大企業を中心にテレワークに取り組む企業が増えてきましたが、中堅中小企業ではなかなか思うように進まないのが現状です。しかし、その一方で、テレワークを導入して残業時間削減、業務の効率化などに成功している中堅中小企業もあります。大企業がテレワークを取り入れやすい背景、中堅中小企業でテレワークが進まない理由、どんな中堅中小企業がテレワーク導入に成功しているのか事例でご紹介します。
目次
テレワーク導入企業のほとんどが大企業
IT専門調査会社・IDCが2017年に従業員数が2人以上いる企業を対象にテレワークの導入実態を調査しました。その結果、約14万社(全体の約4.7%)がテレワーク導入済みであることがわかっています。
テレワーク導入済み企業の規模を詳しく調べてみると、「従業員数500人以上の大企業」が23.6%。「従業員499人以下の中堅中小企業」はわずか4.9%でした。
この調査から大企業の方が、テレワーク導入に積極的であるといえます。しかし、日本の企業の99.8%が従業員数500人未満の中堅中小企業。0.2%しかない大企業がいくら積極的にテレワークに取り組んでも、国内の大半を占める中堅中小企業のテレワーク導入が進まなければ、本当の意味で働き方改革の成功といえません。
大企業でテレワークの導入が進む背景
大企業でテレワークの導入が進む理由の1つに、女性や高齢者、外国人など多用な人材を活用するダイバーシティへの取り組みに積極的なところが挙げられます。少子高齢化の影響で子育てや介護で離職する社員を減らすための施策です。また、全国に拠点があるので、テレワークを行っても顧客の要望に迅速に対応できるといったメリットも大企業ならではのもの。
テレワークにはICTの導入が必要不可欠です。しかし、ICTの導入運用には専門知識のもったシステム管理者や導入後のランニングコストが必要となります。その点、大企業は中堅中小企業と比べたら、ICTを導入に必要な人的リソースや経営資源もあるので、テレワーク導入に有利です。
しかし、大企業といっても全業種でテレワークが実現するわけではありません。テレワークを積極的に取り入れているのは情報通信、金融、サービス、製造業など一部の業種のみ。顧客と対面で接する機会の多い医療、教育、介護、保育などは、顧客の個人情報流出の危険や大規模な研究機材の制限などが理由で、テレワーク導入は難しいといわれています。
情報通信、金融、サービス、製造業であっても全従業員がテレワークに移行できるわけではありません。業務にパソコンが必須で、個人で作業を進める割合が高い事務職、エンジニア、マーケティング、営業職など一部の職種に限定されます。
顧客と直に接する窓口業務、販売業務の従業員はこれらの業界に勤めていてもテレワークへの移行は難しいでしょう。現に銀行はインターネットバンキングの普及が進んでも、支店の仕事はいまだに窓口での対面業務がメインです。
中堅中小企業でテレワークがなかなか進まない理由
2017年に総務省がテレワーク未実施の企業に「テレワークを導入しない理由」のアンケートをとった結果、73.7%の企業が「テレワークに適した仕事がないから」と回答しました。
中堅中小企業でもパソコンを使う機会が多い事務職や営業職などではテレワークの導入ができそうな気がします。なぜ「適した仕事がない」と答えたのでしょうか?
