なぜ日本の企業ではリモートワークが進まないのか?「リモートワークで生きていく!」著者の稲員未来さんに聞いてみた

2020年、世界中に広まったコロナウイルス。コロナ禍のなか、多くの企業がリモートワークを実施し、経済活動を続けてきました。

コロナ以前は、リモートワークをしているのはクリエイティブな職種やフリーランスなど一部の人というイメージが強かったと思います。

しかし今回のコロナウイルスで、日本の企業で働く多くのサラリーマンたちは「会社に行かなくても仕事ができる・・・」ということに気づいてしまったのではないでしょうか。

でも実際は、本格的にリモートワークを実施できている企業は多いとは言えません。民間企業の調査によると、5月29日の時点で30.5%だったリモートワーク実施率が、非常事態宣言の解除後23%まで下がったという結果もあります。(2020/6/11 日本経済新聞掲載)

なぜ日本の企業ではリモートワークの定着が難しいのでしょう。6月に電子書籍「リモートワークで生きていく!」を上梓し、自身も以前からリモートワーカーとして働きつづけている稲員未来さんとともに、リモートワークを導入できない企業の理由と、リモートワーク成功の秘訣について考えてみました。


稲員 未来

稲員 未来いなかず みく

1990年生まれ、東京都出身。大企業の正社員、派遣社員、アルバイト、フリーランスなど様々な労働形態を経験。その中で、実力を持ちながらも子育てや介護・自身の病気などが理由で「決まった時間に会社に来ることができない、決まった時間会社にいることができない」人材に対する会社の評価や給与が相対的に低くなることを実感。「その人の成果や貢献度より、会社という決まった場所に”いる”ことのほうが重要視されている」ことを疑問に思うようになり、その解決手段となりうる「リモートワーク」に興味を持つようになる。2018年より情報システム部門やディレクション業務をリモートワークで行い、その魅力に気づく。リモートワークの可能性を追求したいと思うようになり、2019年4月〜6月にヨーロッパ8ヶ国に渡航し、自ら実践・検証してノウハウを得る。現在は主に都内の自宅で、時々地方に長期滞在しながらリモートワークしている。
白根 理恵

白根 理恵しらね りえ

会社員兼副業ライター。旅行が好き。もともと別業種でダブルワークをしていたが、長期滞在型で旅ができるノマドワーカーを目指し、ある日突然ライターに副業転職。現在は世を忍ぶ仮の姿として会社員を続けているが、いずれライターで独り立ちすることが目標。ライティングジャンルはBtoB、BtoCのコンテンツマーケティング、映画レビューなど。2018年突然大学で学びたくなり、大学の通信課程に入学し社会人大学生に。心理マネジメントを専攻し、2020年4月に無事卒業。学歴上、短大卒から大卒になるも特に生活に変わりなし。趣味は映画鑑賞、アクリル画、音楽。社会人バンドでボーカルを担当。ロック、R&B、ポップス、昭和歌謡、演歌、なんでもアリ。

コロナでリモートワーク実施は進んだのか?

白根

稲員さんは2年前からリモートワークを続けているんですよね。

稲員

はい。現在勤務している会社で社内SEの業務を担当しています。2年ほど前に個人事業から法人化し、業務委託という形になったタイミングでリモートワークに移行しました。

白根

勤務先の会社からはすんなりOKが出ましたか?

稲員

元々リモートワークを導入していた会社なので、許可をもらうという感じではなかったです。

白根

なるほど。それでいきなりヨーロッパで3ヵ月間リモートワークされたんですよね。

稲員

そうです。8ヵ国周りました。

白根

すごい行動力(笑) 国内ではなくいきなり海外、しかも初めて訪れる国でリモートワーク!私もいつか海外を旅しながら仕事ができたらと思っているのでうらやましいです。稲員さんの場合、今の日本の社会ではスムーズにリモートワークを実施できた成功例だと思うんですが。

稲員

確かにそうかもしれません。本にも書きましたが、リモートワークって特別なスキルがないとできないと思われてるところがあるんじゃないかと思います。

白根

普通のサラリーマンでは難しいよね、みたいな?

稲員

はい。でも実際はサラリーマンでもリモートで働いてる人っているんですよね。

白根

今回、コロナの影響で仕方なくというか、ほぼ強引にリモートワークに切り替わった人もいますよね。

稲員

白根さんの会社はどうでした?

