【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 林宏昌(株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 エバンジェリスト/Redesign Work Inc. 代表取締役社長) × 岩崎奈緒己(リモートワーク研究所副所長)

【ボクらの働き方 第3回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 林宏昌(株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 エバンジェリスト/Redesign Work Inc. 代表取締役社長) × 岩崎奈緒己(リモートワーク研究所副所長)

『働き方改革』は『新規事業開発』に近い

倉貫

林さんの言う通り、働き方改革を新規事業だと思ってやれば取りかかれそうな気がしますよね。

今、マーケットやテクノロジーの変化がすごく速くなってきて、未来が見通せないところがありますよね。以前はトップの人たちにあらゆる情報が集まってきて、じっくり6カ年計画を描いて、現場が着実に実行して…という形でしたけど、もう今のスピードでは6年後とか言ってられない。だからもう現場から具体案を出して、面白ければどんどん事業計画に昇華させていく、真逆の動きに変わっていかなきゃいけない時代になってきてると思うんです。

倉貫

「ピラミッドを作るんだ!」って言って3段ぐらい作ってるうちにブルドーザーが誕生してるぐらいのスピードなんですよね。「なんで石を手で掘ってたんだっけ?」みたいなことが起きてる時代に、みんなで言われた通りにピラミッド作るなんてもうやってられない。ところで新規事業をウォーターフォールでやってもだめだってことにすら気づいてない人はまだ世の中に多いですよね。

多いですね。

倉貫

すでに確立した事業ならどれだけ頑張ったらどれだけのリターンがあるかが見えるけど、新規事業にそれを求めるのはナンセンスだなと思っていて。僕も新規事業をやった身ですから、数字で見るのをやめようとか、多産多死で、1年に1回だった新規事業立ち上げを毎月にしましょうとか、そういうことをしたいのはよくわかるんです。でも一方で、僕がその会社の経営陣だとしたら、株主に対してどう説明をするのか、もしくは自分が経営者としてどこで安心するのかというのを考えてしまいますね。

ボクらの働き方

年に12回としたら、生まれる確率が高まるのかが不明確ということですか?

倉貫

そうですし、「計画なんてナンセンスですよ」と新規事業を作る売る人が言ったら、僕はそれに金を出していいんだろうかって思うんです。もしくは金を出したものの、多死ばかりでいつまでも何も生まれない場合に、それに対する不安がどうやったら解消されるのか。計画や数字っていうのは、経営者がステークホルダーへの説明だったり、自分への納得や安心の為にあるものだと思っているんですが、それを「ナンセンスだ」と言い切られてしまった場合に、どうすれば良いのかという…。

投資家と中長期で「こんな事業を作っていきたい」というロマンは語りつつ、「今期は少なくともこれぐらいやります」というものを掲げて、それを着実にクリアしていくことの積み重ねで、ステークホルダーの皆さんとは信頼関係を作る。ただ、前提としては対話が重要で、場合によっては新しいファインディングスがあると、ピボットする必要もありますので。一定程度既存事業の磨き込みでKPIを達成し、新規事業がうまくいった分は美味しいと思ってくださいね、という形になりますよね。

倉貫

うんうん。

「これが3年後には多分1千億ぐらいになるはずなんです!」って叫んでも、実際危なくてしょうがないじゃないですか。だからそれはもうプラスアルファと考えてもらうんです。ただし、そのプラスアルファにどれだけ本気で取り組むのかっていうのが大事なポイントで、事業側がその既存の磨き込みに使う時間を効率化したり、あるいは何かを捨てながら、新しいものに時間を振り分けていくことが必要になってくると思います。

倉貫

プラスアルファね。

インプットを得ることも大事ですね。企業としてのトランジションはもはや「やらないといけないこと」なので。面白そうなベンチャーに声かけて組んでみるとか、そういうことから始まっていくことってたくさんあるじゃないですか。

