リモートワークには多くのメリットがありますが、反対にデメリットとして懸念されている点もあります。いくらメリットが多いからといって、課題が山積みの状態だとリモートワークを継続することが難しいですよね。
2014年よりリモートワークに関する情報発信を行なっているリモートワークラボでは、これまで多くの会社からご相談をお受けしてきました。
この記事では、これまでの経験から多くの企業が抱えるリモートワークの課題を紹介した上で、具体的にどのような対策を取るべきなのかについて解説していきます。分かりやすくするために、会社・管理者視点と個人・現場視点に分けて紹介します。
会社からみたリモートワークの課題とその解決策
生産性低下への懸念
管理者が最も懸念するのが生産性の低下。作業状況がよく見えない=さぼらずに作業しているのか把握できないということから、心配になってしまう人が多いようです。
しかし、よく考えてみると、オフィスで一緒に働いていたとしても、すぐ横の席から常に画面を監視しているような管理者の方は少ないはずです。安直に「在宅勤務の従業員がちゃんと働いているかチェックするために、監視ツールを導入しよう」と考える方が非常に多いです。それよりも大切なのは、定期的に進捗の確認をしたり、困ったことがあればすぐに相談できるような環境づくりの方です。
解決策:コミュニケーションツールを利用したテレワーク環境づくり
多くの企業がチャットツールとテレビ会議を使ってテレワークを行なっています。まだチャットツールやテレビ会議ツールを利用していないという企業は導入を検討してください。リモートワークラボでおすすめのチャットツールもご紹介していますので、そちらも参考にしてみてください。
しかし実際のところ、チャットツールやWeb会議ツールを導入している会社でも、コミュニケーションがうまく取れずに生産性が下がってしまったというところも多いのです。
そこでリモートワークラボがおすすめしているのが、仮想オフィスツール(バーチャルオフィスツール)です。仮想オフィスツールとは実際のオフィスをオンライン上に再現したもので、勤務時間中は仮想オフィスに出社(ログイン)します。オフィスと同様に、今働いているのか、今日は何をしているのか、今誰とコミュニケーションをとっているのかを容易に把握できるのでおすすめです。仮想オフィスツールを導入し、コミュニケーションがとりやすくなり、オフィスで働いていたときよりも生産性が上がったという企業もありますので、一度検討してみてください。
リモートワークラボでは、色々な仮想オフィスツールを実際に試して、サービスごとの特徴などをまとめた記事を公開していますのでぜひ参考にしてください。
情報セキュリティに不安がある
リモートワークを実践すると、オフィス外からも社内の重要な情報にアクセスできるようになるため、セキュリティ面が心配だという声が多いです。
オフィス以外での作業を全面的に禁止している場合は準備が大変ですが、出張先や自宅など社外でもある程度業務が行えるような仕組みを持っている場合は、それらを活用しながら考慮が不足している部分を補う形でルールを整備していくと良いでしょう。
解決策:担当者や外部の専門家に相談
セキュリティ面でどのような取り組みを実施するかは、組織規模や使える予算、取り扱う情報の性質によって異なりますので、専門家や社内の情報システム担当者を積極的に巻き込んで検討を進めるのがポイントです。
総務省からテレワークのセキュリティに関するガイドラインが発表されています。ぜひご参考に。
総務省:テレワークにおけるセキュリティ確保
以下に一例としてコンサルティングサービスを紹介しておきます。
SecureOWL
自社でのテレワーク運用実績とセキュアなテレワークのためのソリューションを提供してきた導入ノウハウをベースに、テレワークセキュリティに精通したオペレータによる「無償テレワークセキュリティ相談窓口」を開設し、企業のテレワーク導入を支援しています。
Secure OWL テレワークセキュリティサービスへ
NRI SECURE
20年間、日本のセキュリティ・トップランナーとしてセキュリティ課題に取り組んできた実績にもとづく豊富なノウハウから、企業に必要なテレワーク環境を強化するために最適なセキュリティサービス・ソリューションを提案してくれます。
NRI SECUREへ
AssetView CLOUD
セキュリティ対策のクラウドサービス。多数の有名企業が導入する人気のサービスです。ニーズに合わせて機能をある程度自由に提案してくれます。
AssetView CLOUDへ
評価が難しい