白根

私は週に3日在宅、2日出社でした。

稲員

リモートワークできたんですね。

白根

いえ、在宅勤務とは言っていましたが、実際は何もできなくて自宅待機と言う方が正しかったかも。会社の基幹システムを使わなければできない業務なので、ネットワークがつながらないのと、そもそもモバイルで持ち出せるデバイスが会社スマホだけと言う・・・(笑)

稲員

それは・・・。難しいですね。非常事態宣言解除されてからは?

白根

翌日から通常勤務に戻りました。

稲員

早い(笑)

白根

今回のコロナで、リモートワークにスムーズに移行できた会社とできなかった会社って、明らかに分かれましたよね。

リモートワーク実施を阻むのはインフラ整備だけではない

稲員

リモートワークできるできないの違いって何でしたか?

白根

もちろんリモートワークできる環境が整っているっていうのは大きな条件ですけど、私が職場にいて皮膚感覚で感じたのは、やっぱり意識の問題って大きいなということです。

稲員

たとえば?

白根

当時、社内でもすぐにリモートワークに移れた部署があったんです。本社のSEさん達だったんですが、在宅勤務方針が決まった翌日にはほとんどの人が出社していなかったんですね。それで、それを知った拠点の社員はその状況を知って、もともといなくても支障がなかった人々、というネガティブな言い方をしていたんです。

稲員

えー!そういう捉え方をされるっていうのは意外!ちょっとカルチャーショック的な(笑)

白根

やっぱり仕事=会社に来るっていう感覚が強い人たちは確実にいますね。会社に来ないとサボってるんじゃないかって思うみたい。

稲員

サボってるかサボってないかっていうのは、何をもって判断されているんでしょうね。たとえば日報などの提出や部下への進捗管理の確認、業務管理ツールによる管理とか。通常勤務でも行っていることだと思うんですが、それをリモートでやれるかどうかですよね。

白根

そうなんです。理論的に考えればそうやってリモート導入をすすめていけるんじゃないかって思うんですけど、なぜそこに進めないかというと、根底にリモートワークに対するアレルギーがあると思うんです。

稲員

そうなると話が平行線ですね・・・(笑)

白根

リモートワークの実施って、仕事周りのインフラ整備っていう環境の問題もあるのは事実ですけど、それが整備されても社内文化や、もっと手前の個人の意識を変革するって意外と大変なんだなと感じました。

稲員

確かに、何をもって業務完了とみなすか(サボってないか)っていうゴールを決める云々と、そもそもリモートワークをしたくないっていう意識をどうするかというのはまったく別問題ですね。もし会社の経営陣にそういう意識があると、リモートワークの実施は難しそうですね。

リモートワークで求められる管理能力

白根

個人的には、たとえば本社と拠点の関係ってそもそもリモートワークと同じ感覚じゃないかって思うんです。

稲員

言われてみればそうですね。

白根

ただ拠点とか支社にはそこに管理する人間がいて、っていう状況ですけどね。稲員さんが勤務されている会社では実際どのようにリモートワークを管理されているんですか?

稲員

うちの会社では、どこにいっても通用する人材になってもらうっていうのが目標の1つになっています。そのために自己管理能力は必須。自己管理能力を高めるために、リモート環境を活用して自己成長できるようサポートをしてくれています。タスク管理はSalesforceによる一元管理です。タスクの期限や進捗状況はToDoリストを利用して、完了または期限延長などのチェックをしています。顧客との面談内容などの進捗状況もすべてSalesforceに記入して共有し、社長だけでなく社員全員でToDo完了まで持っていくようにしています。期限切れのタスクが出ないよう、仕組みでカバーできないか考えるのが情シスである私の仕事でもあるわけですが。まだまだ課題はありますが、みんなで立ち向かっているという状況です。

実際のタスク管理の様子
白根

リモートワークでの業務管理は、何をもって業務完了とするのかを決めるのも必要ですね。

稲員

大事なことだと思います。でもそれって、リモートワーク云々というより、会社として仕組みづくりしておくことが重要ですよね。

リモートワークのメリット・デメリット

白根

稲員さんは実際にリモートワークをしていてよかったなと思うことはありますか?

稲員

時間を有効活用できるということですね。海外でリモートワークをしていたときは、時差を利用して観光などもしましたし、今は仕事の合間に家事をしたり、疲れてきたら散歩したり。効率的に仕事ができていると思います。

白根

うらやましい(笑)私は自粛期間の在宅勤務が終了したときに、すごく絶望的な気持ちになりました(笑)副業でライターをやっているので、在宅勤務のときはメールチェックや電話対応っていう会社業務の合間にライティングの仕事が捗って・・・。もちろんもっときちんとリモート環境が整えば、会社業務の方ももっとこなせるのに、と思いながら。

稲員

自粛明けは結構皆さんブルーになっている方多かったですよね(笑)

白根

逆にリモートワークのデメリットって何かありますか?

