【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 林宏昌(株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 エバンジェリスト/Redesign Work Inc. 代表取締役社長) × 岩崎奈緒己(リモートワーク研究所副所長)

【ボクらの働き方 第3回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 林宏昌(株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 エバンジェリスト/Redesign Work Inc. 代表取締役社長) × 岩崎奈緒己(リモートワーク研究所副所長)

おもしろおかしく働きたい

岩崎

ちょっと前までは人数がいればいるほど利益や効率が上がるとされてきましたよね。それがITや、これからAIの力で、その考え方で組織が成り立たなくなってきた。それぞれが自分自身の強みで勝負していかないと、無理なんだと思うんですよね。なのでそれを見つけなきゃいけないんだけど、従来のシステムの会社の中で、強みを探って試すってなかなか難しい気がします。営業部の部長が「実は俺、IT強いんですよ」って言ってもどうしようもないというか…。

副業だったら自分で選べるからね。

岩崎

そういうわけで、その時代から次の時代へのトランジッション的な役割になる。

なるなる。

岩崎

強制的に見つけなきゃならないし、自分でなんとなくわかってる人が踏み出せる。

倉貫

あと、昔の副業は本業で足りない分のお小遣い稼ぎのようなニュアンスだったけど、今はもっと意味が変わって来てますよね。多分好きな仕事しかやらないんじゃないかな。小遣いにもならない、スキルアップにもならないみたいな仕事は選ばない。考えたら、つまり人間は本質的につまらない仕事は選ばないし、本来はやりたくないんじゃないかなと思っているんです。

ボクらの働き方

そうだと思います。

倉貫

副業として、面白い、楽しい仕事をする。副業がもしそれで成立するんだったら、古来からの発想である「辛い労働をしてお金をもらう」という考え方を捨てて、本業だってそれで成立すればいいじゃないと僕は思うんです。すべからく世の中は好きで面白いことばっかりになっていいと思うし、人類はそういう風になるように、文明とか産業とかを進化させてきたんじゃないか、ほっといても絶対その方向に進むんじゃないかなと。

そうですね。

倉貫

なので今の、「働く時間を短くしましょう」みたいなのはとてもナンセンスに見える。もっとみんな好きで楽しいことをして、それが仕事になるようになればいいなあと。

そうなんですよね。「ライスワークなのか?ライフワークなのか?」という話がありますけど、僕らやもっと若い世代になってくると、より価値とか意味とか意義とかを大事に思っているじゃないですか。しかもシェアのカルチャーになってきてもいるから、好きな仕事をして、生きていけるだけのお金が欲しい。「面白い仕事できてるか?』というところがポイントになりますよね。

「何になりたいか」ではなく「どうなりたいか」

リクルートやっぱりすごいなって思ったのが、入社した日から「何したいの?」「どうしたいの?」って聞かれるので、自分が何をどうしたいのか、自分の中で探求しながら仕事をしていくんですね。でも、それが無かった人たちが、突然「何やりたいの?」って言われても、考えて来なかったので…。

倉貫

今まで言われてないことを急に言われてもね。

そうなんです。だからもっとふわっとした、グラデーションのある問いを子供の頃から投げかけていけると面白いんだと思います。子供に「将来何になりたいですか?」って聞くじゃないですか。あの問いが多分間違ってるんです。「何になりたい?」じゃなくて「どうなりたい?」なんですね。天職だと思える仕事を見つける為にはその手前の、「どうなりたいのか?」とか「何が自分のモチベーションなのか?」を気にしながら生きていかないと、ある時突然「好きな仕事やったらいいじゃん」って言われた時に、かわいそうな気もしてて。

岩崎

そうそう。そうですね。

ボクらの働き方

「そんなこと言われても見つからないですよね」って、旅に出ちゃう気がする。

一同

(笑)

岩崎

自覚的に「自分はこれは好き」とか、「これだったらずっとできる」とかを見つけたらある程度わかってくるんじゃないですかね。そこにちゃんとはまってたら楽しく仕事ができて、逆にそこから外れると面白くない、続けられない。でもそこが自覚できないんですよね。なんでかって言うと、「警察官」「学者」「野球選手」っていうラベルで見ていて、「どうなりたいか?」の問いかけがないから。これからはもっとその問いかけが必要だし、人間は根本的にはそっちの方がわかりやすいんだと思うんですよ。

