ命令されるのが嫌いなので、自分が嫌いだから他の人にもやらない。

倉貫

そうそう。「社長だから」っていう特権があるとしたら、それはみんなにもあっていいと思うし、逆に会社は僕の持ち物ではないので、無理やり働かせて頑張らせるっていうのもできないし。

武井

そうですよね。そういうところを整えていくと、実はそっちの方が経済合理性や働く人の満足度も高くて、お客さんへ提供するサービスの質も継続的に上がっていくし、長い目でみたら絶対に良いというのはやってみてすぐにわかりました。でも最初の頃は僕も血気盛んだったので、事業のイメージを思い描いたら焦ってすぐになんとかしたくなっちゃったりもしましたけど、僕個人のエゴみたいなものが出ても、組織の中でそのエゴで何かできないんですよね。権力がないんで。

倉貫

わかるわかる。

武井

だから「しょうがねえな」みたいな。

倉貫

そうそうそう。

武井

それで僕は坐禅に行き着いたんですよ。

一同

(笑)

武井

このもやもやをどうしたらいいのかと思って。

組織は「生き物」だから、短期的な成長は見込めない。

倉貫

「しょうがない」って気持ち、わかります。僕は会社を、みんなが幸せに、長く楽しく働ける場所にしたいと思っているので、短期的な成長を目指していないんです。若い頃は野心みたいなのがあったんですけど、今はなくなりましたね。よく副社長と、「お金持ちになるのは今世は諦めよう」と話してます(笑)。諦める境地は経営においては大事かなと。

武井

成長って結果でしかなくって、ビジネスモデルによって成長速度って違うわけじゃないですか。例えば最近だったら、アプリのゲーム作って、当たればポーンっていきますし。でもやっぱりうちの会社やソニックガーデンさんみたいに、手を動かしながらお客さんと向き合いながらやる仕事って、そんな急角度で成長したら絶対にクオリティが下がっちゃう。

倉貫

そうなんですよね。人で満足して頂いているサービスである限りは、人を大事にせざるをえない。

武井

そうですよね。

倉貫

合理的に考えれば、人を大事にしたビジネスの方が会社としてはいいっていうのは、ビジネスモデルに従ってるところありますよね。

武井

そうですね。だから我々も、その時々のビジネスモデルに合わせて動き方を変えています。これって多分生物で言うと、それぞれ違う生き物だってことなので。違う生き物の成長速度を当てはめてもしょうがないですからね。

倉貫

そうそう。僕も会社自体を人間みたいなものだと思っているんです。うちの会社はKPIがないんです。数字化しないし、数字を特に目標にしない。あと、コントロールされるのも好きじゃないし、するのも好きじゃないから、なるべく人をコントロールしないようにしようと思っています。昔は会社は小さい方がかっこいいと思っていたんですけど、だんだんほっといても良い人材が来るようになってしまって。それを拒み続けるわけにもいかないので、いつの間にかちょっとずつ会社が成長してるんですね。5人で始めて今30人なんですけど。それで思ったのが、「会社の成長もコントロールしようとしてはいけないな」と。

田原&武井

うんうんうん。

倉貫

急成長しようとか、今期売り上げ何倍だ!とか目標を立てるのって、無理に成長させようとしてるところがあるんですよね。つまり成長をコントロールしようとすると、無理が出ちゃう。逆に僕らは小さい会社がいい、小さい会社でいようって思ってましたけど、それもコントロールしようとしてることになってたんです。それはよくないなと。大きくなるも小さくなるも、自然に任せるのでいいんです。例えば子供を「1年で20センチ成長させよう!」とか思わないですよね。親が子供を無理やり成長させるのなんて無理で、年月が経たないと成長しない。会社や組織も同じような考え方で見守った方がいいんじゃないかと考えてます。

武井

めちゃくちゃ共感します。うちも会社を植物のように考えたりしてるんで、その植物に水をあげたり良い土壌をあげたりしても結局育つのは植物そのものなんで…

倉貫

そうなんですよ。期間が必要なんですよね。

武井

見守るしかないというか。

倉貫

そう。たくさん耕しても無理なんですよね。

一同

(笑)

倉貫

栄養を多くあげて、きゅうりとかナスとか「二日でできます」って…

武井

食べたくないですよね。

倉貫

そうそうそう。怖いんですよ。実はソニックガーデンの社名の由来はそこなんです。ソフトウェアを作るのも結局同じで、例えばfacebookに対抗するアプリを作るためにエンジニアを1000人集めたとしても、3日でできるわけはなくて。facebookも長い期間かけて成長させてきたから今のソフトウェアの規模になってるので、良いソフトウェアを作るには、人手よりも期間が必要だという発想から、僕らは「ガーデン」ってつけたんです。

武井

なるほど。

倉貫

その考え方を組織にも当てはめてるって感じで。

武井

素晴らしいですね。

合理的な態度は、人の感情を排除するというわけではない。

田原

倉貫さんはプログラマだから合理的にやりたい。でも一方で、命令されるのは嫌いだし命令したくもないとか、社名がソニック「ガーデン」だったりとか、オーガニックな部分があるじゃないですか。プログラマという生き方が中心になって、思考は合理的なんだけど、感情的な部分もすごく大事にされていますよね。その合理的な部分と感情を大事にする部分が、組織の中でバランスされていると思うんですけども、その辺りはどうですか?

