【ボクらの働き方】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 田原真人(Zoom革命代表) × 武井浩三(ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役)

【ボクらの働き方 第2回】倉貫義人(株式会社ソニックガーデン代表) × 田原真人(Zoom革命代表) × 武井浩三(ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役)

多数決はいらない

田原

民主主義って多数決をやるじゃないですか。分布していても一番保守的な人たちがたくさん真ん中にいるわけですね、一般的には。結局その人たちのところに決まるから、組織を変化させない仕組みになってると思うんですよ。それを自己組織化とか生命的にやるっていうのは、揺らぎがすぐ全体に共有されて、「それいいね」と思ったらその誰かの意見に寄っていく。そういう意思決定の仕組みがすごく大事だと思ってるんです。でもお2人の会社は社長が独断で意思決定する会社ではない。ある意味トップダウンの会社だと、目端の利く社長がいて、「俺がバックアップしてやるから、お前のアイディアやれ!」と、揺らぎに対して、リソースを振り分けていったりできると思ってるんです。そういう「社長」の権力を少なくした時に、その部分はどうなるんだろうという疑問が湧いたんですけども。

倉貫

うちの会社、言ってもきかないんですよね。そういう仕組みにしておいてあれなんですけども、カチンときます、たまに。思いつくのはやっぱり僕で、流行を作るというか、ムーヴメントを作るんです。昔やったのは、日報じゃなくて日記。日記の方が、在宅してる人たちの仕事以外の様子もわかるからいいかなと思って。でも「日記を書きなさい」って業務連絡をしてもみんな書くわけがないので、最初言い出した僕ともう1人で楽しそうにやったんですよ。きゃっきゃしながらコメントし合ったりする。そうすると「なんか楽しそうだな」と輪に入ってきますね。そこから日記ブームがくるんですよ。逆に思いついてやってみても、ムーヴメントにならないやつは自然に廃れます。新しい文化が起きる時は、誰かがやりだして、みんなが楽しそうだなと入ってきたら流行るし、流行らなかったらそれはそこまでの制度だったってことでおしまい。

武井&田原

うーん。

倉貫

だから指示命令できる会社の方がなんぼか楽だと思います(笑)。

田原

なるほど。

武井

多数決って民主主義じゃないと思うんですよね。全く別物だと。あれってITがなかった、前時代の意思決定の方法で、しょうがないからやってたと思うんです。民主主義的な会社を作りたいと思って多数決を導入したことがあったんですけど、やればやるほど会社が硬直化していくんですよね。

田原

(笑)

武井

だってマジョリティをとるわけじゃないですか。マイノリティを捨てる。リーダーシップって絶対にマイノリティですから。

田原&倉貫

うんうんうん。

武井

リーダーシップって、他の人が見えてない中で、「次はこれでしょ!」っていう言い出しっぺみたいなものでしょう?でもそれが多数決を繰り返せば繰り返すほど、失われていくんですよね。2年間くらいやって、どんどん会社がダメになって行ったんですよ。業績はどんどん落ちるし、全員が同じ意見にたどり着くなんてやっぱりなくて、意思決定もできなくなっちゃって、身動き取れなくなったんですよね。結論として「全然よくねえじゃねえかこれ」と。
なので多数決やめました。いいと思ったらとりあえずやってみればいい。いいものは残るし、ダメなものは廃れるし。

倉貫

そうですね。自然に淘汰されますもんね。

武井

それやってみて、世の中を見渡してみると、今の世の中の仕組みって全部多数決で決まってるんですよね。政治もそうですし。会社法の取締役も取締役会で多数決で決まりますし、株主の議決権も多数決ですし、それは今の世の中の会社悪くなるわ!と思ってですね。それで今度はシステム的に会社の中を多数決で決めない制度設計に取り組んでいます。うちの会社の場合は社長役員を毎年選挙で決め直すことによって、役員の多数決を無効化してるんですけど、今年取り組んでいるのが、株の議決権を切り離して、会社の中に働く人みんなが組合員になる株の管理組合を作るという試みで、そこに議決権を持たせるんです。そうすると実態として個人が権力を持たなくなるんですよね。それを実施しようと思っていて、今監査法人に確認をとってるんですけど。「前例がなくて何も言えない」って言われちゃって(笑)。