倉貫

その為には余裕を作りましょうということですね。

そうですね。それぞれの従業員が持ってる人脈の中からどんどん進めていくべきなんですよ。昔だったらその人脈の先が大きい会社さんで、上司同士が話し合って「提携する」なんて大ごとになっちゃってましたけど、今はもっと現場レベルでライトに組める。コストだってすごく下がってますし。

倉貫

そうですよね。もっとカジュアルに進められるはずだし。

リモートワークを福利厚生的に使わない

岩崎

リモートワーク研究所でも同じように、相談を受けたり取材したりしてやってると、最初の出会いはリモートワークの文脈なんです。リモートワークについて何か発信したいという話で出会って、その先で、例えばちょっと作りたいものが出てきたときに、開発もやってるよね?となったりする。ひとり分のツテからいろんな文脈で広がっていくっていうのは結構あるって思ってます。それにリモートワークに興味を持たれてる会社さんって、ライトなんですよね、やりとりが。広がっていくことに慣れてるというか。そうやってライトに繋がっていけるのは、いいところですよね。

そうですね。だから僕らはリクルートの中でも、副業でお手伝いしてる会社さんでも、次のステップを見せていかないといけないなと思っています。
例えばコミュニケーションを増やして、意思決定のスピードを早くすると、会議の時間をグッと減らせるだとか、営業がサテライトオフィスをうまく活用すると、一日あたりの平均移動時間が減るよとか、リモートワークや働き方改革が、売上や利益
に直結する新しい価値の実例を出せるといいなと。

岩崎

そうですね、実例が一番わかりやすい。

ボクらの働き方

リモートワークを福利厚生的に捉える一側面ではダメだと思うんですね。そうじゃなくて、育児や介護があるので通勤ができない、あるいは家でやる方が便利、みたいな人たちはリモートワーク使えばいいし、好奇心旺盛な人は、いろんなお客さんのところで働いてみたらいいし、その結果、副業とか働く場所が変わったことによって出会った人とどんどん事業を繋げて加速させたり、新しい事業を作っていけるみたいな事例が、徐々に出てくると盛り上がりますよね。

岩崎

攻めの話題が結構少ないんですよ。

そうそう。狙ってはいるけどまだ事例が少ないから。

倉貫

そうなんだよねえ。

だから、皆さんと一緒に作っていきたいです。

岩崎

僕もリモートワークの相談を受けてると、産休育休に入らなきゃいけない社員が、仕事を続けるためにリモートワークの制度を導入したい、っていう会社が多いんです。その文脈はすごく多いし、成功事例でもそのパターンがかなり多いんですよね。その代わり、攻めの営業マンが、リモートワークしたら業績が倍になりました、みたいな話題はあんまりない。

倉貫

ないね。

岩崎

業種によってやれることやれないことあると思うんですが、今まで訪問型、来店型でやってるビジネスが劇的に変わってくるんじゃないかと思っているんです。リモートワーク自体を福利厚生レベルじゃなく扱えば、もっとやるところが増えてくるんじゃないかな。さっき言ったように、会社の戦略としてやるような、それこそ新しいビジネスモデルになるぐらいの。それをいろんな業界でこれからやっていくのが大事かなって。

思いますね。単純なところで言うと、訪問の概念がなくなれば、移動時間が全くなくなる訳ですから、スピード感が違うはずなんですよね。そこからだって全然違う働き方のバリューが生まれてくる。

名刺に書きたい「テレビ会議ウェルカム!」

岩崎

ちょっと余談なんですけど、訪問って、行くのも来てもらうのも、そのために1時間会議室とると、短く切れなくなりますよね。

あ、そうなんですよ。

岩崎

営業の訪問って、最初の15分くらいで「これは違うな」って思っても、お互い気まずい雰囲気のまま、後の45分くらいズルズル続くじゃないですか。

わざわざ来て頂いたっていう忖度が働く。

岩崎

忖度働きますよね。お互いにもはやそこにいたい訳じゃないのに、失礼な感じがして…。

一同

(笑)