倉貫

実は僕、プログラムを作るように合理的に、血も涙もないようなマネジメントをしていた時期があったんですけども。

一同

(笑)

倉貫

人を部品のように扱って、計算通りに動かそうとしたんですけど、全然うまくいかなくて。それでよくよく考えたら、ソフトウェアを作る時に必要な材料って、ないんですよね。車とか船だったら、鉄やネジやゴムが要るんですけど、ソフトウェアやビジネスみたいに、形のないものを作り出す時に必要なのは、人間の頭だけなんです。頭の中なんて見えないし、その人のやる気次第でソフトウェアの品質や生産性は全く変わってくる。頑張ってるか頑張ってないか、外から見えないものをコントロールしようとしてももう無理だなと思ったんです。
ソフトウェアの世界で有名な「ピープルウェア」っていう本に、「ソフトウェアは人間が作るんだよ。なので人間を大事にしないといいものはできないよ」というようなことが書いてあったんです。それを読んで「そりゃそうだな」と。自分が逆の立場だったら、そんなのでいいプログラム書けるわけないんです。じゃあやっぱり人の気持ちや感情を大事にする方が、結局良いソフトウェアにたどり着くんじゃないかというロジカルな発想でやってる感じですね。

田原

なるほど。

倉貫

そこにたどり着いてからは、そっちのがむしろ合理的だと感じてます。必ずしも合理的なことが人の感情とか人間性を排除するわけではないってことですかね。

田原

非合理を含んでいるのが、もうちょっと広い範囲でいうと合理的だっていうことですね。

倉貫

そうですね。

個人を評価する時に「誰か」の意図はいらない。

田原

武井さんは、音楽、特にブラックミュージックがイメージの土台にあるじゃないですか。僕がお2人から話を聞いていて、どちらもお金が外発的動機付けにならないようにしたいというところが同じで、その後に出てくるソリューションが全然違う方向に向かってるというのが面白く感じます。
武井さんは話し合って、自分で決める。そこが外からの上限付けとか権力に使われないというやり方をされてるし、倉貫さんは、「全員同じ」にするから、このことはもう考えないで自由になれるという。やり方は違うんだけれども、そこによって外したいものは同じ。その外し方の違いが音楽から来た人の感覚と、プログラマから来た人の感覚が出てるなと思うんですけども、どうでしょう?

武井

そうか、確かに。ソニックガーデンさんは(給料は)だいたい一律なんですか?

倉貫

だいたい一律です。「一人前」って呼ばれる人になったらもう一律です。新卒の人たちは「弟子」と呼ばれていて、みんなが稼いだお金のおこぼれで生きていることになるので、そんなに給料は高くないです。で、修行が終わって一人前になったら一気に上がる。

武井

なるほど。

倉貫

一気に上がった後はあんまり変わらない。昔の会社で言うような、「長くいる人はお金がたくさんもらえる」ではなくて、入社して、良いパフォーマンスが出るようになったらもう一気にあげてしまうんです。(給料を)ちょっとずつ上げるって、幻想ですよね。成長するから、お金もあげるから、君はこの会社でずっと頑張りなさいっていう幻想がいやなんです。会社の収入を山分けするような感覚ですね。プログラマは短期的に評価できないっていうのが僕の持論なので、個人評価を僕らは会社としてはしないんです。彼らは営業みたいに案件とってくることも、新しいものを売ってくることもできなくて、できるのは、毎月お客さんに満足してもらうことだけ。だから「売り上げを上げる」というような頑張り方ができないんです。だとしたら、今のお客さんに満足してもらって、そのお客さんが長く続けば、結局本人が稼げる分が長く続く、という考え方にして、短期的な評価をやめました。

武井

なるほど。これビジネスモデルの違いっていうのも結構ありそうですね。

倉貫

大きいですね。

武井

うちの会社は、社内にいっぱい職務があるんですよね。ディレクターもいれば営業もいるし、管理部門やプログラマ、デザイナーも。それでいろんな給料の決め方を考えて、散々試して来たんですけど、やっぱり営業にしても貢献度ってあからさまに差が出ますし、特にうちの場合は安定的な事業モデルにはどうしてもできなくて、新しいサービスを作るには技術的に能力ある人しか着手できなかったりします。やっぱりそういうところに対して適正な差がないとダメなんじゃないか、じゃあその適正をどうやって決めるのかというのを考えた結果、労働市場においてマーケットバリュー化してしまうという方法になりました。その労働市場にさらされるのは僕もなんです。僕の給料も、労働市場で僕という人間がどのくらいの評価をされるのかを見ながら、また会社の中で相場を作って、差が適正かどうかというのを半年に1回決めるんです。
人を評価しないというのは一緒で、1人ずつピックアップして「あなたの給料いくらがいいかな?」という話し合いはしないですね。

倉貫

世の中が決めてくれるってことですね?

武井

そうですね。で、この人とこの人の給料の差が適正かどうか、そういうところを調整しています。

倉貫

じゃあ労働市場を参考に、だいたい順位が決められてくるってこと?

