リモートワークを制度として導入する場合、オフィスを前提とした各種規則の見直しが必要です。
特に労働時間の管理や労災などについては、私生活との境界が曖昧になるため、会社も社員も不安を抱くケースが多いです。双方が安心してリモートワークを活用できるように、準備を進めるようにしましょう。
なお、ルールの文言やルールを支えるツールについては、リモートワークの知見を持った専門家(社労士、コンサルタント等)に相談すると効率よく検討が進みます。リモートワークラボでも窓口を設けているのでぜひご相談ください。
ここでは、検討や認識合わせが必要となりやすい以下の項目について、ポイントを説明します。
リモートワークの始め方
リモートワークを導入する場合、社員の希望に応じて対応するケースと、オフィススペースの縮小などを背景とした会社の方針として実施するケースがあります。
社員の希望に応じて対応する場合には、リモートワークの利用条件(部門や年次等)を定義した上で、申請と承認のルールを作成し、説明会等で周知を行います。
会社の方針として実施する場合には、該当社員の採用時には明示されていない勤務形態となり、労働条件の変更にあたります。改めて労働条件を明示し、合意することが必要です。
なお、一定の条件のもと、就業規則に定める労働条件を労働契約の内容とすることが認められており、就業規則の変更によって労働条件を変更することも可能です。ただし、社員側に不利な条件で一方的に就業規則を変更することは原則認められていません。リモートワークに適したコミュニケーションツールの導入や評価制度の見直し等と合わせて実施すると良いでしょう。
労働時間の管理
労働時間の管理は、適用する労働時間制によって異なる点があるため、各種労働時間制について整理した上で考える必要があります。
労働時間制の適用条件
労働時間制はリモートワークする社員の業務実態に合わせて選択する必要があります。以下の条件を参考に、適切な労働時間制を選択してください。
- 労働時間が算定できる場合
- 1日8時間、週40時間の労働時間制(労働基準法第32条)
- フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)
- 変形時間労働制(労働基準法第32条の2、4)
- 業務の専門性が高く、担当者の裁量で作業の進め方や時間配分を決めた方が良い場合
- 専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)
- 企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)
- 労働時間の算定が困難な場合
- 事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)
- 会社の重要な決定に関わり、高待遇で出退勤の自由が認められている場合
A、B、Dについてはリモートワーク導入前から就業規則に記載があり、リモートワークする社員を想定しても特に問題となる点がなければ変更の必要はありません。(※1)
入退室のカードリーダーの利用など、リモートワークでは対応できない記述がある場合には修正が必要になります。就業規則とは別に、リモートワーク対象者に特化した内容をまとめた別規定を作ることも可能です。
Cについては、以下条件に該当することが求められます。業務の実態と比較して、条件をクリアしているか確認しましょう。
- 業務が自宅で行われること
- PCが使用者の指示で常時通信可能な状態となっていないこと
- 作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
※1:Bの裁量労働制、Dの管理監督者の適用には、リモートワークに関わらず満たすべき条件があります。詳細は以下リンクをご確認ください。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/home.html
リモートワークと労務管理
労働時間の把握
過剰労働の抑止や残業代の未払い防止の観点から、リモートワークにおいても労働時間の把握は重要です。対象者の業務内容を鑑みて、労働時間の把握に効果的なルールを検討しましょう。
例えば、以下のような取り組みを行っている会社があります。
- 始業、作業中断、作業再開、終業の際にメールやチャットで連絡する
「みんなで楽しく働きやすく」が「やさしい循環」を生み出す〜株式会社JAMSTORE(後編)
- オンラインタイムカードツールを利用する
- 2、3名で小さなチームを作り、オンライン会議ツールで常時接続する
大切なのは、働く『場所』より『コミュニケーション』〜自律的に動いて考える人々・合同会社コベリン(前編)
作業状況の把握
オフィスであれば手を動かしたり、話している様子が見えますが、リモートワークでは作業の状況を把握することが難しくなります。そのため、管理者は「本当に作業をしているか見えない」、作業者は「頑張ってるのが伝わりにくい」といった不安を持つ傾向があります。労働時間の報告以外にも以下のような取り組みを検討すると良いでしょう。
- 2〜3時間単位でチャットやオンライン会議で状況を確認する
- 定期的にPCに接続したカメラで作業者を撮影し、チームに共有するツールを導入する
- ランダムに作業画面のキャプチャを取るツールを導入する
- 2、3名で小さなチームを作り、オンライン会議ツールで常時接続する
労災(労働者災害補償保険)
リモートワークであっても労災の対象となるケースがあります。労災には通勤災害と業務上災害があるため、それぞれについて説明します。
通勤災害は、基本的に勤務先と自宅との間の災害に対して認められるものなので、自宅作業であれば考慮は不要でしょう。コワーキングスペースへの移動中については、定期的にコワーキングスペースで作業することが常態化していれば認められる可能性があります。業務上災害は、自宅・コワーキングスペースから客先への移動時と、各作業場所での災害が想定されます。
自宅もしくはコワーキングスペースから客先への移動時は、被災状況によって対象となるかの判断を行います。各作業場所での被災については、業務に起因しているかどうかの証明が必要になります。そのため、システム上で他のメンバーと常時接続しているなどの状態が求められます。ただし、腰痛など既往症があるものは、特に労災認定が難しいことに注意が必要です。
リモートワークの特性を踏まえ、労災の適用条件について予め対象者と合意しておきましょう。
セキュリティ
リモートワークではオフィスと異なる環境で作業を行うため、セキュリティに関してもルールの見直しが必要な場合があります。
リモートワークでの作業を前提として、まずセキュリティポリシーを確認します。セキュリティポリシーは業務上遵守すべきセキュリティの考え方がまとまっているもので、詳細なルールの拠り所となるものです。会社の理念や経営方針に合わせて、適切な修正を行いましょう。
セキュリティポリシーの見直しができたら、業務で利用する端末やオンライン文書の管理などに関わるセキュリティルールを策定します。ペーパーレス化が進んでいない場合には、文書等の持ち出しや保管について検討が必要です。ペーパーレス化を行ってからリモートワークを開始すると、コストとリスクを抑えることができますので、この機会に検討すると良いでしょう。
セキュリティの向上には、従業員が従うルールの策定に加えて、技術的なセキュリティ対策を実施すると効果的です。例えば、以下のような取り組みを行って入る会社があります。参考にしてみてください。
- 端末へのログイン時の生体認証、複数パスワード認証
- オンラインツールへのログイン時の多段階認証
- ログイン情報が漏洩した疑いがある場合のアカウントロック
- HDDの暗号化
- ウィルス対策ソフトの強制導入
各種手当
各社の制度やリモートワークの頻度にもよりますが、リモートワークをすることで新たな費用が発生したり、支給していた手当の見直しが必要となる場合があります。
新たに発生する費用の例
- 業務上のやりとりを行うための通信費
- 冷暖房のための光熱費
- カメラやマイクなどの機材を用意する費用
- 業務で利用するパソコンの費用
- コワーキングスペース等の利用料
見直しが必要な手当の例
どちらに関しても、リモートワークを開始する前に十分に話し合って、ルールを決めることが大切です。ルールが決まったら、必要に応じて就業規則等に反映することも忘れないようにしましょう。
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