結局そこに社会的な価値観みたいなものが入ってきて変わるじゃないですか。だから小さい頃はそれこそ「正義の味方になりたいから警察官になりたい」って言ってた人たちが、就職する頃には「銀行で窓口やりたいです」みたいになってきちゃう。「何がやりたいから銀行の窓口を目指してるんですか?」って聞いても「安定的だし、そこだと親も安心します」なんて言う。でもこれからは「あなたは何がしたいの?」がもっと求められていくし、個人が力を持てる時代だから、突き詰めて言ったらそれが今儲かるかもしれないし。

新しい価値観と働く、新しい形の組織へ

倉貫

僕らの会社も今新入社員が24歳なんですけど、その彼ととある市町村の視察に行って、案内してくれた、多分僕の20くらい上の市役所の人と、その24歳と僕が一緒にご飯を食べてると、話が噛み合わないの。

一同

(笑)

倉貫

市役所の方が若者に、「やっぱり車とか欲しいの?」とか「冬になったらみんなでスキー行くの?」とか話しかけるんだけど、もう返事が「車は別に欲しくないですね」とか、「スキーはそんなには…」なんて全然噛み合わない。年配の方も若者もお互い理解できない。おじさんたちが現役だった頃は情報はマスメディアしかなくて、ステレオタイプで「かっこいい人」の真似して遊ぶし働くしっていう世の中だったのが、今は情報がありすぎて、若者に聞くと、「やりたいことがありすぎるんです」と。色々やりたいから持ち物は少なくていいって、もう違いが圧倒的なんですよ。

ボクらの働き方

なるほど。

倉貫

だから個人の価値観を大事にする人たちが出てきていて、これからの若者がみんなそうなってくるとしたら、会社として、若い人たちが欲しいのに、昔の価値観でやってたら人来なくなるし、きてもやめちゃう。新しい感覚の人たちに合うようなマネジメントスタイルにすることは、実は会社にとっては合理的なんだなと。

いやほんとそう思いますよ。面白い。僕ら毎年トレンドワードを発表するんですけど、去年のワードのひとつが「ボス充」。「ボスの充実」です。若手に「どういう上司をかっこいいと思いますか?」と聞くと、大多数の人が、「ライフが充実しているボスがかっこいい」って言うんですね。昔の人は「仕事ができる人がかっこいい」。24時間働けているとか、仕事で成功している人がかっこいいって言われていたけど、今は家族と楽しくやってるとか、副業とか、ライフ側が充実してる人を、「人間的に幅がある」「ああいう風になりたい」と思うと。ボス側からしたらほっといてくれって話なんだけど(笑)

一同

(笑)

倉貫

その人たちが変わってきているので、会社もマネジメントも変わらないとやれないし、同世代のおじさんたちだけで会社やるなら昔の価値観でやれるかもしれないけど、新しい価値観と一緒に働くとなったら、従来のやり方じゃない組織のあり方を考えなきゃなと。

既存を疑え!

社内でね、「対等に議論しよう」ということを再三言っているんです。例えば「リモートワークをやるよ」って言った時に、「リモートだったら生産性上がるって証明しろ」って言われる。それなら逆に、オフィスに来ることで生産性が上がるってことを証明してくれと。それで、どっちの方が生産性が上がるかっていうのを戦わせる。やるんだったらそこまでフラットじゃないとおかしいでしょう。なんで現状が正しいという前提で、リモートワークの生産性を証明しないといけないのか。もはや今が正しいという前提自体を疑っていかないといけないと思っています。

岩崎

自分の軸足を動かさないで、そこから見える景色だけで話をしちゃうと多分動けないんですよね。圧倒的に今よりいいものが出てきた時にやっと動くんだけど、その時はもう遅い。なので、相対的にみることは、僕もすごく大事だと思うんです。相手側から見る。リモート側からみてオフィスは大丈夫なのか、リモートの生産性を疑うんだったら、オフィスの生産性はどうなのか。逆側から見る思考がないと議論がうまくいかないですね。

だから両方やってみないといけないんですよ。

岩崎

そうですね。で、オフィスの人たちは、だいたいオフィスから離れて働く人たちを「リモートワーカー」って言うんですけど、自分が在宅するようになったら、むしろオフィスの人の方がリモートワーカーに見えるんですよね。本来リモートワークって、相対的な関係性のことで、チームとか組織のレベルの話なんですよね。それをずっとオフィスの軸足から見て、あいつら離れてるって言うようになっちゃうのは勿体無いなと思うんです。

そうそう。そうだと思うなぁ。

岩崎

でもそういう話するとオフィスの人、「何言ってんの?」みたいになりません?