武井

そうですね。労働市場だったり、彼の業務をアウトソースしたらいくらくらいになるかとか。

倉貫

そうですね。わかりやすいですよね。

武井

で、あとはこういう人を採用してくるとどのくらいの採用コストと採用の難易度があるかとか、そういうものを加味して、その1人1人の希少性をきちんと評価します。実力のある人ほど適正に評価されることになるので、辞める動機がなくなりますね。

倉貫

いいですよね。誰かが誰かを評価するんじゃなくて、マーケットに見てもらうのは、方程式というかロジックがあってやるわけなんで、人の意志があんまり入り込まないですよね。

武井

そうですそうです。

倉貫

それは僕らもいいなと思っていますね。

武井

雇用形態は自由なので、「この給料が納得いかない」と思うのであれば、雇用関係は解消してフリーランスになって、会社とフリーランス契約するかしないかをまた協議します。でもそれだったら会社としては契約しないなあ、とか、そういう話し合いが出てきますね。めちゃくちゃシビアですよ、給料に関しては。

倉貫

そこの原則は共通してる気がするなあ。誰かの意図をなるべく入れ込まないようにしている。

武井

そうですそうです。

仕事とお金は切り離して考える。

倉貫

僕らの会社も、給料やボーナスを社長の一存で決めてるわけじゃないから、全然社長が偉くないんですよね。本来社長というのは「お金を渡してやるから働け」というヒエラルキーで人をコントロールできるんだけど、僕らは面倒臭いからやりたくないんですよね。

武井

そうですよね。人事権って最強の権力ですよね。

倉貫

そう。会社にとって最強の権力なんで、みんな怖くて「一生懸命働こうか」ってなるし、そうすると、人事権持ってる人見て仕事するようになるんですよね。それは人がやるサービスの会社の中では、よくないですね。「お客さんを見ろよ」って話なので。

武井

いやもうその通りですね。

田原

ロジックを組んでしまって、そのロジックでやってるというのがクリアになっていれば、そこに人が入ってくる余地がなくなるから透明化されて、そこを気にしないで本来力を入れるところにみんなが力を入れられるようになるという話ですね、今の話は。

倉貫

そうです。その代わり従来の会社でいうところの「偉い人」が偉くなくなるので、人事権握ってのお山の大将的な気持ち良さはもう持てない。

武井

ないですね。

倉貫

それを僕らはもう諦めてますよね。別に求めてないというか(笑)。

武井

あと歩合制も入れてないですからね。

倉貫

うんうんうん。

武井

やっぱり仕事の細かい単位にお金を付けちゃうと、

倉貫

わかるわかる。

武井

だから「しょうがねえな」みたいな。

倉貫

そうそうそう。

武井

それで僕は坐禅に行き着いたんですよ。

倉貫

よくないね。

武井

ダニエル・ピンクの本でありましたけど、ボランティアでやったとしても報酬をあとでもらっちゃうと、お金のために仕事しはじめちゃう。

倉貫

そう、やらなくなっちゃうんで。

武井

なのでやっぱり仕事とお金の関係性を切り離さないといけないっていうのは、結構緻密に試しながら設計します。

田原

なるほどねえ。

武井

それとやっぱり人間の意識が「いい仕事する」にしか向かなくなるんですよね。

倉貫

そう。それでお金のことにしなくて済むのでいいんですよね。自分の出世のためだとか、上司に気に入られるだとか、給料上げるためにもっと頑張る!とかよりも、「目の前の仕事頑張ろう」ってなるので。

武井

いやもうそれしかないですからね。

倉貫

そう。それしかないし、社長の顔色伺うよりもお客さんに満足してもらった方がいいので、お客さんとしても嬉しい。

武井

そうですよね。全部の利害関係が一致するというか。

倉貫

そうそう。今までは外発的動機がないと人は働かないと思われてたんだけど、実はそんなことなくて、本人が好きで楽しい仕事だったら、ほっといてもやるんです。その時に、わざわざそれをコントロールしようとせずに、「お金のことは気にしないでいいよ」って言うためにうちの会社はベーシックインカムなんです。ベーシックインカムの実験してるみたいな(笑)。

執着を手放して客観視すると、物事は良い方向へ転がる。

田原

さっき武井さんが「坐禅に行き着いた」って言ってたじゃないですか。それは権力を手放して、ロジック組んで、社長が特に偉くないって状況になって、そこから坐禅には、どういう流れで行き着いたんですか?

武井

さっき倉貫さんがおっしゃってたみたいに、事業の成長をコントロールしないので、ほっとくしかないんです。でも早く結果が欲しかったんですよね。それに周りに同世代の起業家がいて、彼らはどれだけメディアに取り上げられるかとか、どこどこから何億調達しました!みたいな、そういう「できる感」を出した方が勝ち、みたいな…

倉貫

わかるわかる。かっこいいもんね、その方が。

武井

意図せず壮大なマウンティングをし合ってるんですよね。その中で僕は、会社の仕組みはホラクラシー的なものをずっと作りながらも、一個人として、頭の中で描いたものがすぐ欲しくなっちゃう。それで現場のみんなに「これどうにか早くできないのか」とかプレッシャーかけて、それがまた空回りを産んで、どんどんよくない方向に行って、その葛藤をどうしたもんかと。その結果、坐禅とか瞑想に…たまたまそういう方と知り合ってですね、体験会に行ってみたら、「なんかこれ救われる気がする」と思って。そこから事業での成長も手放しはじめて、すごく気が楽になって。また面白いことに、手放すとゆっくりですけど求めていた方かそれ以上の方に進んでいくんですよね。最初はアクセルをグーンと踏まないので、ゆっくり転がっていくんですけど、この転がりがだんだん早くなってきてる感覚もあるので、「こういうもんかな」と(笑)。

倉貫

ギャップを感じますよね、最初のやりたいことと結果できたことの。それすごいわかります。僕が社内ベンチャーを前の会社で任された時は、3年の執行猶予と「3年で何億」のバジェットをもらって、売り上げ目標建てられて、それを達成するというコントロールの塊みたいな状態でやらされたんで。そうするとこっちも「なんとか目標達成しなきゃ!」みたいになって、でもなかなか芽が出ないと怒っちゃうんですよね。

