【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 林宏昌(株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 エバンジェリスト/Redesign Work Inc. 代表取締役社長) × 岩崎奈緒己(リモートワーク研究所副所長)

【ボクらの働き方 第3回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 林宏昌(株式会社リクルートホールディングス 働き方変革推進室 エバンジェリスト/Redesign Work Inc. 代表取締役社長) × 岩崎奈緒己(リモートワーク研究所副所長)

目指せ「忖度レス」!

倉貫

うちの会社、採用面接は100%テレビ会議なんですよ。でもね、「テレビ会議で面接します」と言うと、「会って僕の情熱を伝えたい」って言い出す人がいるんですよ。そういう人は不合格。

一同

(笑)

岩崎

情熱に厳しい(笑)。

倉貫

気持ちはわかるけど、情熱をテレビ会議で伝えられないとしたら、この先仕事できないですから。事あるごとに会わなきゃいけなくなる。

オンラインでも情熱は十分伝えられますよね。

倉貫

「テレビでも情熱伝わるよ?」って。うちの会社の社内結婚したメンバーは、テレビ会議で副社長に結婚報告しましたからね。

ボクらの働き方

おおー。

倉貫

ちゃんと報告してくれたので、それでよかったと思う。

岩崎

お互いにね。

一同

(笑)

そりゃそうですよね。

岩崎

テレビ会議する人は簡単に使うじゃないですか。でもハードル高いと感じる人は多いですね。

うん、多い多い。

岩崎

こっちは普通に使いすぎてるからもはやその感覚がわからなくなってるんですけどね。

倉貫

初回のハードルが高い。1回やっちゃえば慣れてくるんだけどね。僕らのお客さんも、テレビ会議に慣れてないお客さんが会いたいと言ったら、流石に「テレビ会議じゃないとやりません」とは言わないで、ここ(※この鼎談はソニックガーデンの自由が丘オフィスで行われました。)に来てもらうんですけど、テレビ会議を1度教えると、お客さんの方から「テレビ会議で」って言ってくるんですよ。

便利ですもんね。

岩崎

定期的にやるのが大事だと思いますね。

そうですね。だから、僕は一番最初に「リモートワークを週三日以上やってください」と提案して進めました。頻度が低いと、リモートワーカーが「今日テレビ会議を自宅からやりまーす」と言っても、オフィス側の人がいつまでも慣れなくて戸惑っちゃうんですよね。

岩崎

そうですね。

オフィス側が「テレビ会議のセットってどうやってやるんだっけ?」ってなると、リモートの人が「すいません私が家にいるばっかりにお手間を…」という空気に。

岩崎

しかもそのわちゃわちゃで10分くらい経ちますもんね。

そうなんですよ!

岩崎

それすごくわかります。

だから慣れるまでは一定程度頻度がないといけない。

岩崎

慣れが本当に大事なんですよね。

会議も「忖度」

岩崎

今のオンライン会議ツールって、スマホで見てもすごく綺麗なんですよね。なので結構電車の中で聞いてるだけの参加とかもしてます。

会議のラジオ参加とか、会議を全部録音してアップロードするとか、もうちょっとやってみたいんですよね。

岩崎

効率いいですよ。あとで議事録読んでわかってもらうよりも、絶対聞いてもらった方が早いので。どうせ来てもその人喋んなかったりするじゃないですか。

その辺もまた忖度がありますよね。一番最初に働き方改革について考え始めた時に、Googleさんに行ったんですよ。そこで色々聞いてたら、会議呼ばれて出たんだけど、「これはあんまり関係ないな」と思ったら途中で退出しちゃいますって言ってて。日本で「僕関係ないんで抜けます」なんて言ったら「お前の当事者意識はどうなってんだ!」とか言われちゃう。

ボクらの働き方
一同

(笑)

「その場で自分に何ができるのか考えろ」みたいな、パッション論がありますよね。

岩崎

抜けられないですよね。普通の会社で会議に呼んでもらったら。

言えないですよ(笑)

倉貫

会議中にすっと抜けるとか。

岩崎

ちょっとなんか意見言えよ、みたいに言われることはあっても、外されるってことはあんまりないですよ。

しかも面白いのが、そこに良かれと思って呼ばなくすると、外されたと思う人が結構いるんですよね。

岩崎

予定表を会議で埋めるといい、みたいな雰囲気ありますよね。

僕もそういう時代ありましたもん。朝から晩まで会議で埋まってて、時に被ってたりして、「すいませんあっち行かなきゃならないんで」。この状況がすごくいけてるんじゃないかっていう誤認をしていた時代が。

岩崎

あるある(笑)

今では朝から夜まで会議の状況は恥ずかしいと思うようになりました。いかに自由裁量時間を作って、考えたり、現地現物に触れたりできるかということがテーマなので。

場所も働き方も時間も「選べる」ようにしたい。

倉貫

自由時間も大事だよね。僕、林さんと初めてリクルートさんで会った時に面白いなと思ったのが、世の中の働き方改革って、「時間を短くしよう」とか、「残業時間がどうの」とか話し合ってることが多いけど、実は仕事が楽しいから、「もっと仕事させてくれよ!」と思ってる人もいる。そのハードルをなくす方がもっといいんじゃないの?っていう話をしてて。そんなことを大企業で言う人珍しいなと思ったんですね。でも仕事好きな人って実はみんなそうですよね。今の風潮とブレがあるところではあるんですけど。

