はじめに
近年、政府が働き方改革を推進するなか、その具体的なの解決策のひとつとして「テレワーク」への注目が高まっています。テレワークとは、「テレ(離れたところ)」と「ワーク(働く)」とを組み合わせて作られた造語で、所属する組織から離れ、場所や時間にとらわれない働き方を指します。
今回は、多様な働き方を確保し、組織力強化につながるという、いま注目されるテレワークについて、その現状や効果、導入に向けた課題などについて解説します。
1.テレワークとはなにか
そもそも「テレワーク」とは、どういうものでしょうか?冒頭でも簡単に説明しましたが、ここではもう少し詳しく、テレワークについてみていきましょう。テレワークを推進する日本テレワーク協会では、以下のように説明しています。
テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。
※「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語
テレワークは働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、モバイルワーク、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)の3つ分けられます。
「テレワークとは」日本テレワーク協会
ここで説明されるように、テレワークとは、自宅をはじめ、移動中やサテライトオフィスといった所属する会社以外の場所で、いつでもどこでも仕事ができる働き方のことを指します。現在テレワークは、政府の働き方改革における、柔軟な働き方の環境づくりの一環として、関係省庁がテレワークの普及と環境整備に向けたさまざまな政策を実施している渦中にある状態です。
政府がテレワークを推進を急いでいる背景には、人口減少社会の到来による、労働の担い手不足への懸念があります。日本の人口は2008年をピークにすでに減少しはじめており、2018年度の「人口動態統計」によると、出生数から死亡数を引いた人口増減はおよそ44万4千人の減少で、戦後最大の減少幅になっています。
総人口の減少に伴い、労働生産人口も減っていくなかで、企業では人手不足感が増加。こうした人手不足解決のひとつの具体策として、テレワークの導入が注目されているのです。テレワークが普及することで、時間や場所にとらわれず誰もがさまざまな形で労働に参加できるようになることが期待されています。
2.テレワークによってもたらされる効果
テレワークの効果は、働く人、雇用する人、社会全体それぞれメリットがあります。
まず働く人にとっては、多様で柔軟な働き方ができるようになること、仕事と育児や介護・治療が両立できること、通勤時間を減らせることが挙げられます。
時間や場所にとらわれない働き方ができることにより、自宅などにいながら働く人それぞれの時間で仕事ができるため、いままでなかなか働くことが難しかった、子育て中の主婦や介護する人、障害のある人など、誰もがさまざまな形で労働に参加できるようになることが期待されているのです。
また雇用する人にとっては、生産性の向上や優秀な人材確保、離職の抑止、コスト削減、事業継続性の確保が、さらに社会全体としては、労働力人口の確保、地域活性化、環境負荷の軽減などの効果が挙げられます。
3.テレワークの現状
そんなさまざまな効果が期待されるテレワークですが、現状はどうなっているのでしょうか。テレワークの実態についてまとめた、国土交通省による「平成29年度テレワーク人口実態調査」によると、以下のようなことがわかります。
テレワークという働き方に対する認知度は、「知っていた」と「聞いたことがあるが内容はよく知らない」を合わせて、62.6%で、過半数以上の認知度がある一方、勤務先にテレワークの制度があると答えた人の割合は、16.3%でした。
テレワーク制度を導入している企業の割合については、従業員が1000人以上の組織が25.1%と最も多く、従業員が増えるほどに制度を導入する組織の割合が高まる傾向があります。一方で、所属先に制度があるかわからないと答える人が、どの組織の規模においても全体の3割程度いることも明らかになりました。
組織に所属する場合、テレワーカーの業種は、情報通信業が33.8%、学術研究・専門・技術サービスが27.0%と多く、最も低かったのが宿泊業・飲食業で7.2%。職種は管理職、営業、研究職がそれぞれ30%前後であり、テレワーク制度がある企業に所属している人のうち、およそ半数がテレワークを行っていることがわかりました。
このようにテレワークの認知度はほぼ過半数ある一方で、テレワークを実際に導入している企業や利用している人の割合は1割程度と少なく、また業種や職種によってテレワーク実施の格差が激しいこともわかりました。
4.テレワークにむけて解決すべき課題
では、テレワーク導入に向けた課題にはどのようなものがあるのでしょうか。働く人、雇用する人、社会全体にとってそれぞれに解決すべき課題があります。
働く人にとっては、成果報酬主義により結果的に労働時間が長くなってしまう可能性があること、直接顔を合わせない人同士で信頼関係の構築がしづらいこと、テレワークの制度を利用のためのプロセスが煩雑であることが挙げられます。
直接職場などで顔を合わせない人同士が働く実態が見えないなかで仕事をするので、それまで見えていたことが見えなくなることで生じるさまざまな課題が懸念されるのです。
また雇用する人にとっては、直接労働の様子を見れないために労務管理や評価がしづらいこと、情報漏洩などセキュリティのリスクが増えること、対象業務が限定されること、導入のコストがかかることなどが、社会全体としては、ICT環境の整備が不十分といったことも挙げられます。
このようにテレワークの導入には、テレワークの仕組みだけでなく、テレワーク業務を前提とした労働環境全体の再整備を行う必要があります。そうした再整備によってテレワークによる効果を最大限引き出すことが可能になってきます。
テレワークの普及が多様な働き方を実現する
ICTを利用し、時間や場所にとらわれず働くことのできるテレワーク。人材不足を解消し、いつでもどこでも誰もが働きやすい多様な働き方ができることが、期待されています。現状としてテレワークはそれほど普及してるとは言えません。テレワーク導入に向けて、解決すべき課題も多く、テレワークを前提とした労働環境の再整備が必要になっています。
しかしながら、テレワークの普及によって、労働者だけでなく企業組織や社会全体への効果が期待されています。働き方改革が進められるなかで、テレワークに関する今後の動向がますます注目されます。
この記事を書いた人
水口 幹之
東京出身。京都市在住。ライター歴6年。書店員の傍ら執筆する、副業ライター。地方創生や旅行などを中心に幅広いジャンルを扱う。京都と東京を拠点にリモートワークで活動中。