「生産性なんてそんなのどうやって測るんだよ!」って。

一同

(笑)

それは新しいことの良さを証明しろっていう問いじゃないですか。既存のものがなぜ正しいのかってところの問いはないんですよね。既存の何かを疑ってかかることを常に内包していかないと。だって外部環境が変わって、自分たちが変わらないんなら、それは相当遅れてる可能性が高いので。

岩崎

まあ失敗してないとその確率は高いですよね。やってないから。

「切腹型モデル」には学びがない

グロスマインドセットなので、とにかく失敗もして成功も含めて学んでいくことがテーマ。でもやっぱり大企業の人たちを話をすると、「失敗をするな」が圧倒的に強い。あと失敗するとですね、切腹型モデルってとこが結構多い。

一同

(笑)

岩崎

新しいワード出てきましたね。

失敗した時に「どう責任取るんだ」という問いを投げるか、「この失敗から何を学んだのか」って問いを投げるかで真逆の効果があるんです。切腹型モデルの一番良くないのは、学びがないんですよ。「誰が責任取るんだ!」「私がとります!」「潔いな!!」以上終了で、何がダメだったのかが語られない。

岩崎

あるある。

でもそれって組織に何も昇華されてないんですよね。失敗は「ナイス失敗!」で、そこから何を学べたのかがあれば、次回に活かせますし。「失敗すんなよ」はそもそも変だし、学びもほぼない。この2つが組織の成長や人の成長を非常に遅くしてる。これが大企業の課題かなって思ってます。

ボクらの働き方
岩崎

そっちの方が楽なんですよね。そこから昇華するとなるとすごい労力が必要だし、ある意味クリエイティブな要素が必要になってくるし。だからそこに負荷がかかるよりは…ってなりがちですよね。

なりますね。だから切腹型モデルが横行するんです。成長はフィードバックの数なんですけど、その質と量を得る手段として、日々挑戦をしないといけないと思うんですよ。それには当然失敗も成功もあるはずで、そこを成功するだろうという見立てのものだけやっていると、学びがどんどん小さくなってしまう。勿体無いでしょう。部署の働き方がみんなにフィットして、かつ、業績を高めるような働き方になっていけるように、学びながら育てれば、3年後、5年後は最高の働き方になっているはずなんですよね。業績も伸びているはずで、個人も自由で副業もやれてて最高!そうでなければ。

進捗会議って、必要?

岩崎

働き方について定量的な目標を設定しても、遅れているか遅れていないかしか見てないケースもありますね。しかも中盤まではそうやっていて、中盤以降はどうやって当初の目標にこじつけるのかということにシフトする。

帳尻を合わせるのかっていうね。

岩崎

学ぶ姿勢とは全然違う方向に労力が使われちゃいますよね。

そうなんですよね。一般的な会社を見させていただくと、進捗会議をみなさんやってるんですよね。まさに進捗具合を報告するやつを。やらなきゃいけないのは、「遅れてます」「課題が出ました」ってことをいかに共有してどう対策するのかってことなのに、進捗会議ではまた忖度問題が出てくるんです。しかもリスクはなるべく隠して。うまくいってないなんてバレたら、「どうするんだ!」って連呼されるから、まあまあ大丈夫です!って誤魔化しちゃう。

一同

(笑)

結局上の人たちが「うまくいってるんだな」って思うための会議です。はっきり言って必要ない。でもそういうことが溢れてる。だからこそ大企業は一定程度社会的価値が必要なんだなと。定期的に根本から見直すことはやり続けないといけない。方針を決めても方法論がないと進まないので、具体的なその方針を実現する技術的なアイディア、あるいは具体的なやり方というのがパッケージじゃないと進んでいかないんですよ。そうすると今度はバックキャストで描くことにえらく長い時間をかける。長いことかけて美しく描きすぎて、今度は完璧を求めようと思って最初の一歩が始まらない。これが日本の現状ですね…。

岩崎

あっ、暗い感じに。

一同

(笑)

