リモートワークと労務管理

(最終更新 2018/08/16)

自明のことではありますが、リモートワークにも労働基準法は適用されます。しかしオフィスを離れて仕事をする場合には、やはりオフィスと同じように労務管理をするのは無理が生じます。今回は、リモートワークにおける労務管理について少し整理してみましょう。

①労働条件の明示 就業の場所の明示が必要

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まずはじめに、事業主は労働契約締結に際し、就業の場所を明示する必要があります(労働基準法施行規則5条2項)。在宅勤務の場合には、就業場所として従業員の自宅を明示する必要があります。

また、在宅勤務であっても、一定の要件を満たせばみなし労働時間制を利用できます。(労働基準法第38条の2)「一定の要件」とは以下の3点にあたります。
⑴ リモートワークの就業場所が、起居寝食等私生活を営む自宅であること
⑵ 使用しているパソコンが使用者の指示により常時通信可能な状態となっていないこと
⑶ リモートワークが、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

労働者が事業場外で業務に従事し、かつ労働時間の計算が困難な場合には、みなし時間により労働時間を計算できる場合があります。その際、みなしの対象となるのは所定労働時間が原則ですが、所定時間を超えて労働することが必要となる場合には、その時間がみなし時間となります。

また、原則的な労働時間制度(1日8時間、1週40時間)で働く従業員が、育児・介護などの私用のために所定労働時間を柔軟に変更できるようにすることで、仕事との両立をよりスムーズに測ることができます。ただし、あらかじめ就業規則に規定しておくことが必要で、企業が所定労働時間を一方的に変更することはできません。

②労働時間の把握 ツールでの時間管理がオススメ

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使用者は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準・平成13.4.6基発第339号)

リモートワークを行う際、往々にしてオフィスとは異なる環境で就労することになります。そのため、労働時間やその管理方法においてもよりフィットした形を適用することが必要です。ルールをしっかりと決めておきましょう。

労働時間の管理には、「始業・終業時刻の管理」と「業務時間中の在席管理」の2つの観点があります。始業・終業時刻に関しては、報告、記録、変更、中断の際の連絡方法や運用ルールについてよく検討する必要があります。特に、育児や介護を行っているリモートワーカーは、個人のやむを得ない事情によって業務を中断したり業務時間を変更する可能性が大いにありますので、労働時間管理や情報共有に関するルール化が求められます。

また、在席確認については、在席・離席が確認されることによって、「勤怠の管理が難しい」という管理者の不安や、「仕事をさぼっていると思われていないか」「評価が下がるのではないか」というリモートワーカーの不安が軽減できるというメリットがあります。ただしこれは業務形態や業務内容によって、また目標管理制度が適正に運用されている場合、1日単位の業務の推進状況の管理が必要ないということもありますので、在席管理が適合するかどうかに関しても検討の必要が生じます。

勤怠管理、在席管理については、適切なツールを使用することをおすすめします。

参考

リモートワークとツール

<リモートワーク入門⑤ リモートワークと勤怠管理>

③業績評価・人事管理等の取扱い オフィスで働く社員との差は?

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業績評価や人事管理について、会社へ出社する従業員と異なる制度を用いるのであれば、その取扱い内容を丁寧に説明しておく必要があります。また、就業規則の変更手続が必要となります(労働基準法89条2号)。

リモートワークの評価については、オフィスワーカーとの差が出ないように、またその懸念を抱くことのないように評価制度や賃金制度を構築するのが望ましいです。また、業績評価や人事管理に関して、あらかじめリモートワークを選択しようとする労働者に対してしっかりとルールや内容を明示する必要があります。

参考

リモートワークは「時間対成果」で評価する

④通信費・情報通信機器等の費用負担 機材の補助を行うところが多い

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費用負担については、あらかじめ決めておく必要があります。なお、在宅勤務等を行う従業員に通信費や情報通信機器等の費用負担をさせる場合には、その旨を就業規則に規定する必要があります。自宅をオフィスとして働く場合には、通信費や水道光熱費の負担についても明確なルールを作って、事前に説明をしておく必要があります。

労働基準法第89条第1項第5号では、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」と規定されていますので、必要に応じて就業規則の変更をしなければならないでしょう。また、就業規則の作成義務がない会社では、労使協定を結んだり、労働条件通知書で従業員に通知したりすることが必要です。

発生する費用については以下の4つが考えられます。

⑴情報通信機器の費用
パソコン本体や周辺機器、携帯電話、スマートフォンなどについては、オフィス同様、会社から貸与しているケースが多く見られます。会社が貸与した場合、基本的には全額会社負担としているところが多いようです。

⑵通信回線費用
会社から貸与された携帯電話やスマートフォンの通信費用は、あらかじめ会社名義で負担しているのが殆どです。在宅で勤務する場合は自宅内のブロードバンド回線の工事費、基本料金、通信回線の使用料等が発生します。これらは自宅である以上、リモートワーカーが個人的に使用することもあるため、その使用量の切り分けが困難になります。そのため一定額を会社負担としている例が多く見られます。

⑶文具、備品、宅配便等の費用
文具消耗品については会社が購入したものを使用することもできますが、購入したレシートを経費として精算するという形も有効です。配送料なども同様です。精算方法のルール化が求められます。

⑷水道光熱費
自宅の電気、水道などの光熱費も実際には負担が生じますが、業務使用分との切り分けが困難なため、手当に含めて支払っている企業が多いようです。

⑤社内教育の取扱い

在宅勤務等を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合にも、当該事項について就業規則に規定しなければなりません。

⑥労災 リモートワークでも適応されます

リモートワークであっても、会社の従業員である以上、労働者災害補償保険法の適用を受け、業務災害または通勤災害に関する保険給付を受けることができます。

業務災害とは、労働者が業務を原因として被った負傷、疾病または死亡を指します。これには業務と傷病等との間に一定の因果関係があることが必要となります。

⑦安全衛生対策 作業環境の整備が望まれる

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働く場所が従業員の自宅であっても、作業環境が整備されることが望まれます。主にパソコンのディスプレイを見て仕事をすることが多いので、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン(平14.4.5基発第0405001号)」などに留意しつつ、労働者が支障なく作業を行うことができるよう、作業環境管理のための助言等を行う必要があるでしょう。

労働安全衛生法では、労働者に対して、雇入時の安全衛生教育の実施や定期的な健康診断やその結果に基づく事後措置、長時間労働者に対する面接指導やストレスチェック、その他随時労働者の申出に応じた面接指導等が義務付けられています。健康上の相談をする窓口を決めたり、医師や保健師による保健指導を実施したりすることも視野に入れると良いでしょう。

まとめ

以上のようにリモートワークの労務管理については幾つかルール化や留意が必要な点が存在しますが、実際行う際にはそれぞれの労働者の環境や状況に応じて柔軟に対応する必要があります。厳格なルールを設定したとしても、手間がかかる等の理由で守られず、実態が乖離してしまっては本末転倒です。

離れて働くことで生じやすいリスクを把握した上で、自社の業務プロセスに合った現実的なルールを選択しましょう。

あなたの会社は大丈夫?裁量労働制にまつわる3つの注意点

リモートワークとルール

参考
厚生労働省「テレワーク実施時の労務管理上の留意点」

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