一同

(笑)

倉貫

「お前ちょっと根性足りないんじゃないか」みたいなことを言っちゃうんです。今でこそわかるんですけど、商売って相手があってのことなんで、自分たちがどれだけ一生懸命売ろうとしても、お客さんがいなかったら売れないし広がらない。要は事業も商売もコントロールしようとしてもできないんですね。

武井

そうですよね。

倉貫

プロダクトはまだ頑張って鞭振ったら、品質の良い、バグのないものを作れるかもしれないけど、それが実際売れるようにコントロールできるんだったら、誰もが簡単に計画を達成することができるはずで。その状況状況で波を見なきゃいけないんだというのは今でこそわかるんですけど、当時はわからなかったんで、ゴリゴリにやって、辞めていくメンバーも出て、すごく反省したんですよね。で、1年頑張ってみたけどどう考えても達成できないし、人もみんな疲弊してるし、もうやめよう!諦めよう!3年分会社からお金をもらってるから、残りの2年遊んでやろうと思って開き直って(笑)。そうやって開き直ってからはあんまり難しいこともきついことも言わなくなって、ゆるくやって逆に達成したんです。

田原

達成したんですか(笑)。

倉貫

そう。あの(ゴリゴリな)やり方はなんだったんだと。初速はゆっくりでも、回ってるとスピードが出てくるんですよね。僕はロードバイクに乗るんですけど、ロードバイクって最初はスピードが出ないんですけど、ずっと走ってるとすごく速くなるんです。でもいきなり最初から30キロとかは出ない。何キロか走ってないとそのスピードには達しないんです。

田原

そうですね。僕ももう半年以上瞑想をやってるんですけど、心が反応するのがわかるようになるんです。それは自分が「こうしたい」って思うものだったり、人から言われることだったりするんですけど、その反応がわかるようになった瞬間から自分の心と距離が取れて、「自分は何に反応してるのかな」というのを客観的に見に行けるようになったんですよ。そうすると自分が怒っている源がだんだんわかってくる。1番大きく気がついたのは、社会の理不尽さに対しての怒りですね。ものすごい怒ってたんですよ、数年間(笑)。それまで自分はもっと淡々と生きているイメージだったんですけど、実はすごく情熱的な部分がある人間なんだと、その怒りを通して認識できたんです。そうしたらその怒りのエネルギーをどう使えばいいのかなと考えられるようになって。怒ってるという状態の中に埋没してる時は全然考えられなかったんですけど。それが自分にとっては瞑想をやってて大きな成果だったなと思っています。

武井

なるほどなるほど。

倉貫

みんな瞑想してますね。

一同

(笑)

武井

その、もう1人の自分が自分を客観視するみたいなことって、心理学的にも研究されてますよね。北野武さんの本にそういうことが書いてあったんですよ。「どこかに冷めた自分がいて、もう1人の自分を見てる。だからどこでのたれ死んでもいいと思ってる」というような。そういう感覚がもろに書かれていて、すごいなと。だから執着がないというか、人生が整っていくんでしょうね。

田原

自分の周りの人に感情の爆発が起こったとして、自分もそれに巻き込まれちゃうとわからなくなっちゃうんですよね。さっき言ったみたいな感じでちょっと離れられると、「ここに情熱があって、こうなってるからここですごい反応が起こってるんだ」ということが見える。自分自身に感情の爆発が起こってる時も、離れて見られると、それに対して自分はこういうところが燃えて反応が起こってるんだ、みたいなことが認知できるんですよね。その洞察を出していくと、対立構造になっている人ともちゃんと繋がれるようになっていくんです。人同士が繋がっていく時に、絶対そういうフェーズがでてくるんですよ。自分の感情が反応しないで距離を取れる時は、この場のプロセスに対して洞察が出せるようになっていて、そこに悪者を作らないで存在を組み合わせられる。そういう気づきができてくるので、「あ、やっぱ瞑想しよう」と(笑)。

倉貫

客観的に見るために瞑想してるって感じなんですかね。

田原

ええ、反応に巻き込まれないようになるのがすごいですね。

武井

僕の好きな禅語に「只管打坐」っていう言葉があって、ただ座るって意味なんですけど、目的を持たなくていい。坐禅をするために坐禅をする。それがすごく衝撃的で。以前はなんでもかんでも問題解決したくてしょうがなかったんです。そういう思考回路でいくと、今度はどんどん問題を作り始めちゃうんですよね。「何が問題か」が先行する。なんでもかんでも問題にして、その問題を解決するために自分がいて。僕が最初に坐禅をした頃も、どうやったら自分の求めてる目標を達成できるか、その答えが欲しくて坐禅をしてたんですよ。

田原&倉貫

うんうん(笑)。

武井

坐禅は目的じゃない、坐禅がソリューションじゃないからって言われたんです。僕の会社の顧問が僧侶なんですけども、彼から「只管打坐」という言葉をあるタイミングでもらって、そこからすごく気が楽になりました。ただただ座る、でもそうしたらさっき田原さんがおっしゃったみたいに、自分のもやもやが見えてきたような気がして。それを解決はしなくてよくて、「今俺すごいムカついてるな」とか「今すごい焦ってるな」とか、ただそれを捉えて見てたんですよ。

倉貫

うんうんうん。

武井

そうしたらなんか整っていったんですよね。問題が消えたり、今までだったら起こっていたような軋轢が起こらなくなったり、それが僕だけの中じゃなくて、会社の中とか、周りでも起き始めて。そこから会社の経営がすごく楽になったんです。それまではもともとワーカホリックで何時間でも働けたんですけど、そこから比べると今って1/3も働いてないんです。でも会社はどんどん伸びていってるんですよね。新しい事業が生まれて、クリエイティブなビジネスモデルが生まれて、しかも労働は1/3。

