裁量労働制とは?
実際の労働時間がどれだけなのかに関係なく、労働者と使用者の間の協定で定めた時間分だけを「働いた」と見なし、労働賃金を支払う仕組みです。
労働者が自分で労働時間を管理し、企業は原則としてそれを行わないのが特徴で、出退勤時間の制限が無く、実労働時間に応じた残業代は発生しません。適用される職種は法律で決められており、情報処理システムの分析・設計や記事の取材・執筆など11の業種が、裁量労働制を適用される業務とされています。厚生労働省の2017年の就労条件総合調査によると、雇用されている人の1.8%が裁量労働制で働いているそうです。
裁量労働制の導入方法
裁量労働制の導入には、会社側(使)と労働者側 (労)が労使協定を結ぶ必要があります。具体的に「労働者」とは、労働者の過半数を代表する人物を指します。社内に労働組合があれば、その代表が「労働者」となります。
労使協定の締結によって、出退勤時間の指示はしないことや、みなし労働時間制の規程など、労働基準法38条の2第1項各号で定める事項すべてについて定め、労働基準監督署に届け出なくてはなりません。
裁量労働制の種類
専門業務型裁量労働制
裁量労働制には2つの種類があります。労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出れば、どの業種も裁量労働制を取り入れることができるというわけではありません。業務の性質上、労働者の裁量に委ねる業種のみ、裁量労働制を導入できるのです。これが、専門業務型裁量労働制です。
以下のような業種が当てはまります。
- 研究開発
- 情報処理システムの設計・分析
- 取材・編集
- デザイナー
- プロデューサー・ディレクター
- その他、厚生労働大臣が中央労働委員会によって定めた業務
- コピーライター
- システムコンサルタント
- ゲーム用ソフトウェア開発
- 公認会計士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- インテリアコーディネーター
- 証券アナリスト
- 金融工学による金融商品の開発
- 建築士
- 弁護士
- 税理士
- 中小企業診断士
- 大学における教授研究 など
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象にしています。
企画業務型裁量労働制の導入は、労使委員会を設置し、5分の4以上の多数決を決議せねばならず、専門業務型裁量労働制の導入よりハードルが高くなります。
裁量労働制の本質
「場所と時間に拘束されない」というのが裁量労働制の一番わかりやすい特徴になりますが、仕事の進め方や時間配分を働き手にゆだねる裁量労働制は、生産性向上への本人の意識を高められるという意義があります。
ところが「裁量に委ねる」ということは、企業側からすれば、「働いている時間が把握できなくなる」ということ。そうすると、実働とは関係なく、協定で定めた時間(例えば8時間など)を働いたとみなして、成果で評価をするというスタイルになります。
成果ベースなので、それを目標に効率的に働ける、という解釈が理想ですが、陥りやすいのは真逆の「成果のために時間も健康も無視して働く」という解釈。このため労働者が不当に搾取されることになるのではないかという懸念があります。
現在の日本に様々な労働制度が存在する目的は、「労働者の保護」にあります。悲しいことに多くの日本の経営者たちは、従業員を酷使しようとする傾向にありますし、日本は職の流動性が低いため、労働者側も我慢しがちです。そのために法での規制が存在するのです。裁量労働制もあくまでそんな労働制度のひとつ。
「労働者の裁量に委ねる」をただ「労働時間の管理は企業側はノータッチ」と解釈してしまうと、企業側の「労働者を守る」という責務を無視することになってしまいます。企業と労働者が雇用契約を結んでいる限り、企業側がある程度労働時間の実態を把握して、労働者ひとりひとりに適切なケアを行うというミッションに変わりはありません。なので「労働者の裁量に委ねる」は、「仕事の開始・終了を自由に決められる、指示を受けない」「時間を記録して申告しなくても良い」「労働時間と報酬は連動せず、成果と報酬が連動する」と解釈し、企業側は、ある程度働いている時間を把握しつつ、健康面に配慮しながら成果で評価するというのが良いのではないでしょうか?
裁量労働制の注意点
1.残業代
裁量労働制で誤解されやすいのは企業側の「労働者保護」の責務が「緩まることはない」ということです。
「労働者の裁量に委ねられている」からと言って、労働者が働きすぎて体を壊してしまったら、それに関しては企業側の責任が問われることなります。
本人の意思でおもむろに作業を始めたりやめたりでき、それこそが生産性を上げることに繋がるので、細かい作業場所や時間は現実的に把握できないかもしれません。
しかし仮にそうだとしても、企業側はざっくり平均このくらい、という「みなし労動時間」を設定しなければなりません。そして同時に、それが実態とかけ離れていないか把握することが求められます。そして深夜や休日の労動は裁量労働の枠から外れるので、別に時間を把握して対応しなければならないのです。
2.時間の把握
「場所と時間に拘束されない」のが裁量労働制ですが、「時間をしっかり把握する」ということは大切です。
それは実際に働いている時間と、会社が「働いている」と考えている時間の乖離が大きくならないようにすることが目的。実態を把握した上で、企業側が心配であれば健康に配慮することができますし、健康であることが前提でたくさん働きたい人であれば、残業代を出すなどの対応で双方納得することができるからです。
時間における一番のポイントは「実態と大きく乖離してないか」であり、事細かに時間を記録すれば良いというものでもありません。バーチャルオフィスツールを導入したり、チャットで頻繁に声を掛け合うなどして、何となくお互いが今何をやっているかが把握しあえる環境を作るというのが大切です。
3.健康、福祉を確保するための措置
企業側は、労働者の心身の健康に配慮する義務があります。勤務状況や健康状態に応じて代休や特別休暇を付与すること、定期的に健康診断を実施すること、連続した有給休暇取得の促進、産業医による指導、心と体の健康相談窓口の設置、その他対象となる労働者の勤務状況を把握し、健康状態に応じた措置が必要となります。
リモートワークと裁量労働制
リモートワークは、働く場所について本人の裁量を大きく認めていますので、本人の裁量を重視する裁量労働制と相性が良いと言えます。
リモートワークでも、利用条件や今回ご紹介した注意点をクリアできていれば、裁量労働制を使うことは可能です。労働者が働いている姿を直接見ることができないので、働き過ぎに気付きにくかったり、管理職が不安を抱いてしまうというリモートワーク特有の問題は、バーチャルオフィスツールを利用することである程度解消できるでしょう。
現在議論が飛び交っている裁量労働制ですが、大切なのは「働く側に裁量があり、雇用する側は働く側の健康に配慮し、結果効率よく働く(成果をあげる)ことに繋がる」、そしてこれは「双方にとってメリットである」という本質を知ることです。
これを踏まえ、より良い選択ができるように、「働く人の幸せとは何か?」を今一度考えてみませんか?
リモートワーカーがより働きやすい環境づくりのために、次の記事で労務管理について理解を深めましょう。