日本の人事評価は「会社にいるから働きぶりがわかる」「会社にいないから働きぶりがわからない」と、単純に目に見える働き方だけで成果を判断する傾向にあります。テレワークを評価するには、従来の時間主義を成果主義に寄せる必要があります。とはいえ、全ての職種を完全成果主義で人事評価をするというのも、また実情に添い難いことです。売上など数値化できる目標がある営業職ならともかく、業務目標を数値化しづらい企画職、事務職にとって完全成果主義は適切な人事評価とはいえません。
解決策:テレワークを考慮した評価制度の構築
テレワークは、非対面の働き方であるため、個々の労働者の業務遂行状況や、成果を生み出す過程で発揮される能力を把握しづらい側面があるとの指摘があるが、人事評価は、企業が労働者に対してどのような働きを求め、どう処遇に反映するかといった観点から、企業がその手法を工夫して、適切に実施することが基本である。
・例えば、上司は、部下に求める内容や水準等をあらかじめ具体的に示しておくとともに、評価対象期間中には、必要に応じてその達成状況について労使共通の認識を持つための機会を柔軟に設けることが望ましい。
・人事評価の評価者に対しても、非対面の働き方において適正な評価を実施できるよう、評価者に対する訓練等の機会を設ける等の工夫が考えられる。
・テレワークを実施している者に対し、時間外、休日又は所定外深夜(以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない。
・テレワークを実施せずにオフィスで勤務していることを理由として、オフィスに出勤している労働者を高く評価すること等も、労働者がテレワークを行おうとすることの妨げになるものであり、適切な人事評価とはいえない。
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
2021年3月、厚生労働省から「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」が発表されました。これは2018年に公開されていた「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」により実践的な内容を加味して改定されたものになります。
これによれば、会社が従業員に対して達成を求める目標を具体的に示し、共有し、それがどう評価に反映するのか、明らかにする必要があるとしています。また、評価する側に対する訓練の実施や、オフィスに出勤していることや時間外労働を高く評価することは適切でないということも明記されていますね。
一般的には勤務態度や時間などは評価の中心にはおかず、成果物を重視するやり方が、テレワークの評価にはフィットしていると言えます。では、何を成果とするのか、ここを業務ごとに話し合う必要がありそうです。
代表的なものでは、職務目標を上司と部下で話し合い、その達成状況に応じて評価を行う「目標管理制度」があります。目標管理制度では、半期ごとなどターンを決めて、都度その達成状況の確認や内容の見直しを行うのが良いでしょう。また、テレワークを実施している人と実施していない人の評価が公正に行われるよう、上司と部下のコミュニケーションの徹底、特に上司の意識啓発を行っていくことも重要です。
それでは実際にテレワークを取り入れている会社は、人事評価をどのように行なっているのでしょうか? いくつか事例をご紹介します。
株式会社ソニックガーデン
個人への評価や売上目標は存在せず、社内の価値観の共有や育成のための「すり合わせ」と「ふりかえり」を実施しています。共有したビジョンのもと、社員それぞれが仕事を捜索・遂行し、会社としての収入を社員全員で「山分け」する方式で経営をしています。
アズテック株式会社
チームリーダーが進捗を管理していますが、基本的には従業員は一人ひとり高い専門性を有しており、個人で業務を完結しています。
クライアントのノウハウの共有や教育等は、チームリーダーが発信。納期に間に合うように自分でスケジューリングできる従業員がテレワークを実施し、テレワークでも出社でも評価は同じとされています。
有限会社ユー・プランニング
毎年2月~3月に社長と面談を行い、当該年度の成果を確認し、翌年度の仕事のやり方を検討しています。従業員一人ひとりライフステージが異なるので、公平性を担保した上で、翌年度の雇用形態、雇用条件、担当ブランド(働く時間と時間帯を含む)を決定。同時に、クライアントとの契約も同時期に見直しています。
カルビー株式会社
経営刷新とともに、人事評価制度をプロセス評価から成果主義に変更。 在宅勤務の従業員に対しても成果に基づいた評価を行なっています。