田原&倉貫

うーん。

武井

なんだこれ、みたいな(笑)。本当にこの2、3年なんですけど。

アジェンダのない会議の大切さ

倉貫

問題解決をしないような発想という話ですけど、僕らの会社ではたまにオフサイトミーティングっていうのをやっています。現場から離れてただ話し合いをする、というものなんですけど。普通の会議だと会議の結果を出さなきゃいけないし、ディシジョンするための会議をしているところがあるんですけど、オフサイトミーティングでは、結論を出さなくていいんです。あるがまま、その場にみんなでいて話をするだけ。そういうゴールを決めない会議をやってると、それまで仕事の中では出なかったような話がみんなから出るし、普段会議の場では喋れなかったことが出てきたりするんです。誰が司会進行するでもなく、まあお酒がない飲み会みたいなもんですね(笑)。気軽に真面目な話をするっていう場を作ると、組織の中ではその時間がよかったのかなって、さっきの話聞いてて思いましたね。

武井

そうですよね。アジェンダのない会議大事ですよね。

倉貫

そうそうそう。

武井

うちの会社、すべての会議でアジェンダ作らないんですよ。

倉貫

へえ。

武井

そういう定点観測とか、定量的な確認とか、必要に応じてもちろんしますけど、確認して「はいおっけー」で終わっちゃうじゃないですか。「今みんなどんな感じなのか」というのは、雑談のようなコミニュケーションの中でしか表面化しない。だから雑談すごく大事にしてますね、うちの会社は。

田原

デヴィット・ボームという人が『ダイアログ』という本を書いてるんです。その中で「目標を定めちゃいけない。唯一あるとしたら、コヒーレントのコミニュケーションだけを目標にするんだ」と言ってるんです。で、「ダイアログ」というのは何かと言うと、「集団の思考プロセスに個人が入り込んで、集団の思考プロセスに変化を与えること」だと。それ、すごいよくわかるなと。今日もそうですけど、僕は何も決めないダイアログ的な会話を毎週毎週たくさんやってるんですけど、それをやってると、決めないことに対する不安がなくなるんですよね。みんなが並行して動いてるけど、それを自分が左脳でしっかり把握してなくても大丈夫、むしろその方がうまくいくということが体感覚でわかるんです。で、みんなの波長が揃ってるなあ、みたいなことをダイアログの中で感じられて、「今揃ってるからこんな感じでいけそう」みたいなのを確認できる時間になる気がしてるんですけどね。だからそれがアジェンダのない会議とかオフサイトミーティングみたいなものとかで、起こってるんだなと思います。

武井

なるほど。

倉貫

それがただのグダグダなミーティングになってるのかなってないのか整理がついていなくて、もうちょっと分析できそうな気がしてるんですけど、生産的な雑談が存在すると思っています。非生産的な雑談ももちろんあって、会社の中がいい状態になっている時は、生産的な雑談がうまくいってる感じがするなあ。

武井

少しフレームワーク的に捉えると、会議を大きく3つに分けて捉えていて、1つは情報を共有するための会議、それから意思決定だったり、承認を得るための会議、それからみんなで意見を出し合う発散のための会議。ただ、多分うちとかソニックガーデンさんみたいに、オープンな会社にしちゃうと情報の格差がそもそもないんで、共有の会議が必要ないんですよね。

倉貫

あ、ないない。

武井

で、意思決定者がいないんで、意思決定とか承認の会議もないんですよ。

倉貫

うん、ない。

武井

うちの会社に残ってるのって発散の会議だけなんですよ。つまり会議の時間がまず1/3なんですね。それでよくやるのがブレスト会議ですね。これは懇意にしている『面白法人カヤック』さんがやってるブレスト会議を、研究して、エッセンス持ち寄ってパクってきたんですけど(笑)。まさにプロセスに関与して影響を与えるっておっしゃってたじゃないですか。ブレストってそれをシステマティックにする素晴らしいフレームワークです。「とにかく数を出す」「周りの意見に乗っかって意見を膨らませていく」「全員が発言する」っていう3つのガイドラインがあるんですけど、この3つを守るために、『ファシリテーター』を必ずグループに1人作って、5分とか10分とかワントピックをみんなでワーワー話し合うと、そのプロジェクトに入ってない人でも、プロセスに関与するんで、当事者意識がすごい高まるんですよね。当事者であることとは何かというと、「プロセスに関与すること」なんです。プロセスに関与すると、結果が自分が思ってたのと違うことになってもそれを握れるんですよね。それをずっといろんなところでうちの会社が今繰り返してて、結構ブレストの会議を設計してるので、やっぱり会社全体の物事がすごい自分事化していくんですよね。これ顕著なんですけど、自分事化すると実行力が勝手に高まるんです。そうするとマネジメントが必要なくなるという好循環が生まれていく。

倉貫

いや、いいですね。よく「当事者意識持て」って言うけど、まず当事者にしろよって話なんですよね。

一同

(笑)

倉貫

「この会議には君は出なくていいよ」って言いながら、「当事者意識を持て」って言っても持てない。当事者になってもらうっていうのはいいですよね。

武井

そうですよね。会議とかその場の設計は、チャットワークとかスラックとかを使ってオンライン上に作っているんですけども、アナログの良さもあると思っています。アナログの方が雑談が生まれやすいので。