そうですね。風潮っていうのも一律風潮じゃないですか。そこで「全員8時に帰れ!」ってなるから変になるわけで、「帰りたい」も「もっと働きたい」も選択できるようにしたらいいと思うんですよね。もちろん体壊すまで働いてはいけないのは大前提で、ベースを選べるようにしていく。今の日本は、いくら本人の希望であっても、心や体が壊れたりすると、管理職責任になるので、一応相関関係にあると言われる労働時間を、一律で短くしておいた方がいいよね、となってしまう。

倉貫

リスクない方に合わせるんですよね。

岩崎

選択肢があるのは本当に大事ですね。リモートワークの時もそうで、オフィスで働きたい人はそれでいい。ただ、その為にリモートワークができないというルールはやりすぎですよね。「オフィスにいるけどチャットは見るよ」とか、「オフィスにいるけどオンライン会議ちゃんとできるよ」とか、そういう落とし所を作って、両者がある程度同じ枠組みの中で働けるようにしておかないと、断裂しちゃう。なのでお互い足を引っ張り合わず、他人の選択を邪魔しない範囲で自分のやりたい働き方を選べるのがいいんだと思います。大抵どっちかに極端に倒すやり方になるんで、会社の良い人間関係も壊しちゃう。それは勿体無いですよ。

ボクらの働き方

そうそう。だから場所も選べるようにした方がいいと思うんですよ。例えば上司がリモートワークが好きだから、部下にもリモートにしろっていうのは変だし、逆にオフィスに来るのが好きだからみんなもオフィスで働きなさいっていうのも変。倉貫さんが前から言ってる論理出社、つまりオンライン業務がある程度できるということが前提になってないとダメなんですよね。誰からでも、どこからでも仕事やコミュニケーションが「見える」ようにしておかないと。

倉貫

そうそう。それが大事。

オンライン化して「忖度レス」を目指す

ちょっと面白いと思ったのが、僕らより上の世代の人たちの中で、情報共有をオンラインで全部見える化していくと、「昔に戻った感覚だ」って言う人がいるんですよ。昔は全員固定席で、全員固定電話があって、部下が誰と何を話してるのか全部わかったものが、携帯やメールになって個別化されたらわからなくなってしまった。それがまたチャットになって、自分やメンバーがどんなコミュニケーションしてるのかがオープンになった。「リモートでやったら見えにくくなる」って心配する人がいますけど、リモートにして見えにくくなるのは、オンライン化が全く進んでないからなんですよね。まずオンライン化すると、オフィスにいてもいなくても見えるから関係ないんですよ。

岩崎

オフィスでずーっと会議してまわってる偉い人とか、出張によく行く人って、「いない」じゃないですか。でもオンライン化されていれば、その場にいなくたってつかまえられる。だからオンラインで「見えなくなる」、「今より管理できなくなる」って思うのは全然違う。

完全に違いますよね。

岩崎

在宅やサテライトオフィスをやろうってなった時に、最初に「短期間やってみよう」、「日数減らしてやってみよう」ってよく言うんですけど、そういうトライアルの仕方はうまくいかないですね。最初からメンバーが離れても回る状態をオフィスで作る。オフィス環境を作るってことを先にやれば、失敗がすごく減ると思うんですよ。なのにオフィス環境を変えないまま、オフィスから離れた人のやり方だけ、オフィスに合わせて変に厳しくするからうまくいかないんですよね。チームから外れたみたいになっちゃうから良くない。

オフィスにいながらオンラインのコミュニケーションに変えていきましょうよっていう話をしても、なかなか力学が働かなくて、この辺が本当に難しいですね。ほんの隙間時間に確認するだけみたいな話なら、ライトにチャットで済ませばいいんです。それをチャットじゃ失礼かな、直接話さなきゃとかいう忖度もあってうまくいかない。結構多いですこのパターン。

岩崎

かなり忖度出てきますね。

そう、みんな忖度しちゃう。

倉貫

今日のキーワードこれだな。「忖度レス」

一同

(笑)

忖度レスは大事ですね。大企業は良くも悪くも忖度によって支えられているできてる部分ありますからね。

大企業の役割

倉貫

みんなの常識が変わればね。テレビ会議でやっても失礼じゃないってみんなの常識が変わってくればいいんだろうな。みんないずれ歳をとって、新しい世代の人たちが中心になってるので、慌てなくてもいずれ変わるんだろうけど、昔と違って今は年配の人が全然引退しないっていう問題があるので。なかなか社会が変わらない(笑)。

一同

(笑)

倉貫

そこが皆さん全然元気なので、頑張って変えていかないと変わらないのかなって気はしています。あと前々から考えていたことなんですけど、企業自体が「変革が素晴らしい」みたいなことをよく言うけど、変革よりも新しく作った方が自然学としては正しいんじゃないかなという気がしているんですよ。大企業も長く続いている会社も硬直化してるところをなんとかしたいと言うなら、いっそやめて自分で会社やればいいのになと。