営業部門は、売上と利益の計画達成のみで評価。間接部門もなるべくデジタルな目標をたて、その達成率に応じてインセンティブが支払われる仕組みです。 一般従業員には人事考課がなく、基本給がある年齢までは定期昇給で、それを超えると業績評価により賞与で年収をかせぐ仕組みになっています。課長以上の管理職は、年俸制で、年に1度、成果に応じてインセンティブが支払われます。
参考:厚生労働省:テレワーク活用事例 -仕事と育児・介護の両立のために—
人材育成が難しい
離れた場所から、実際に会うことなく新しい人材を育成するということに強い懸念を抱く方も少なくありません。これについては、対面か非対面かは横に置いて、「新しい人材を迎えてチームを作る」ことに最も必要なことは何か、と考えるのが1番大切です。
解決策:コミュニケーションツールを利用したテレワーク環境づくり + α の工夫
テレワークにおいての人材育成といっても基本的なことはこれまでと変わりません。1の生産性低下への懸念で述べたような、コミュニケーションをしやすい環境づくりを行ないましょう。
その上で、新しいメンバーへの教育に関しては少し工夫が必要になります。というのも新しい人からすると、誰にいつ相談すればいいのか分からず、悩みや相談をため込みがちになるからです。気軽に相談できる関係ができていない段階で、チャットツールを使って相談するのはハードルが高いと感じる人も多いことを頭に入れておきましょう。
この問題に対するおすすめの対策法をいくつかご紹介しておきます。
- 始業時や終業時にテレビ会議で話す時間を毎日確保しておく
- 作業している時間はテレビ会議でつないでおき、いつでも相談できるようにしておく
- オンラインでのランチ会などのイベントを企画し、関係を作っていく
コストがかかる
社員ひとりひとりに持ち出し可能なPCや周辺の機器を購入する、新しいシステムを導入する、識者に協力を得るなどなど、リモートワークを本格的に導入しようとすると、当然その分コストがかかります。
解決策:削減できるコストを考える
そんな時は削れる予算についても目を向けましょう。社員ひとりひとりの通勤定期代、出張費、事務所の光熱費その他維持費等々、出社人数が少なくなるなら事務所の規模をうんと縮小しても良いかもしれません。自治体や政府からリモートワーク導入のための支援金も存在しています。コストについては長い目で見て考えるようにしてください。
従業員からみたリモートワークの課題とその解決策
コミュニケーションが難しい・寂しさを感じる
リモートワークはあくまでチームありきです。チームとして仕事や成果を共有しながら、それぞれが離れた場所で作業をする。「物理的に会わない」というだけで、実は従来の仕事方法とは大差はないのです。
しかし現実問題として、「物理的に会わない」は孤独を感じやすい要因になります。そこをチームの知恵で解決することが、リモートワークを推進する第一歩になりますね。
逆の言い方をすれば、インターネットと付随するツールを駆使して、物理的に離れていてもオフィスにいるのと同じような感覚を作り出すことができれば、懸念される「孤独感」を排除し、尚且つ自由な働き方のスタイルを手に入れることができるというわけです。
解決策:仮想オフィス(バーチャルオフィス)ツールの導入
この問題の解決策としては1の生産性低下への懸念で紹介した、仮想オフィスツールの導入による、コミュニケーション環境の構築がおすすめです。チャットツールとテレビ会議ツールだけでは埋められないコミュニケーションが実現できますよ。
仮想オフィスツールを導入し、「物理的に会わない」を埋める条件が整ってもまだ孤独感が拭えない…そんな場合、問題はチーム自体にあると考えられます。
気軽に相談ができない、仲間が何を考え何をしているのかがわかりづらい…こういった問題は、物理的な場所に集まっていようと、インターネットを介して集まっていようと、原因はチームの人間関係や雰囲気にあります。むしろ「物理的に会っている」ということが甘えになって、離れてみなければわからなかったことかもしれません。問題がわかれば、それをどう取り除くか?という次のステージを考えることができます。
表面的な「寂しさ」を恐れてリモートワークの導入を躊躇しているとしたら、それはとても勿体無いことです。物理的な場を捨てることで、チームとして得るものがあるかもしれませんよ。
仕事のON/OFFの切り替えがしづらい
テレワークでは、在宅で業務をおこなうことが多いため、オンとオフの気持ちの切り替えが難しい場合があります。人によって時間をダラダラと使ってしまい、長時間労働や残業時間の増加につながるのでは?という懸念があります。