多数決はいらない

田原

民主主義って多数決をやるじゃないですか。分布していても一番保守的な人たちがたくさん真ん中にいるわけですね、一般的には。結局その人たちのところに決まるから、組織を変化させない仕組みになってると思うんですよ。それを自己組織化とか生命的にやるっていうのは、揺らぎがすぐ全体に共有されて、「それいいね」と思ったらその誰かの意見に寄っていく。そういう意思決定の仕組みがすごく大事だと思ってるんです。でもお2人の会社は社長が独断で意思決定する会社ではない。ある意味トップダウンの会社だと、目端の利く社長がいて、「俺がバックアップしてやるから、お前のアイディアやれ!」と、揺らぎに対して、リソースを振り分けていったりできると思ってるんです。そういう「社長」の権力を少なくした時に、その部分はどうなるんだろうという疑問が湧いたんですけども。

倉貫

うちの会社、言ってもきかないんですよね。そういう仕組みにしておいてあれなんですけども、カチンときます、たまに。思いつくのはやっぱり僕で、流行を作るというか、ムーヴメントを作るんです。昔やったのは、日報じゃなくて日記。日記の方が、在宅してる人たちの仕事以外の様子もわかるからいいかなと思って。でも「日記を書きなさい」って業務連絡をしてもみんな書くわけがないので、最初言い出した僕ともう1人で楽しそうにやったんですよ。きゃっきゃしながらコメントし合ったりする。そうすると「なんか楽しそうだな」と輪に入ってきますね。そこから日記ブームがくるんですよ。逆に思いついてやってみても、ムーヴメントにならないやつは自然に廃れます。新しい文化が起きる時は、誰かがやりだして、みんなが楽しそうだなと入ってきたら流行るし、流行らなかったらそれはそこまでの制度だったってことでおしまい。

武井&田原

うーん。

倉貫

だから指示命令できる会社の方がなんぼか楽だと思います(笑)。

田原

なるほど。

武井

多数決って民主主義じゃないと思うんですよね。全く別物だと。あれってITがなかった、前時代の意思決定の方法で、しょうがないからやってたと思うんです。民主主義的な会社を作りたいと思って多数決を導入したことがあったんですけど、やればやるほど会社が硬直化していくんですよね。

田原

(笑)

武井

だってマジョリティをとるわけじゃないですか。マイノリティを捨てる。リーダーシップって絶対にマイノリティですから。

田原&倉貫

うんうんうん。

武井

リーダーシップって、他の人が見えてない中で、「次はこれでしょ!」っていう言い出しっぺみたいなものでしょう?でもそれが多数決を繰り返せば繰り返すほど、失われていくんですよね。2年間くらいやって、どんどん会社がダメになって行ったんですよ。業績はどんどん落ちるし、全員が同じ意見にたどり着くなんてやっぱりなくて、意思決定もできなくなっちゃって、身動き取れなくなったんですよね。結論として「全然よくねえじゃねえかこれ」と。
なので多数決やめました。いいと思ったらとりあえずやってみればいい。いいものは残るし、ダメなものは廃れるし。

倉貫

そうですね。自然に淘汰されますもんね。

武井

それやってみて、世の中を見渡してみると、今の世の中の仕組みって全部多数決で決まってるんですよね。政治もそうですし。会社法の取締役も取締役会で多数決で決まりますし、株主の議決権も多数決ですし、それは今の世の中の会社悪くなるわ!と思ってですね。それで今度はシステム的に会社の中を多数決で決めない制度設計に取り組んでいます。うちの会社の場合は社長役員を毎年選挙で決め直すことによって、役員の多数決を無効化してるんですけど、今年取り組んでいるのが、株の議決権を切り離して、会社の中に働く人みんなが組合員になる株の管理組合を作るという試みで、そこに議決権を持たせるんです。そうすると実態として個人が権力を持たなくなるんですよね。それを実施しようと思っていて、今監査法人に確認をとってるんですけど。「前例がなくて何も言えない」って言われちゃって(笑)。

一同

(笑)

武井

税理士さんからも「何がしたいんですか?」って(笑)。「権力をなくしたいんです」って言ってるんですけど、「意味がわからない」って、理解してもらえない(笑)

倉貫

いや、うちもね税理士さんや社労士さんに全然理解されなかった(笑)。5年くらい付き合ってようやくわかってもらえたけど。

目標も計画も持たずに、どんどん変えていく

田原

武井さんの面白いところは、一通りまず全部やってみるってところから始まるじゃないですか。多数決も、何年やってみてこうなったからやめたっていう、その試行錯誤の積み重ねがすごいなっていつもお話伺ってて思うんですけど。

武井

相当遠回りですけどね。それは多分ただ単に僕が社会経験がないっていうだけだと思うんですけどね。「経営はどんぶり勘定ぐらいがちょうどいいんだよ」なんてよく言うじゃないですか。間に受けて「管理会計やめちゃおっか」って本当にやめたら会社潰れそうになったとか(笑)。

一同

(笑)

武井

そりゃ会計しなきゃダメだよって話ですけど。そういう凡ミスですよ単なる。

倉貫

やってみてリカバリするんですね。始めるのも軽いけど直していくのも軽く直せるから、トライできるって感じなのかな。「始めたからにはやり続けなきゃ!」だと、始めるのもなかなか難しくなりますよね。