稲員

自己管理ができないと難しいというのはあると思いますが、デメリットってあまりないかも・・・。海外でリモートワークをしていたときは、ネットワークがつながりにくいとかそういうのはありましたが。

白根

会社にとってのメリットは?

稲員

まず広い事務所を構えなくてすむから固定費がかかりませんよね。固定費削減できた分、別の事業に投資したり社員の報酬に還元できますし。

白根

リモート環境を整える経費はかかりますよね。

稲員

それはそうですね。でも助成金などの制度がいろいろあるので、そういうのを上手く利用していくといいかもしれないです。

リモートワーク成功のポイントとは

白根

自粛期間が終了してもそのままリモートワークを続けている企業も多いですが、稲員さんはリモートワークを成功させるには何が必要だと思いますか?

稲員

コミュニケーションツールの確立とか、リモートワーカーのメンタル管理は大切だと思います。たとえばミーティングする前にはチェックイン(※)を使って、まず相手の状況や気持ちを把握しておくとか。

(※)ミーティング前に自己紹介的なことを共有すること。今日の気分や体調など、仕事とは関係のないことでもOK。

チェックインのテーマの例
白根

そういうのって、実際に社内で仕事するときにも同じですよね。社内コミュニケーション。

稲員

そうですよね。メールのレスポンスを早くとか、何かしら反応するとか。リモートワークだから特別にというより、顔が見えない分さらに気を付けようっていう感じでしょうか。

白根

ミーティングツールもいろいろありますが、使い方が分からなくて苦手だという人もいます。これまた弊社の話ですが、たとえばZoomで会議やりますってなっても、アプリの使い方講座みたいなものもないから、もう大変(笑)音が出ないとか聞こえないとか。

稲員

私が行って研修したい!(笑)社内研修は絶対必要ですよね。あとはリモートワークに対してどれだけポジティブに取り組めるか。

白根

さきほどの弊社の例のようなアレルギーをなくさないとですね(笑)メンタルブロックってかなり障害になりますよね。

リモートワークの未来予想

白根

アフターコロナ、ウィズコロナの世の中で、今後リモートワークは浸透していくと思いますか?

稲員

確実にリモートワークを実施している企業の方が、優秀な人材を確保しやすくはなっていくと思います。ただ、移行期にはリモートできる会社とできない会社の格差が出そうですね。

白根

自粛後にリモートワークを続けているのは大企業が多いという印象もあります。会社の規模や体質によっても、格差が現れやすいかもしれないですね。

稲員

今後はリモートワークを実施している企業の方が、断然強いと思います。

白根

ある意味コロナの影響で、強引ではあるけれど社会のシステムが一歩進んだと言えるかもしれませんね。稲員さん今日はありがとうございました。

対談を終えて

今回お話を聞いた稲員さんのように、すでにリモートワークで働いている人々はコロナによる業務のオペレーション的な影響は少なかったかもしれません。会社以外でも仕事ができる状況があれば、災害時でも仕事を続けられるだけでなく、転勤などもなくなるかもしれません。

稲員さんは7月に東京外国語大学でリモートワークについての講義を行う予定です。さらに今後はタイや韓国など時差の少ない海外でのリモートワーク構想もあるとか?!

稲員さんの著書「リモートワークで生きていく!」はAmazonKindle他で購入可能です。リモートワークを成功させたい方は、ぜひ一読されることをおすすめします!

この記事を書いた人

白根理恵

会社員兼副業ライター。旅行が好き。もともと別業種でダブルワークをしていたが、長期滞在型で旅ができるノマドワーカーを目指し、ある日突然ライターに副業転職。現在は世を忍ぶ仮の姿として会社員を続けているが、いずれライターで独り立ちすることが目標。ライティングジャンルはBtoB、BtoCのコンテンツマーケティング、映画レビューなど。2018年突然大学で学びたくなり、大学の通信課程に入学し社会人大学生に。心理マネジメントを専攻し、2020年4月に無事卒業。学歴上、短大卒から大卒になるも特に生活に変わりなし。趣味は映画鑑賞、アクリル画、音楽。社会人バンドでボーカルを担当。ロック、R&B、ポップス、昭和歌謡、演歌、なんでもアリ。