解決策:在宅勤務時の切り替え方法について学ぶ
出退勤や休憩時間を自分で決める、自宅作業でもきちんと朝身支度を整える、作業と休憩を繰り返すリズムを作る(ポモドーロテクニック)など、スイッチを切り替える動作や環境を自分で設置してみましょう。またチーム内でそういった知見を交換し合う場を設けるのも大切。コミュニケーションも生まれますし、良いアイディアを得られるかもしれません。お互いの試行錯誤がわかるのも楽しいですよ。
ちなみにリモートワークラボおすすめの切り替え方法は以下の5つです。
1. 着替える・メイクする
仕事用のデスクに座る前に着替えるだけで気持ちが切り替わります。
2. 時間を決める
「タスクとご褒美で時間を区切る」「1時間仕事したら10分休憩」などリズムを決めると効果的です。
3. 場所を変える
家の中でちょっと場所を変えるのも、思い切ってカフェなどでノマドするのも良いですね。
4. 体を動かす
時間やタスクで区切って、筋トレやストレッチを挟むと頭がスッキリします。
5. 喋る
Web会議を繋いだり、Twitterのスペースやclubhouseを使っても良し。ちょっと雑談しながらアイディアがまとまるかもしれません。
いくつか自分の中でスイッチする手段を持っておくと便利です。ぜひ探してみてくださいね。
長時間労働になりがち
リモートワークでは「サボり」問題が懸念されがちですが、実はもっと多いのが働き過ぎ問題。自由に仕事にアクセスできてしまうが故に、ずるずると生活の場にも仕事を持ち込んでしまう人が多いようです。
解決策:勤怠管理ツールの導入
そもそもの話になりますが、労働時間を管理することが基本になります。テレワークであってもどれだけ働いているのかは管理する必要があります。テレワークで使える勤怠管理ツールもありますので利用してください。働きすぎているメンバーがいたら管理者に通知するようなサービスもあります。
ラクロー
PCログを利用した「打刻レス」な勤怠管理サービス。PCログ、メール・チャット、カレンダー、位置情報ログの「客観的記録」をベースに労働時間を算出します。
ラクロー公式ページはこちら
F-Chair Plus(エフチェアプラス)
着席、退席をワンクリックで記録でき、細切れの時間も正確にとらえて合計できます。着席時には画面キャプチャを自動撮影する機能が搭載され、作業の様子がよくわかります。
F-Chair Plusの公式ページはこちら
Worksnaps(ワークスナップス)
グローバルなチームに対応した業務時間管理ツールです。画面キャプチャの自動撮影やプロジェクト単位での集計ができます。日本語には対応していませんが、時差があっても問題なく利用できるため、日本以外にも社員がいる企業にオススメです。
Worksnapsの公式ページはこちら
運動不足になりがち
通勤がなくなるということのメリットばかりを強調してきましたが、ここで「運動不足」という大きなデメリットの存在を語らないわけにはいきません。在宅勤務をする=全く外へ出なくなるという人は実に多いのです。
解決策:運動のハードルを下げる、他のメンバーと一緒に運動する
ジムへ入会する、1日1回ウォーキングに出る、ヨガのオンラインサークルに入るなど、やろうと思えばできることはたくさんありますが、これらは実にハードルの高い例です。最初から高望みしてしまうと挫折するのも早くなります。ハードルはグッと下げて、30分に1回席を立って簡単なストレッチをする、ご飯やおやつは外へ食べに行く(買いに行く)、飼い犬の散歩は自分の仕事にするなど、リモートワークと地続きになるような運動を取り入れるようにするのがおすすめです。バーチャルオフィスやチャットで、運動を報告し合うとお互い刺激しあえますし、コミュニケーションのきっかけにもなります。
懸念点はしっかり話し合って対策を練りましょう
リモートワークは今までの働き方とはかなり違う形態のように見えます。そのため、推進する際には実にさまざまな懸念が噴出するでしょう。しかしそのほとんどは適切に問題を理解し、しっかりとアプローチすることで解消が可能なものばかり。これを機にみんなで話し合ったり要望をとことん聞いたりすることで、組織自体の問題点も解決することができるかもしれません。
些細なことでも議論を重ねて、ぜひより良い労働環境を築いてくださいね。
この記事を書いた人
土佐光見
リモートワーク研究所研究員・ライター。
webショップの企画運営、web制作、ディスクリプションライティングを経験し、フリーランスに。リモートで働く二児の母。趣味は読書、観劇、俳句。