武井

そうそうそれすごい重要です。うちの会社、取り組みをやめる仕組みとか、もっと捨てる仕組みとか、やめやすい仕組みを整えてるんですよ。出口を整えると入り口が寛容になるんですよね。「とりあえずやってみるか」ってなんで言えるかっていうと、簡単にやめられるからっていうのが重要だと思って。3ヶ月に1回会社の中をひたすら断捨離するんです。その時に、PL、BSも断捨離するんですよ。

倉貫

(笑)

武井

無駄なコストとか、各人のパソコンのデスクトップとか、クラウドのドライブとか、そういうとこもバンバン捨ててくんですね。月額で契約してるクラウドサービスで使ってないやつとか。IT系だと新しいサービスってすぐ課金して使わなきゃダメじゃないですか。

倉貫

ね。それでいっぱい契約したりしてますからね。使ってないのに。

武井

でもそれで3ヶ月ごとに見直して、無駄を排除するようにしてるので、「とりあえずやってみよう」ってみんな言いやすいんですよね。

倉貫

制度も棚卸ししていけばいいんですよね。

武井

多分一般企業って、1度やり始めたことを、死守するっていう圧力がすごく強いんですよね。

倉貫

そうですよね。多分普通の会社は1年単位で計画立ててそれを守ろうとするんです。目標とか計画の悪さってそこだと思っていて、立てたからには達成するのを頑張る、みたいに途中で思考停止しちゃうんですよね。「思考停止しないこと」というのがうちの会社の理念なんです。目標決めて計画通りやるのって、実は楽なんですけど、毎週毎月、ミーティングして変えるもんは変えていきます。つい先週言ったことも「ごめん」とか言って変えるし(笑)。でもそれ、目標も計画もないから変えられるんですよね。

武井

すごいわかります。でもうち予算のシミュレーションは結構見られるんですよね。予算を立てることとシミュレーションを練ることは全然別物だなって思っていて、今の売り上げや伸びを加味して、3ヶ月後、半年後どうなるかなというのを色んなパターン練って、いい場合だったらここまでいくだろう、最悪の場合はコストがこのぐらいかかるから、損益分岐点がここ、なんて数字の部分はすごくシビアに把握してるんですよね。

倉貫

わかります。見通しと計画は違うんですよね。

武井

シミュレーションした上で、でもそれは目標として守らなければいけないものではなくて、1パターンとして認識しておいて、あとは今現在を細かくチェックしていくっていう。

田原

計画に入った瞬間、その計画に関係する情報だけが入ってきて、その関係しない状態がノイズとして落とされるじゃないですか、無意識に。そうすると、その計画が仮に達成されたとして、どれだけの「もしかしてよかったかもしれない」情報を無視し続けてきたのか。そこが嫌なんですよね、僕も。

武井

計画の抽象度を上げていくと、ビジョンとか理念になってくるなと思ってます。言葉遊びみたいな感じですけど。うちの会社はもう理念すら明文化しないって決めていて、強いて言えば「自然の摂理にのっとった経営をする」、ただそれだけが理念みたいなものですね。一般的な会社、もしくは強いコントロールがある会社って、理念を「現場をコントロールするツール」として使うわけじゃないですか。「うちの会社はこの事業で世の中をこうする!」とか「必要とされる会社」とか。でも我々からすると「いやそれコントロールだから」と。しかもそういうものと、組織設計と人事評価制度とかが全部連動してて、それに基づいて現場の人が動く、つまりトップにコントロールされるという。でもそうするとおっしゃる通り、それ以外のものを見る必要がなくなりますからね、多分想定外のことは起こらなくなると思うんですけど、逆に奇跡が起こらなくなると思うんです。
うちの会社も一時期管理をしっかりしようとした時期があって、

倉貫

え、ちゃんとしようとしたの?(笑)

武井

はい(笑)。でも管理を突き詰めていくと、想定外のコストとかはなくなるんですけど、なんにも奇跡が起こらなくなって、会社も仕事もドンドンつまらなくなっていく。

倉貫

いやーつまんないね。

武井

ちっこいベンチャーで奇跡が起こらなかったら、つまんないアルバイトと変わらないですから。そういう考えを捨ててからまた会社がよくなっていったので、やっぱり何も決めなくていいんだなって(笑)。

倉貫

本質的にそういう仕事つまんないですよね。楽しく仕事したいので、風紀委員みたいなやつ嫌いです。

一同

(笑)

倉貫

別の目的があるならね、上場するとかのタイミングで風紀委員が必要なのかもしれないけど、そうじゃなかったらいらないなあ。

思考の枠組みをずらすと、見えるものが変わる。

田原

思考がリフレーミングする瞬間に、外にものすごい影響力が広がるなっていう実感があるんですよ。ずっと思い込んでやっていたことに、「あ、違ったんだ!」と気づいた瞬間、ふっと思考の枠組みがずれてその人自身に変容が起こるじゃないですか。そこからその人だけじゃなくて、周りにもその影響が波紋のように広がっていく。その「枠組みがずれる瞬間」に奇跡が舞い込む可能性があると思っているんですよ。枠組みがずれて動く時、今まで見ていなかった可能性にも広がる。そこに違うものが入ってくる可能性と、その変容の可能性が周りに広がって、コミュニティの中に火花が散り始めると、どんどん面白い状況になる。それが社長のような大きい存在のフレームが動く瞬間は、組織にとってはすごい影響になりますよね。僕のコミュニティも、「ああ、自分がボトルネックになってるな」みたいな状況に定期的になるんですけど、そこを動かした瞬間また新しい展開を見せてくれるんです。

倉貫

リフレーミングはどういうことがきっかけで起こるんですかね?その人にとって。

田原

何かに困って、最初は周りをなんとかしようとするんですけど、結局「自分のこだわりがこの状況を作ってるな」ってわかったら、こわごわ動かしてみる、みたいな感じですね、自分の場合は。