一同

(笑)

武井

税理士さんからも「何がしたいんですか?」って(笑)。「権力をなくしたいんです」って言ってるんですけど、「意味がわからない」って、理解してもらえない(笑)

倉貫

いや、うちもね税理士さんや社労士さんに全然理解されなかった(笑)。5年くらい付き合ってようやくわかってもらえたけど。

目標も計画も持たずに、どんどん変えていく

田原

武井さんの面白いところは、一通りまず全部やってみるってところから始まるじゃないですか。多数決も、何年やってみてこうなったからやめたっていう、その試行錯誤の積み重ねがすごいなっていつもお話伺ってて思うんですけど。

武井

相当遠回りですけどね。それは多分ただ単に僕が社会経験がないっていうだけだと思うんですけどね。「経営はどんぶり勘定ぐらいがちょうどいいんだよ」なんてよく言うじゃないですか。間に受けて「管理会計やめちゃおっか」って本当にやめたら会社潰れそうになったとか(笑)。

一同

(笑)

武井

そりゃ会計しなきゃダメだよって話ですけど。そういう凡ミスですよ単なる。

倉貫

やってみてリカバリするんですね。始めるのも軽いけど直していくのも軽く直せるから、トライできるって感じなのかな。「始めたからにはやり続けなきゃ!」だと、始めるのもなかなか難しくなりますよね。

武井

そうそうそれすごい重要です。うちの会社、取り組みをやめる仕組みとか、もっと捨てる仕組みとか、やめやすい仕組みを整えてるんですよ。出口を整えると入り口が寛容になるんですよね。「とりあえずやってみるか」ってなんで言えるかっていうと、簡単にやめられるからっていうのが重要だと思って。3ヶ月に1回会社の中をひたすら断捨離するんです。その時に、PL、BSも断捨離するんですよ。

倉貫

(笑)

武井

無駄なコストとか、各人のパソコンのデスクトップとか、クラウドのドライブとか、そういうとこもバンバン捨ててくんですね。月額で契約してるクラウドサービスで使ってないやつとか。IT系だと新しいサービスってすぐ課金して使わなきゃダメじゃないですか。

倉貫

ね。それでいっぱい契約したりしてますからね。使ってないのに。

武井

でもそれで3ヶ月ごとに見直して、無駄を排除するようにしてるので、「とりあえずやってみよう」ってみんな言いやすいんですよね。

倉貫

制度も棚卸ししていけばいいんですよね。

武井

多分一般企業って、1度やり始めたことを、死守するっていう圧力がすごく強いんですよね。

倉貫

そうですよね。多分普通の会社は1年単位で計画立ててそれを守ろうとするんです。目標とか計画の悪さってそこだと思っていて、立てたからには達成するのを頑張る、みたいに途中で思考停止しちゃうんですよね。「思考停止しないこと」というのがうちの会社の理念なんです。目標決めて計画通りやるのって、実は楽なんですけど、毎週毎月、ミーティングして変えるもんは変えていきます。つい先週言ったことも「ごめん」とか言って変えるし(笑)。でもそれ、目標も計画もないから変えられるんですよね。

武井

すごいわかります。でもうち予算のシミュレーションは結構見られるんですよね。予算を立てることとシミュレーションを練ることは全然別物だなって思っていて、今の売り上げや伸びを加味して、3ヶ月後、半年後どうなるかなというのを色んなパターン練って、いい場合だったらここまでいくだろう、最悪の場合はコストがこのぐらいかかるから、損益分岐点がここ、なんて数字の部分はすごくシビアに把握してるんですよね。

倉貫

わかります。見通しと計画は違うんですよね。

武井

シミュレーションした上で、でもそれは目標として守らなければいけないものではなくて、1パターンとして認識しておいて、あとは今現在を細かくチェックしていくっていう。

田原

計画に入った瞬間、その計画に関係する情報だけが入ってきて、その関係しない状態がノイズとして落とされるじゃないですか、無意識に。そうすると、その計画が仮に達成されたとして、どれだけの「もしかしてよかったかもしれない」情報を無視し続けてきたのか。そこが嫌なんですよね、僕も。