ボクらの働き方
岩崎

お互い時間が勿体無いですよね。でもリモートでの営業だと、話し始めてすぐに「これは違うな」ってお互いにわかった時に、その場でツールを売るという目的は捨てて、未来のお客さんになってもらう望みを託して、一番良いソリューションを提案するんですよ。それで10分で終わっちゃったりする。でもそれって、無駄がないじゃないですか。移動がないし、お客さんも欲しいもの持って帰れるし、僕も最低限の時間でファンを獲得できるかもしれない。そういうやり方がもっと広がれば変わるんじゃないかと思って。

だいぶ変わると思いますね。コミュニケーションって色々あるじゃないですか。議論、ブレスト、情報共有や意思決定。その中で、物理的対面が必要なのって、ホワイトボードを使いながらのディスカッションとか、ポストイットに書いたものをペタペタ整理したりすることくらいで、それ以外のコミュニケーションはむしろチャットやテレビ会議が一番いいと思っています。特に初回訪問こそテレビ会議が合理的ですよね。ちょっと導入を話して、お互いに合致しそうなら、膝付き合わせて絵を描きながらやりましょうかって話になって初めて「会おう」と。

岩崎

そうですね。物理的に会うんだったら物理的空間に実際に手で触る必要がある時とか、手を動かしながらやるとかね、せっかく会うんだから、そういうものにフォーカスした方が良い。会うことがちょっとした非日常になるんですよね。

倉貫

初対面こそテレビ会議。なんか初対面は顔を合わせて挨拶した方が失礼がないと思われてるけど、むしろテレビ会議でいいですよね、こちらは。もう名刺に書きたい。「弊社テレビ会議全然失礼に当たりません!」。

一同

(笑)

そうそう。まさに同じ文脈で、「テレビ会議ウェルカム!」って名刺に書くキャンペーン広げられないのかっていう話、以前に倉貫さんとしましたよね。相手に来て頂くということは、そのためにこちらもオフィスに馳せ参じることになる。今までみたいに当たり前にオフィスにいた頃は、フロアを変えて会いに行くぐらいでそんなにパワーかからなかったけど、今は違うから。本来はお互いに「テレビ会議でよくないですか?」って一言言えていれば、よかったものなんですね。なんですけどこれが言いにくくて。僕が「テレビ会議でいいですよ」って言うと、どういう意図で言っているのか相手が戸惑っちゃう。

一同

(笑)

「そこは私たち対面でしっかりとやらせて頂きますので!誠意です!」って。テレビ会議が逆にしっかりしてないって印象があるんですよね。

倉貫

軽く見られちゃうのもありますね。

今後は訪問を受ける人のことをもっと考えないといけない時代になりますよね。相手が30分の訪問を受けるために、2時間くらい通勤にかけることになるってことが起こりえますからね(笑)。今だと、そんなこと言ったらわがままな印象になったり、「テレビ会議でやりませんか?」って言えたとしても、相手がテレビ会議に慣れていないと、「申し訳ありません。弊社遅れててそういうことがちょっとできないんです…」ってすごく申し訳ない雰囲気になることがあるんですね。

岩崎

あーある!すごいある(笑)

「あっいいんですよ。いいんですよ」ってこっちも申し訳ない雰囲気に。

岩崎

ITツールを作ってるような会社でも、問い合わせると、「じゃあ営業で訪問に伺うんで!」と言われることが多いですね。「訪問しないでオンラインで営業してもらえますか?」って言ったら、「オンラインは対応してません」なんて。

一同

(笑)

ボクらの働き方
岩崎

意外と営業の人って、対応してなくって。

行くのが正しいと思ってる前提が根強くあるから、そこでお互い「テレビ会議ウェルカム」って書いてあると、「おっ、ウェルカムですか?やりましょうか?」って感じになりやすいから、もっと広がって行くんじゃないかなって。

岩崎

ロゴマークみたいなやつですね。

可愛いロゴを作って頂きたいな。シールみたいなものをペタって貼ってやれるといいなあ。だって言い出す時のトーンがね…。

倉貫

難しいですよね、言い出すの。

そうそうそう。