倉貫

実態に合わせて視点を変えるってことですね。自分が見てる場所とは違うところにあるから、その視野を変えるたり広げたり。「こだわり」という枠を外さないと外が見えなくなってるってことですね。

田原

「違うだろそれー!」と思ってたのは、自分のフレームだったからで、それがずれたら、「いやよかったんじゃないの?」って急にひっくり返っちゃう。

倉貫

そういうことが起きるのが、チームとか組織をやってる楽しさですよね。

武井

確かにそうですね。僕自身プログラミングできないし、実務もみんなに頼るしかなくて、それなのにみんながいい方向に向かっていくともうありがたいです。それは自分自身の経験値としても溜まっていくし。僕自身がプログラマとしてガリガリやってたら、もっとうざがられたかもしれないですね。

一同

(笑)

倉貫

そうね。それは僕も同じかもしれない。35で社内ベンチャー始めて、それまで僕ずっとプログラム大好きだったんで、メンバーに対して全部言えるし、なんなら俺がやるし、と思っていたんですけど、経営やるってなってから、プログラムは封印しました。

武井&田原

ほおー。

武井

え、今やってないんですか?

倉貫

いや、今年はまた再開したんですけど。

一同

(笑)

倉貫

プログラムをやりながら経営もできるかなと思ったんだけど、例えば今営業やってる人がちょっと片手間でプログラミングやりたいんです、本気でプログラマになりたいんですって言ったら、プログラマからすると頭にきますよね。僕がちゃんとした経営者になりたいって言いながら、プログラマ辞めずにいたらこれは松下幸之助に怒られるなと思って。だから経営だけに取り組んで、経営の勉強一生懸命して。そうするとプログラムできなくなってくるので、みんなに頼るしかない。社内ベンチャーだったんで、人事権をそこまで持ってるわけでもないし、強くも言えないし、お願いしてやってもらうのがベースにありますね。できなかったのが逆によかったのかな。

武井

松下幸之助さんの本に、社員が千人超えたらもうお願いするしかなくて、1万人超えたらもう祈るしかできないんだよって書いてあって、すげえなあこの人って(笑)。

田原

でもそのやってもらって達成されていくのは、自分がやったときには味わえなかった嬉しさとか喜びがありますよね。そういうのってトップダウン式にやってる人が感じるものと、武井さんや倉貫さんが感じるものは違うんじゃないかなって思うんですけど、どうなんですかね。

武井

そうですね、トップダウンだと現場が自分の思う通りに動いたかどうかが気持ちいいところですからね。そうするとやっぱり手柄はみんなボスのものになっちゃいますよね。

倉貫

武井さんのところも僕のところも、昔ながらの会社を経営してる感じじゃないんですよね。コミュニティがちゃんと稼いでるような。

武井

そうですね。

組織も人もどんどん変化する。

田原

では最後に、今までいろいろ話してきてどういう風に感じたかとか、話しておきたいことがあったらお願いしたいんですけど。

倉貫

最初のテーマでもありますが、会社を自分ものじゃないと思ってるんです。メンバーがいるからメンバーのものなので、社長のものじゃない。最近会社に人が増えてきて、この会社にもう人が入れないんじゃないかってたかだか30人くらいなんですけど思ってるんです。今までいた人とは違う属性の、スキルもキャラクタもちょっと違うような人が応募してくるようになったんですよ。その一方でその人ができるような仕事も別途来るようになってきて、要するに事業部を分けるようなことが起きつつあるんですね。キャラクタやスキルが違う人たちを一緒の会社にしちゃうと、前からいた人たちが、「俺たちの会社を勝手に分けて」ってなっちゃう。で、普通会社を分割するような動きは、社員がスピンアウトして会社作りますという形になると思うんですけど、僕らは逆で、会社がある程度育って大きくなってきたので、社長と副社長が新しい会社を作るんです。今の会社はもうだいたい回るんでみんなに任せて、新しい会社を作って(キャラクタやスキルが違う)新しい人たちをそっちに入れようと。

一同

(笑)

田原

細胞分裂的な動きですよね。

武井

へえーなるほど。面白い。僕は、田原さんの研究されてる「生物がどういう風に進化するのか」っていうのをもうちょっと勉強したいなと思いました。まだまだうちの会社はこれから変化が起こりそうな兆しがあって、その時には多分普通の会社の変化や成長の仕方ではないと思うんで、田原さんの専門のところを勉強したら参考になる気がしてます。例えばそのざわつきとか分裂っていうものが自然界においてありうるものなのか、それとも不自然なのかとか、そういうのはもっと知りたいなって思いましたね。

田原

なるほど。それを受けてだと、僕は大学院を中退して、生命科学を専門にやって教授になったという人でもなく、組織を運営しているわけでもなく、いろいろ中途半端できたんです。でも全部つなげると、「この話をこの人たちに違う文脈で語れる」というようなことができるなって感じ始めています。みんなそれぞれの人生のルートを歩んできて、独自の存在になっているはずなんだけど、「独自な存在である」というところになかなか自信が持ちにくい。けど、それ以上でもそれ以下でもないから、その「独自な存在」というところから発信していこうって始めたところで、多分自分のマインドが変わって、周りも色んな動きが出てきてる。今回の行動もその1つだと思っています。
武井さんとか倉貫さんがその話に加わってくださって、対談も実現して、本当にありがたいなと思ってます。ありがとうございました。

 

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