武井

計画の抽象度を上げていくと、ビジョンとか理念になってくるなと思ってます。言葉遊びみたいな感じですけど。うちの会社はもう理念すら明文化しないって決めていて、強いて言えば「自然の摂理にのっとった経営をする」、ただそれだけが理念みたいなものですね。一般的な会社、もしくは強いコントロールがある会社って、理念を「現場をコントロールするツール」として使うわけじゃないですか。「うちの会社はこの事業で世の中をこうする!」とか「必要とされる会社」とか。でも我々からすると「いやそれコントロールだから」と。しかもそういうものと、組織設計と人事評価制度とかが全部連動してて、それに基づいて現場の人が動く、つまりトップにコントロールされるという。でもそうするとおっしゃる通り、それ以外のものを見る必要がなくなりますからね、多分想定外のことは起こらなくなると思うんですけど、逆に奇跡が起こらなくなると思うんです。
うちの会社も一時期管理をしっかりしようとした時期があって、

倉貫

え、ちゃんとしようとしたの?(笑)

武井

はい(笑)。でも管理を突き詰めていくと、想定外のコストとかはなくなるんですけど、なんにも奇跡が起こらなくなって、会社も仕事もドンドンつまらなくなっていく。

倉貫

いやーつまんないね。

武井

ちっこいベンチャーで奇跡が起こらなかったら、つまんないアルバイトと変わらないですから。そういう考えを捨ててからまた会社がよくなっていったので、やっぱり何も決めなくていいんだなって(笑)。

倉貫

本質的にそういう仕事つまんないですよね。楽しく仕事したいので、風紀委員みたいなやつ嫌いです。

一同

(笑)

倉貫

別の目的があるならね、上場するとかのタイミングで風紀委員が必要なのかもしれないけど、そうじゃなかったらいらないなあ。

思考の枠組みをずらすと、見えるものが変わる。

田原

思考がリフレーミングする瞬間に、外にものすごい影響力が広がるなっていう実感があるんですよ。ずっと思い込んでやっていたことに、「あ、違ったんだ!」と気づいた瞬間、ふっと思考の枠組みがずれてその人自身に変容が起こるじゃないですか。そこからその人だけじゃなくて、周りにもその影響が波紋のように広がっていく。その「枠組みがずれる瞬間」に奇跡が舞い込む可能性があると思っているんですよ。枠組みがずれて動く時、今まで見ていなかった可能性にも広がる。そこに違うものが入ってくる可能性と、その変容の可能性が周りに広がって、コミュニティの中に火花が散り始めると、どんどん面白い状況になる。それが社長のような大きい存在のフレームが動く瞬間は、組織にとってはすごい影響になりますよね。僕のコミュニティも、「ああ、自分がボトルネックになってるな」みたいな状況に定期的になるんですけど、そこを動かした瞬間また新しい展開を見せてくれるんです。

倉貫

リフレーミングはどういうことがきっかけで起こるんですかね?その人にとって。

田原

何かに困って、最初は周りをなんとかしようとするんですけど、結局「自分のこだわりがこの状況を作ってるな」ってわかったら、こわごわ動かしてみる、みたいな感じですね、自分の場合は。

倉貫

実態に合わせて視点を変えるってことですね。自分が見てる場所とは違うところにあるから、その視野を変えるたり広げたり。「こだわり」という枠を外さないと外が見えなくなってるってことですね。

田原

「違うだろそれー!」と思ってたのは、自分のフレームだったからで、それがずれたら、「いやよかったんじゃないの?」って急にひっくり返っちゃう。

倉貫

そういうことが起きるのが、チームとか組織をやってる楽しさですよね。

武井

確かにそうですね。僕自身プログラミングできないし、実務もみんなに頼るしかなくて、それなのにみんながいい方向に向かっていくともうありがたいです。それは自分自身の経験値としても溜まっていくし。僕自身がプログラマとしてガリガリやってたら、もっとうざがられたかもしれないですね。

一同

(笑)

倉貫

そうね。それは僕も同じかもしれない。35で社内ベンチャー始めて、それまで僕ずっとプログラム大好きだったんで、メンバーに対して全部言えるし、なんなら俺がやるし、と思っていたんですけど、経営やるってなってから、プログラムは封印しました。

武井&田原

ほおー。

武井

え、今やってないんですか?