以前に倉貫さんとイベントで一緒に登壇させてもらった時に、「変えないといけないんですよね」って話をしたら、「新陳代謝したらよくない?」と。つまり大企業があり続ける必要があるのかしらということですよね。その企業がなくなったとしても、また新しい企業がその役割を新しいやり方で担うから、いっそなくなっていいんじゃないの?と。

ボクらの働き方
倉貫

そこまで言いましたっけ(笑)。

あの時、僕は「どう変革して行くのか?」ばかり考えていたから、なるほどなと思ったんですよ。さらにそこから、「そもそも大企業の役割って?」ということを考えるようになりました。結論としては、大きく2つなんですが、ひとつは磨いてきたサービスや商品が生活の中で必要なインフラを担っていること。もうひとつは、大きな投資家であること。大企業の、世の中に対するコストの積み上げは、社会を潤すために必要な投資になっている事に加えて、より新しいものに投資する、作ってきたインフラに新しいものをどんどん取り入れて行くことで更に磨いていく必要はありますが。ちゃんとその2つの役割を担いながら、社会に向けて役立つようにドライブをかけられれば理想的なんじゃないかと。

倉貫

インフラは確かにそうですね。大きな投資家みたいなものだってことですよね。これまで持ってきたもので投資をしようと。

その大企業の投資の積み上げで毎年何十兆って投資が社内外でされていて、これが会社が小さくなって小分けになってくると、大規模な投資ってのはなかなかできなくなりますよね。ただ本当にクラウドファンディングみたいなもので、個人や小さい企業も含めて、小口の投資の集まりで大きな投資が回るような時代になり、大企業が新しい取り組みが遅れていけば、だんだん役割を終えて行く可能性もありますよね。

副業は自立のきっかけになる

「大企業の役割ってなんなんだろう?」って、あの問いはやっぱり秀逸でした。「なくなったらよくない?」って(笑)。あんまりそういう風に思ってなかったので。

倉貫

なくなったらいいとまでは言ってないですよね?(笑)みんなダメだと思ってるのに延命措置をするようなエネルギーがあるんだったら、もっと有益なことに生かした方がいいんじゃないのかとは思っています。投資って意味だと、お金を出すのもそうですけど、大企業には体力があるので、まだ仕事ができないうちの人を雇ってあげて、できるようにするところまでに育ててあげて、その人たちが巣立ってもっといろんな事業をやっていくことに回ればいいんじゃないかなと思っています。

結局社会的なベーシックインカムの話につながると思います。現代の大企業も、将来の不確実性が高まっているので、社員をがっつり囲い込んで保障してやることはできない。でもまだ一翼を担っている部分があるから、その役割を安易に壊してしまうと受け皿がなくなって、仕事ができる人はいいですけど、スキルもない、自分の強みも言語化できない人があっという間に生活していけなくなって、国で支えないといけない人たちなってしまうんですよ。この役割はいつまで担わなければならないのか、必要なのか、本当に豊かな社会に繋がって行く出口はどこなんでしょうね。

倉貫

難しいですね。そこは雇用を産んでるといえばそうだけど、偽善的だなとも思ってるんですよね。合理的ではないし、本当に経済をうまく回すんだとしたら、それこそ全部人工知能やらせて、企業の生産性あげて、たくさん法人税納めて、そのお金で国としての保障をつけた方がトータルはいいんじゃないかという発想もあるし、それを企業としてどこまで持たなきゃならないのかというところも…。

やっぱり副業みたいなものが、本質的に力を持ってそうだなと思ってるんですよね。

倉貫

そうそう。なので副業っていうのは、自立のひとつの道としてとてもいいなあと思うし、今冴えない仕事をしている人も、他の職種をやってみたら、もしかして才能があって生きるかもしれない。副業ができるって言うのは自分の可能性が広げられるということでもありますよね。

多分企業によっても副業の意味合いがだいぶ違うんだと思うんですけど、本当に力を試せるとか、副業でお金が稼げてプラスアルファでいいよねみたいな話もあるんですが、意識的に自分の強みがなんなのかとか、何をできるようにならなきゃいけないのかに気づいたっておっしゃってるお客さんもいましたね。学びを広げていくことに繋がってる。

岩崎

自立のきっかけになりますよね。家にずっといた人が一人暮らし1日でも始めると、とにかく自分でやらないとどうしようもないですもんね。かと言っていきなり一人暮らしさせると病気になっちゃうかもしれないし。

まさにそうなんですよ。大企業も成長している時代は、どんどんポストができて面白い仕事や責任が渡せてたんですけど、今は教育研修コストさえも削られてきているから、倉貫さんがさっきおっしゃった「大企業の人を育てる役割」も、だんだんしぼみつつあると。だったら副業で自分で会社を作るとか、全然関係ないNPOで自分に何ができるかやってみるとか、成長機会を求めるということは、すごく健全な状況なんだなと思っています。