世の中から「つまらない仕事」を無くしたい

倉貫

じゃ、ちょっと明るい未来について。僕がいたシステム開発の業界は、当時もっともひどい業界でした。デスマーチで、ウォーターフォールで、滝の一番下で何人も倒れてるみたいな感じでもう見てられない。もっと良いやり方が絶対あるって思って、働いている人がハッピーで、お客さんもハッピーでその上生産性も上がる!って、アジャイルを言い出したんですよ。その時に何が1番いいんだって経営陣に言われて、生産性もだKPIも出して、結局「会社が楽しいんだよ!」って言ったら「アホか!」って怒られました。

一同

(笑)

倉貫

でも楽しい方が絶対生産性が上がるっていうのは今となっては良くわかるし、その当時ずっとそう思ってたんだけど、全然理解が得られない。だからもう自分で証明するしかないなって。

体現するんですね。

倉貫

僕が今会社をやってるのは、自分の論文の証明をしているようなものなんですよ。「ね、正しかったでしょ?」って言いたいし、もしそれをやれてる会社があるんだってわかったら、俺もやれるかもしれないって、変わってくれる人が増えたらいい。僕が明るい未来のためにやらなきゃいけないことは、このやり方を続けていって、証明し続けることですね。

僕はね、とにかく一人一人の個人のエネルギーを最大化していくことが、この後の社会において大事で、そうすると個人あるいは小さい組織がそれぞれ新しい取り組みをちょっと始めてみて、成功や失敗から学んで、その事例が使える組織をまた横展開していくってことが、結局一番幸せかなって思ってるんです。

倉貫

学びが連鎖して提供されていくのはいいですよね。

計画をまず立てて、その通りに進めるということが正しい時代ではもうないので、ダイナミックな計画は一旦捨てて、まず価値を産みそうなものをみんなで作りながら、それをプロトタイピングして、条件を変えたりしながら実証実験をして、成功したら攪拌させていく。そういう形で、会社の進め方ややり方が真逆になるといいなと思ってるんですよね。企業のトップマネジメントの人上の方の人たちっていうのは戦略家というよりは投資家なので、下の人たちの多様性を湧き上がらせて、チャレンジさせて、学ばせて、どんどんドライブかけていくために。で、出てきたものにさらに投資をしていく。ミドルマネジメントがいらなくなりますね。フラット化していく。

倉貫

いやそうですね。フラット化していくのでいいかなと思ってます。権力があるんで。権力って意味がわからない。

一同

(笑)

倉貫

影も形もないものですもん。みんな勝手に縛られてる。そのコンセプトみたいなものに縛られているのは、人類として損失だと思うんで。別に何があるわけでもない。

「権力」とか、「偉い」とかもはや意味がわからない。今の人の中でフィットしてるよねってだけの話ですよね。いくら偉く立って、プログラミングやらせてみれば当然ズブの素人。だから、役割。

倉貫

そうそう、そこを組織として変えていけたらいいと思うし、そういう会社が増えたらいい。

とにかくさっき言った、面白くて働く、「俺こんなことやりたいんですよ、次の仕事で!」って、そういうことに溢れている社会にしたいですね。「つまんねえ仕事!」とか言ってるのをなんとかしたいですよね。

ボクらの働き方
倉貫

世の中からつまんない仕事を無くしたいんだよね。生活のために仕事するって、未来人みたいだけど、とても原始的だなって。

一同

(笑)

倉貫

生活のために働くって、マンモスとるのに苦労するっていうことですよね。鍬で農業しなきゃならなかったのは大変だと思うけど、もうそういうこと自体減ってるから。「なんのために人は生きるのか?」みたいになっちゃうんですけど、そこを考えるのが人間なんじゃないですか。みんなが「なんのために生きるのか?」って考えてる社会ね。えらいことになると思いますけど。それが未来。

そこに日本的な自他不分離みたいな、相手も、コミュニティにとってもいいのかみたいな。この思想のなかで割としっかりやっていけると面白いのかなって思いますけどね。「相手のために」とか「コミュニティのために」とか、日本的で素敵なことなんですけど、「自分を犠牲にしてでもみんなのために」となると、行きすぎるので、その間くらいのバランスを探して未来を作っていかないといけないし、そういうことを社会に発信していけたらいいと思うんですけどね。