倉貫

いや、今年はまた再開したんですけど。

一同

(笑)

倉貫

プログラムをやりながら経営もできるかなと思ったんだけど、例えば今営業やってる人がちょっと片手間でプログラミングやりたいんです、本気でプログラマになりたいんですって言ったら、プログラマからすると頭にきますよね。僕がちゃんとした経営者になりたいって言いながら、プログラマ辞めずにいたらこれは松下幸之助に怒られるなと思って。だから経営だけに取り組んで、経営の勉強一生懸命して。そうするとプログラムできなくなってくるので、みんなに頼るしかない。社内ベンチャーだったんで、人事権をそこまで持ってるわけでもないし、強くも言えないし、お願いしてやってもらうのがベースにありますね。できなかったのが逆によかったのかな。

武井

松下幸之助さんの本に、社員が千人超えたらもうお願いするしかなくて、1万人超えたらもう祈るしかできないんだよって書いてあって、すげえなあこの人って(笑)。

田原

でもそのやってもらって達成されていくのは、自分がやったときには味わえなかった嬉しさとか喜びがありますよね。そういうのってトップダウン式にやってる人が感じるものと、武井さんや倉貫さんが感じるものは違うんじゃないかなって思うんですけど、どうなんですかね。

武井

そうですね、トップダウンだと現場が自分の思う通りに動いたかどうかが気持ちいいところですからね。そうするとやっぱり手柄はみんなボスのものになっちゃいますよね。

倉貫

武井さんのところも僕のところも、昔ながらの会社を経営してる感じじゃないんですよね。コミュニティがちゃんと稼いでるような。

武井

そうですね。

組織も人もどんどん変化する。

田原

では最後に、今までいろいろ話してきてどういう風に感じたかとか、話しておきたいことがあったらお願いしたいんですけど。

倉貫

最初のテーマでもありますが、会社を自分ものじゃないと思ってるんです。メンバーがいるからメンバーのものなので、社長のものじゃない。最近会社に人が増えてきて、この会社にもう人が入れないんじゃないかってたかだか30人くらいなんですけど思ってるんです。今までいた人とは違う属性の、スキルもキャラクタもちょっと違うような人が応募してくるようになったんですよ。その一方でその人ができるような仕事も別途来るようになってきて、要するに事業部を分けるようなことが起きつつあるんですね。キャラクタやスキルが違う人たちを一緒の会社にしちゃうと、前からいた人たちが、「俺たちの会社を勝手に分けて」ってなっちゃう。で、普通会社を分割するような動きは、社員がスピンアウトして会社作りますという形になると思うんですけど、僕らは逆で、会社がある程度育って大きくなってきたので、社長と副社長が新しい会社を作るんです。今の会社はもうだいたい回るんでみんなに任せて、新しい会社を作って(キャラクタやスキルが違う)新しい人たちをそっちに入れようと。

一同

(笑)

田原

細胞分裂的な動きですよね。

武井

へえーなるほど。面白い。僕は、田原さんの研究されてる「生物がどういう風に進化するのか」っていうのをもうちょっと勉強したいなと思いました。まだまだうちの会社はこれから変化が起こりそうな兆しがあって、その時には多分普通の会社の変化や成長の仕方ではないと思うんで、田原さんの専門のところを勉強したら参考になる気がしてます。例えばそのざわつきとか分裂っていうものが自然界においてありうるものなのか、それとも不自然なのかとか、そういうのはもっと知りたいなって思いましたね。

田原

なるほど。それを受けてだと、僕は大学院を中退して、生命科学を専門にやって教授になったという人でもなく、組織を運営しているわけでもなく、いろいろ中途半端できたんです。でも全部つなげると、「この話をこの人たちに違う文脈で語れる」というようなことができるなって感じ始めています。みんなそれぞれの人生のルートを歩んできて、独自の存在になっているはずなんだけど、「独自な存在である」というところになかなか自信が持ちにくい。けど、それ以上でもそれ以下でもないから、その「独自な存在」というところから発信していこうって始めたところで、多分自分のマインドが変わって、周りも色んな動きが出てきてる。今回の行動もその1つだと思っています。
武井さんとか倉貫さんがその話に加わってくださって、対談も実現して、本当にありがたいなと思ってます。ありがとうございました。

 

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