厳密にいうと中堅中小企業は「テレワークに適した仕事がない」のではなく、「1社員が複数の業務を抱えていて業務仕訳が難しいからテレワークに移行できない」状態です。
大企業と違って人手の少ない中堅中小企業では複数の業務を1人の社員が掛け持ちすることはよくある話。従業員数が100人未満の中小企業では、総務・人事・経理などバックオフィス系の業務を1部門にまとめて5人以下の従業員で回すことも少なくありません。
そのため、中堅中小企業でテレワークの導入が進まない真の理由は、社員1人ひとりの業務範囲が広く曖昧なため、大企業のように業務の区分を明確にできないからといえます。
その他にも運用ポリシーや労務管理のノウハウが中堅中小企業は、大企業と比べて少ないのが現状。こうした背景から、現在、総務省は、中堅中小企業向けに先進企業のテレワーク人材活用例や労務管理、運用ポリシーなどノウハウを積極的に周知していく方針です。
地方の中堅中小企業のテレワーク実践事例
なかなかテレワーク導入に踏み切れない企業がある一方で、テレワーク導入に成功した中堅中小企業もあります。総務省がまとめた「地域企業に学ぶ平成30年度 テレワーク実践事例集」から、テレワーク導入に成功した中堅中小企業を5社ご紹介します。
株式会社流研
同社は、北海道にある従業員数61人のシステム企画、ソフトウェア開発などを行う企業。テレワーク導入は、育児休暇を終えた女性社員が、保育所の不足と通勤時間の問題を会社に相談したことがきっかけです。2017年4月から正式に社内規定にしました。
普段の業務では電話、メール、チャット、グループウェア、スカイプを利用。特にスカイプの画面共有機能を使うことで、予想以上に打ち合わせがスムーズに行えるとのことです。テレワークを活用することで、会社に相談を持ちかけた女性社員の問題は解決できました。
株式会社岡部
富山県にある従業員数91人の土木・建設業、公共施設や保育所などの遊具設計を行う企業。2010年から少子化対策に貢献する目的で、育休中の社員向けにテレワークを制度化しました。この制度化のおかげで若手社員の採用増加につながり、全社員の約3割が10~20代です。
社員は、遊具の施工・点検などで全国各地の現場を訪れるため、各拠点にあるウィークリーマンションをサテライトオフィスにしています。また、拠点が離れた社員同士で効率よく設計図や報告書が情報共有できるようクラウド型のグループウェアやスマートフォンを積極的に使っています。
弁護士法人 古家野法律事務所
弁護士3人、事務職員4人が在籍する京都にある弁護士事務所。事務職員の出産を機に2012年から仕事と子育ての両立支援の取り組みをはじめ、2015年に弁護士にもテレワーク導入を開始。2018年3月に弁護士事務所ではじめて「くるみん(子育てサポート企業)」の認定を受けました。
オフィス以外での用事が多い同事務所。テレワーク導入にあたり、スマートフォンの事務所の内線電話化やテレビ会議システムの積極的な活用で、移動時間の削減と協働案件の効率化を図りました。また、ITツールを使って職員のスケジュールや日報、業務の進捗状況を共有することで、職員全員の残業時間の大幅な削減が実現しました。
株式会社広島情報シンフォニー
同社は、1988年に障害者の雇用拡大の目的で広島県と広島市、民間企業の共同出資で設立された情報システム企業。従業員数177人のうち42人が障害者です。テレワーク自体は1992年から導入され、通勤が難しい障害者に社会参加の場を与えたいと思いから始まりました。現在、42人の障害者のうち11人が在宅勤務を行っています。
同社のテレワークは、視聴覚障害者向け放送用字幕の制作が中心です。スカイプを使ってオフィスにいる健常者の社員と自宅で働く障害者の社員がオンラインで分業して作業を進めています。
サイファー・テック株式会社
同社は、セキュリティに特化してソフトウェアの開発・販売、ソリューションの提供を行う企業。2003年に設立した当初は東京本社と徳島市の中心にオフィスを設けていました。しかし、ベンチャー企業であるせいか、なかなかよい人材が集まらず業績は横ばいのまま。
2012年5月に採用強化の目的で、徳島県海部郡美波町にサテライトオフィス・クリエイティブスタジオ「美波 Lab」を設けました。そのおかげで2年後の2014年には7人しかいなかった社員が約4倍に。家庭の事情でやむを得ず都市部の職場を退職した女性社員が、生まれ故郷の美波町のサテライトオフィスで働いています。彼女はこれまでのキャリアを活かしつつ、余暇には家族の面倒や趣味の狩猟を楽しむなど充実した生活を送っています。
リモートワークラボでもテレワーク導入企業にインタビューしています。詳細はリンク先をご確認ください。
まとめ
社員1人ひとりの業務範囲が広く曖昧なため業務仕訳が困難、ICT導入に必要な経営資源の不足などの理由で、中堅中小企業のテレワーク導入を阻む壁はまだ大きいです。しかし、その一方で、テレワーク導入のおかげで通勤・残業時間の削減、子育て中の女性や障害者の活躍、雇用拡大などに成功した中堅中小企業もあります。そのため、テレワークに適した職種であれば、やり方次第で中堅中小企業でもうまく実現できると考えて良いでしょう。
テレワークを導入したい中堅中小企業は、まずは社員1人ひとりが抱える業務の洗い出しから行ってみてはいかがでしょうか。そこからどの仕事がテレワークに適しているのか業務仕訳をすることをおすすめします。
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