問題になった派遣社員の「テレワーク解雇」
コロナ禍では日本社会が抱えるさまざまな問題が浮き彫りになりました。そのひとつが派遣社員のテレワーク問題。正規社員と派遣社員との間で、リモートワークに関する格差が生まれ、訴訟にまで発展するケースが生まれたのです。
昨年3月25日、東京都知事が会見を開き、新型コロナウイルスの「感染爆発の重大局面」を受け、テレワークへの協力を訴えた翌日、派遣先のYUIDEAは、すぐさま社員に在宅勤務を命じ、派遣社員に対しては有休で休むようすすめた。
しかし、Aさんには、有休が残り2日しかなく、欠勤すれば生活が成り立たないため、出社しなければならなかった。
派遣社員の処遇については、これまでも度々社会的に問題となっています。確かに正社員と派遣社員では立場が違います。しかし、今回のような生命にも関わる未曾有の事態の最中に、「派遣社員だから」という理由だけでリモートワークが認められないというのは職業差別にあたるのではないか?という議論を呼びました。誰も体験したことのない状況だっただけに、それまであまり俎上に載せられなかった問題であるとも言えますが、今回のような事例は氷山の一角でしょう。
実際、この訴訟を含む、頻発した非正規雇用リモートワーク問題を受けて、厚生労働省は2021年3月に改訂した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の中で、「非正規社員の差別があってはならない」という趣旨の文言を付け加えています。
参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
派遣社員でもテレワークできるの?
厚生労働省は、2020年2月21日に「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた派遣労働者に係るテレワーク等の実施について(要請)」として経済団体に要請を提出。2021年3月に先述の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を改訂しています。実は少し以前から派遣労働者がテレワークするのはOK、と示されていたということですね。
結論としては派遣社員も業務内容的に問題なければテレワークが「可能です」。加えて「派遣労働者であることのみを理由として、一律にテレワークを利用させないことは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正された労働者派遣法の趣旨・規定に反する可能性がある」と強く示されています。
参考:厚生労働省「派遣労働者のテレワークについて」
ガイドラインから読み解く派遣社員のテレワーク化について
派遣労働者のテレワーク化については、厚生労働省が作成した「派遣労働者等に係るテレワークに関するQ&A」にさまざまなシチュエーションを想定された問答が載せられています。
特に留意しておきたい部分を抜粋して読み解いてみましょう。
参考:「派遣労働者等に係るテレワークに関するQ&A」
Q:派遣労働者が予定になかったテレワークにより就業を行う場合、労働者派遣契約の変更を行うことが必要ですか?
A:労働者派遣契約には、派遣先の事業所だけでなく、具体的な派遣就業の場所を記載することが必要となります。このため、派遣労働者がテレワークにより就業を行う場合には、労働者派遣契約の一部変更が必要になる場合があります。
なお、緊急の必要がある場合についてまで、事前に書面による契約の変更を行う必要はありませんが、派遣元事業主と派遣先の間で十分話し合い、合意しておくことが必要です。
また、派遣労働者がテレワークにより就業を行うことがあらかじめ予定されている場合においては、当初からテレワークを行う就業場所を労働者派遣契約に記載することが必要です。
Q:派遣労働者がテレワークのみにより就業を行うことは可能ですか?
A:派遣労働者の就業をテレワークのみにより行うことは可能ですが、以下の点などに十分に留意し実施することが必要です。
- 労働者派遣契約において、自宅等の具体的な派遣就業の場所を記載すること。なお、派遣労働者と打合せを行う場合等に派遣先の事業所等で派遣就業を行う可能性がある場合には、必ずその旨を明記すること。
- 派遣労働者が、通常の労働者派遣の取扱いと同様に、派遣元責任者及び派遣先責任者に迅速に連絡をとれるようになっていること。
- 派遣労働者においても「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」に基づいた雇用管理が必要であること。また、派遣就業の全期間の業務遂行において、派遣先からの指揮命令等のコミュニケーション等が円滑に行われるかを派遣先及び派遣労働者に十分に確認することが望ましいものである。
Q:派遣労働者が自宅等でテレワークを実施する場合、派遣元指針や派遣先指針に基づき、自宅等を巡回する必要がありますか?
A:派遣元指針及び派遣先指針においては、派遣元事業主及び派遣先は、定期的に派遣労働者の就業場所を巡回することとしていますが、これは、派遣労働者の就業の状況が労働者派遣契約に反していないことを確認するためのものです。派遣労働者に対して自宅等でテレワークを実施させるときは、例えば、電話やメール等により、就業状況を確認することができる場合には、派遣労働者の自宅等まで巡回する必要はありません。
Q:テレワークを実施するに当たって、派遣先として、派遣労働者の自宅の住所を派遣会社から教えてもらってもよいでしょうか?
A:テレワークの実施に当たって必要な場合には、派遣先が派遣労働者の自宅の住所を把握することは差し支えありませんが、派遣先からの求めに応じ、派遣元事業主から派遣先に対し、派遣労働者の自宅の住所に関する情報を提供する場合には、派遣元事業主として、派遣労働者本人に使用目的(テレワークの実施に当たって派遣先が住所を把握することが必要であり、派遣先に提供すること)を示して同意を得ることが必要です。
また、派遣先として、直接派遣労働者本人から自宅の住所に関する情報を取得する場合には、あらかじめ派遣元事業主に連絡の上、使用目的を本人に示した上で、本人の同意を得ていただくことが必要となります。
Q:正社員についてはテレワークを実施し、派遣労働者についてはテレワークを実施せず全員出社してもらうことは問題がありますか?
A:業務内容によってはテレワークが難しい場合も考えられますが、派遣労働者であることのみを理由として、一律にテレワークを利用させないことは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正された労働者派遣法の趣旨・規定に反する可能性があります。
派遣社員も正社員も「同一労働同一賃金」
2020年4月、「同一労働同一賃金」の実現のため、派遣法が改正されました。働き方改革は正社員だけに限ったものではありません。社会全体でこれを推し進めるために、派遣社員と正社員の不合理な待遇格差をなくす流れができてきています。
リモートワークを選択できるかどうかも、この格差是正と多様な働き方を認めるために必要な要素です。「でも派遣社員だしな…」と臆することなく、自分に取ってより良い労働環境を選べると良いですね。
この記事を書いた人
土佐光見
リモートワーク研究所研究員・ライター。
webショップの企画運営、web制作、ディスクリプションライティングを経験し、フリーランスに。リモートで働く二児の母。趣味は読書、観劇、俳句。